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幕間 ~騎士団員ポールの供述・6~

 俺はホントなら今日は非番だが、ヘイゼルの体調が気になるんで奴の内警備に付き合った。ミオ様の水魔法は当たりはキツイが効果は覿面で、体調そのものには異常ナシ。ただ眠気だけはどーしょーもなかった。2時間睡眠って、睡眠じゃなくて仮眠だろ。もっとも一発戦争でも起きちまえばそれが日常になるんだがな。雇われ騎士はツライぜ。

 警邏のルーティンルート青空市場では、皆ことごとく同じようなセリフしか言わなかった。


「騎士様、今日は鎧着てないんですね非番ですか?」

「あらでも手足と頭は鉄なのね」

「っていうかその首から下げてるプレートって何?」

「アホの総大将……?」


「アホの総大将……(笑)」


 心の底から放っとけよ、と思ったぜ。行く先々でアホの総大将連呼って大した罰ゲームだ。

 でも、直接絡んでもらえる俺はまだマシだった。


「盗聴って……」

「実行犯ですってよ……」

「盗聴犯……」


と、ヒソヒソされるヘイゼルは精神的にゲッシゲシに削られまくってた。

 通常業務@呪いのプレートっちゃなかなか結構なオシオキだ。外警備の奴らなんかは文字通り命がけだしな。


「ラディウス卿は天使みたいな顔して、やり口はえげつないね」


「今頃気づいたんかよ」


なんて言い合いながら職務を全うしていると、


「お仕事中すみません! ポール殿、ヘイゼル殿」


 響きの良い声が俺達を呼び止めた。シカトするつもりだったけど、俺とヘイゼルは振り向き、女の顔を見た。


「ミオちゃん……どうしたの?」


 ヘイゼルは呑気に応じたが。


 ――違う……今までのミオ様とは何かが決定的に違う。


 スピリチュアルな感覚()が俺の身体を駆け巡った。


「ミオ様、まさか……アチューメント済……!?」


「はいな」


 女は――聖女はあっけらかんと肯定した。

 確かにミオ様は朝食の後片付けとお洗濯終わらせたらかぜまのお勉強♪ なんて浮かれてやがったが、昨日水魔法のアチューメントやったばっかで、今日は風魔法のアチューメントってか? コイツどんだけ魔力おばけだよ。フツーなら体が保たねぇぞ。


「そう、それでね。私のかぜまのアチューメントが終了したから、皆様鍛錬所にお集まり下さい、ってカノン様が。ドサ回りじゃねぇや外警備の人達には先にカノン様が伝令お願いしてたから、もう戻ってくると思うの。

 なので、ヘイポーコンビじゃなくってヘイゼル殿とポール殿は、私と一緒に鍛錬所に行きましょ♪」


 あなた達は特に絶対逃がさないでってカノン様が言ってた、と、ミオ様は不穏な台詞を吐いた。

 そういうわけで俺達は鍛錬所に連れて行かれた。ユタシビリアンのアホの総大将いじりに辟易してたんで正直助かったって気分だった。でもそれは地獄への招待状ってヤツで、腹黒聖女にノコノコとくっついてくモンじゃねぇぞと、この時の自分に伝えられるモンなら切実に伝えてやりたかった。




 鍛錬所には既にプレートメンバーが総集結していた。

 運悪く本日外警備のシフトに当たってたアレンなんかは鎧ナシすっぴんで外に出る恐ろしさを力説していた。見たトコ散々な目に遭ったらしい。


「んで? 誠心誠意オシゴトに邁進していた俺達は、何だってこんなトコに呼び集められたんですかね?」


 俺は、機嫌よくにこにこしているカノン様に訊いた。


「ミオ殿の風のアチューメントが完了致しましたので」


「それはさっきミオ様ご自身から伺いましたが?」


「そうですか、それは結構。

 ですので貴方がたには、ミオ殿の風魔法の練習台になっていただきます」


……。

…………。

……………………。


「は!?」


 いやいやいや、ちょっと待てよ。今とんでもねぇー幻聴が聴こえたぞ。


「百数十年ぶりにお迎えした待望の聖女様の魔法をその身を以て味わえるのです。騎士の誉れと言うべき快挙ではありませんか」


 カノン様はにっこにこでミオ様に、


「では呪文は先程のアチューメントの時と同様に。風だけでいいですからね」


とか言っている。幻聴じゃない、これは現実だ。

 おれはにげだした! しかしまわりこまれてしまった!


「ポール、どちらへ?」


「いやー、あのー、小官只今内警備の最中でありましてー、任務を続行いたしちゃったりなんかしたいかなっ、と」


「貴方がそんなに職務熱心とは珍しい。街中警邏はランス殿の班に戻っていただきましたからご心配なく」


 オイオイ、竜騎兵隊長の班っちゃ今月いっぱい駐屯地に詰めてるハズだろ? ソレ呼び戻すってどんな職権乱用だよ。ユタの奴らに借り作ってんじゃねぇよクソオラクルが。


「逃げ出したい方はどうぞご自由に。氷漬けか目潰しか石つぶてかは騎士の情けで選ばせて差し上げます」


 カノン様は晴れやかに笑って宣言した。俺達は観念した。




 今日の今日でいきなり実践って無茶が過ぎるだろ、という俺達の懸念は見事に的中した。黒瞳の聖女は色んな意味でヤバかった。


「えーっとぉ~……軽快にして自由なる風の魔力よ、あ、違った我が内なる魔力よ、じゃないや、……我が内なる風の魔力よー……」


 アンチョコ見ながらたどたどしく唱えるミオ様にゃ悪いが俺達は失笑した。まぁな、今日の今日でぶっつけ本番じゃあな、こんなモンだろ、と。


「……んと、この世のすべてに慰撫を与える姿無きものよぉ~、我が念に応え、出でよ、風!」


 直後、俺達は荒ぶる暴風雨に吹っ飛ばされた!

 言っとくが、暴風、じゃなくて、暴風雨、な。風の呪文で何で水まで出るんだよこの黒聖女ワケわかんねぇよ。そう言やコイツ、メイド・イン・ラディウスの結界の内側から石投げてヘルコンドルに応戦してたりしてたよな。もう駄目だ、コイツに常識は通用しねぇ。

 ずぶ濡れのズタボロで地に伏す鎧ナシすっぴん騎士連中の中で、カノン様だけはひとり咄嗟に土のシールド張って無傷だった。汚ねぇぞカノン様、俺らにも張ってくれよ!


「ミオ殿、ミオ殿。風だけで結構ですよ。故郷のタイフーンとやらは一端忘れましょう」


「うーん……アチューメントを台風でやっちゃったからなぁー。台風ってどーしても風と雨がセットっていうか」


 神託の主(オラクル)と聖女がすっげぇ怖ぇーえ会話を交わしている。俺達モブ騎士はコソコソとハンドサインを交わす。うっかり耳に入って逆鱗に触れちゃシャレになんねぇからな、あの威力は。


「なぁ、水と風同時にって、フツーに合体魔法ってヤツじゃね?」

「1人合体魔法って、最早合体って言わないんじゃ……」

「恐るべしタイフーン。聖女様の故郷は自然災害が多いのだろうか……」

「しかしあのたどたどしい詠唱でよく発動するよな」


 カノン様は困り顔を作りながらも嬉しそうにウキウキしてやがる。


「やはり呪文を言おう言おうと一生懸命になってしまうようですね。昨日も申し上げましたが、魔法はインスピレーションとイマジネーションがすべてです。呪文も一端、脇に置いておきましょう」


 オイオイそんなんでいいのかよ。カノン様、俺には型を破るな、型破りとは嵌る型があってこそ、まずは基本に忠実に、とか説教かましてくるクセに。何だってミオ様にはそんな甘いんだよ。

 カノン様はちょっと考えて、ずずいっとアレンを前に押しやった。


「ではミオ殿、詠唱は結構ですから。コレに当ててみて下さい。幸い大きな的ですし、頑丈に出来ておりますからね」


「はーい先生!」


 オイオイ……俺らは呆気に取られて口ポカーンだ。的にされたアレンは観念してひとこと。


「お手柔らかに頼みます」


「そしたら、軽めに」


 ミオ様は言って、半眼になった。無言のままで風が起きた。強風はアレンだけでなく周りのモブ騎士も巻き込んでぶっ倒した!


「ぐふっ!」

「詠唱! 詠唱してくれ~避けるタイミングがわからんぞぉぉぉ!」

「軽めにって言っただろうがよ~!」

「このクソノーコン聖女様めが~!」

「嘘つき~!」

「人殺し~!」


 哀れな巻き込まれ騎士の泣き言が聴こえる。カノン様は土のシールドで自分だけちゃっかり安全圏だ。ずりぃぞカノン様。


「ミオ殿、これは一体何の具現化ですか?」


「んーと、バイクの風圧?」


 ミオ様は謎の言葉を口にした。俺達は頭にクエスチョンマークを大量発生させたが、カノン様は心得たものだ。


「ばいく……貴女の世界のお馬さん的なのりものですね」


「身近な風っていったらコレ一択っしょ。もっとも私のかわいいjazzたんは原付でメーター60までしかなくて、30超えたら速度超過の赤ランプ点くから、風圧と言っても大したコトないかなーって感じですけど」


 いや充分大したコトあんだろ。誰か脳震盪起こしてるアレンを介抱してやれよ。


「威力はなかなかですが、これでは混戦状態の時に味方まで巻き込んでしまいますねぇ……」


 カノン様、口調はのほほんとしてっけど楽しそうだな。


「お次の的はこちらです。威力は求めませんから、コレ単体に当てて下さい」


 カノン様は次の生贄にヘイゼルを指定した。


「盗聴の実行犯ですからね。確実に沈めていきましょうね」


 んふふ、と含み笑ったカノン様に、ミオ様は、はい! と、元気なお返事。そして、


「行っけー! 超 電 磁、タ・ツ・マ・キ~~~!」


 詠唱もへったくれもない叫びと共に竜巻が起きて、ヘイゼルはバッタリ倒れた。

 その後も、カノン様の指名で続々とモブ騎士が生贄に捧げられた。

 的にされたモブ騎士はミオ様の珍妙な技でバッタバッタとなぎ倒される。習得上達共に早そうと太鼓判を押したラディウス当主の目に狂いはなかった。散弾銃でカ・イ・カ・ン……とか、勝負は一発スペ一スバズ一カ! とか、一体何なんだよ。ミオ様が言うにゃ全部故郷のいにしえの技らしいが、ミオ様の故郷マジでどーなってんだ。


「さて」


 カノン様の視線が俺を捕えた。鍛錬所にはモブ騎士の屍累々だ。


「待ってくれ! 俺には故郷に妹が!!」


 俺は何ふり構わず叫んだ。


「妹御には兄上は立派だったとお伝えしておきましょう。

 さぁミオ殿、コレこそが貴女を泣かせた張本人。諸悪の根源、アホの総大将ですよ。手加減など要りません、存分に懲らしめておやりなさい」


「OK,Boss!」


 ぴっ! と、妙てけれんな敬礼(?)と共にミオ様は舐めるように俺を見た。捕食者の目だ。本能的な危険を感じ、逃げを打つ俺にカノン様が耳打ちした。


「動かぬ方が身の為です。彼女の力量は判ったでしょう。力の大きさに反してコントロールが甘いので下手に動くと死にますよ」


「…………」


 俺はミオ様を見た。ミオ様は舌なめずりせんばかりに俺を見ている。俺は思わず叫んだ。


「お願い、聖女様! 優しくして!!」


ブクマ評価等ありがとうございます。とても嬉しく励みになっております。


さて、お仕置きの本番です(by.自称優しくはないハイプリースト)

練習台のモブ騎士「コレ」呼ばわりです。せめて人間扱いしてあげて下さい……。


「故郷のいにしえの技」連発の聖女様。

楽しそうで結構ですが日本の文化が誤解されそうなので程々にしていただきたいものです。

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