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男たちの決意

「「はぁーーーーーーーー……」」


 転がらない程度には冷静さを取り戻した武人と優佳、多少ながら冷静さを取り戻した二人は二段ベッドの一段目に腰を下ろしそう溜息を吐いた。


「芳澤嬢様、携帯の電源は?」

「勿論切ってある。場所がバレるのは困るからな」

 相馬は予想通りの返答が返ってきたことに安堵した。まぁ実際に電源が入っていたら武人が遭遇する前にボディーガードに発見されていたので電源が切ってあるのは予想していたがそれでも本人の口から聞けたのはとても重要である。

 同時に小学生ながらそういった細かい所に気が回る事に少しばかり相馬は感心した。


「一先ずだ、今は状況を整理して互いの主張を聞こう」


 顔を上げた優佳が全員の顔を見渡すように言った。


「さっき武人から聞いた話では御代様の合意の元、武人が御代様をここまで連れてきたという話だったがそれは間違いないんだな?」

「そーだよ。はぁ……やっちまったなぁ」


 優佳に質問された武人はやるせなさそうに答えた。


「そ、それで御代様……一体何故このような事を?」


 財閥のお嬢様と瑠々を認識し直した優佳は『様』を付けると恐る恐る聞いた。


「ん、まぁ単純に言うと当ての無い家出をしてたら武人に偶然会ってな。だから流れで寝る場所が手に入ると思った」

「もう少し警戒してください……。どうみてもこの服装と人相の悪さから近づいてはいけない者の要素を凡そ兼ね備えているでしょう?」

「おい優佳お前容赦無ぇな」


 さらりと罵倒した優佳に軽く罵倒された本人がツッコんだ。


「ん、私は別に外見なんて気にしないぞ」

「そうですね。武人の外見に問題なんてありませんでした。素晴らしい容姿です」

「お前さっき自分で言った事思い出してみ」


 武人は自身の肩に手を置く優佳を半眼で見つめた。


「優佳と相馬は今初めて会ったけど良い人そうだな」


 優佳と相馬を見ながら瑠々は言う。


「そうでもねぇぜ瑠々。こいつら人の頭すぐ叩くんだよ。バカになっちまう」

「おい瑠々『様』だろ!? 何で呼び捨てにしてるんだ武人!!」

「ンだよいいだろ別に!! ガキだぞこいつは!! ってかお前俺の頭を叩く事に何も反応しねぇのなこの人でなし!!」

「子供であると同時にこの方は財閥の令嬢だ!!」

「やっべ聞く耳もたねぇや俺のダチ!」


 唐突にギャーギャーと言い合いになる二人、そこに瑠々が口を挟んだ。


「別に私は気にしてないぞ」

「御代様!? し、しかし……」

「ほーれ見ろ見ろ」

「ぐぬぬぅ……」


 武人の煽るような表情と声に優佳はそう声を漏らし半眼で武人を睨み付けた。


「落ち着け、話が逸れてる」


 ここでここまで口を開いていなかった相馬がそう言って三人の輪の中に入った。

 武人たちが入学してから一年、主に問題を起こす武人にそれを説教したり、時には止めようとしたりする優佳だがこの一年間大体のそれは口論になる。

 だが事今回に至ってはそんな事はしていられない。

 そう考えた相馬は嫌々ながら輪の中へと入った。


「まず御代嬢様、よくボディーガードを下校時に振り切れましたね」

「存在感を消したり死角に入ったり、護衛を撒いたり気配を消す練習をした」

「お前おじょー様のくせに何アサシンみてぇな訓練してんだ」

 武人のツッコミに瑠々はジト目のままドヤ顔を決め込んだ。

「状況を整理する。御代嬢様の家出によって警察、多分御代の家の人間も動いてる。流石にそれだけの人員が捜索に割かれれば当て無し家出のお嬢様は見つかり保護された。……はずだったんだろうけどどっかの馬鹿がここに連れてきた」

「てへっ」

「……ツッコむな、優佳」


 現実逃避から陽気な返事をした武人に手刀を繰り出そうとした優佳を相馬は言葉で制止した。


「本当に、いらないとこで武人は無駄に高い身体能力と回避能力を発揮する」


 そう、時間的に武人が瑠々を連れてここまで来る道中。既に多くの関係者が瑠々を捜索し市内中を探していたはずである。しかし不良特区で培われた身体能力、回避能力、それらを有する武人は彼らの捜索を悉く躱してしまったのだ。


「いやぁそんな褒めるなよ!」

「優佳」

「ていっ!!」


 流石にイラっとした相馬は優佳に先程とは異なり引っ叩いていいという旨の言葉を発し優佳はそれに応じて武人の頭に今度こそ手刀を繰り出した。


「ってぇ!?」


 見事にそれがクリーンヒットした武人はそう言って頭を押さえた。


「このまま、御代お嬢様を匿うのも限界がある。いずれ見つかって、そうしたら俺らは捕まる。まぁ御代嬢様が弁明してくれればちょっとは冤罪になる可能性もあるが、希望的観測は無しにしたとして、俺たちは残りの人生を刑務所で過ごす事になる。昔と違って未成年にも今の法律はあまり優しくないからな」


 相馬は言った。

 ボディーガード訓練校に通い、将来はボディーガードとして人を護る。

 そうなるはずの人間が、人を誘拐したという罪で捕まり刑務所に入りその後を過ごす。

 それはここの学生にとって、あまりにも酷な事であった。

 だから三人は言葉に詰まり、何も言うことが出来なかった。


「私は、邪魔……か?」


 突然だった。

 武人、優佳、相馬の負の方向へと向かう事を止めぬ会話に瑠々が声を上げたのだ。


「い、いえ!!決してそのような事はありません!!」


 優佳は慌てて瑠々をフォローしようとした。

 瑠々の声が沈んでいた事から、彼女が自分がここに居てはいけないという思いを秘めている事を即座に感じ取ったからだ。

 優佳のフォローは彼の心の底から出たものだった。

 瑠々様を悲しませたくない、全くと言っていい程濁りのないその気持ちを優佳と言う人間は持っている。小学生の少女を無下にするなどという考えはどんな状況であっても誠実であり実直な優佳は持ち合わせていない。

 しかし瑠々はまだ子供なのだ。更に護られ続けてきた子供故に心がまだ幼い。

 暗い気持ちになった瑠々は目を見る事をせず、自分の気持ちを優先し顔を俯けた。

 だから優佳の目は見えず、ただこの状況で自分を落ち着かせようとしている苦し紛れの言い訳を優佳がしているように感じる事実だけが残った。


「……おい、瑠々。そういやまだ肝心な事聞いてなかったな」

「……ん?」


 瑠々はやけに先程よりも武人の声が近くで聞こえるのを感じ思わず少し顔を上げた。

 すると瑠々の知らぬ間に武人は瑠々の正面へと移動しており目線に先程のような高低差が無くなり、距離も大分近くなった。


「結局、お前は何で家出したんだ?」

「そ、それは……」


 武人の問いに、瑠々は口籠る。

 瑠々は武人が問を投げかける時、当然だがその声を聴いた。だがそれだけではない。

 彼女は武人の顔を見たのだ。今までの語調とは一変して有無を言わせぬ意を持った声に圧されて顔を、目を見ずにいられなかったのである。それ程までに武人の目はその声よりも更に強い意志を持っていた。

 瑠々は今まで何か話題を転換する事で武人のこの問いを避けてきた。だが、今の武人に

はそれは通用しない。瑠々に即座にそう思わせるほど、武人の声圧と眼圧は凄まじいものだった。


「……お父さんに、……構って……ほしくて」


 言った。


 多少ぼそぼそと言ってるがそれでも辛うじて聞こえる声で、瑠々は言った。

 少女はただ父親に構ってほしかった、だから家出をして自分に気を引こうとした。

 つまりはそういう事である。

 今宵何度目であろう、数秒の沈黙が訪れた。しかしそれは一人の不良少年である武人によって破られた。


「ククク……」


 武人が笑ったのだ。まるで堪えていたものが出てしまったかのように、我慢できずに笑ってしまったかのようだった。


「ハハハハハ!!!ブヒャハハハハハハハ!!!!」


 そして次の瞬間には彼は腹を抱えて笑った。それはもう大爆笑と言って差し支えないに。


「な、何で笑うんだ!」


 瑠々は笑われた事に赤面し、恥ずかしさ故に声を上げた。


「いやいやワリィワリィ。……いやぁ、思わせ振りな言い方の癖に随分理由がガキっぽいって思ってな」

「~~~////!?べ、別にそんな事……」


 赤面のまま瑠々は武人から顔を背けた。


「オメェが家出したワケは分かった……いいぜ、協力してやるよ」

「え……?」


 武人の言葉に、瑠々は自分でも思わぬ声を出した。


「つっても、今日一日だけだ。それ以上は多分キツい」

「いいのか……?」

「だぁから良いつってんだろ」

「で、でもっ」


 そう言いながら瑠々は優佳と相馬を見た。

 二人は先程の会話から瑠々の家出にあまり肯定的ではない。武人が良しとしても二人はどうなのか、その思いが過ったのだ。


「瑠々様、本来ボディーガードの身であれば俺は自分がどんな目に合おうと貴方を家へと帰します。それこそが最も最善の判断だと考えるからです」


 今、瑠々を帰せば事は優佳達が捕まり瑠々は家へと戻りそれで全てが終わる。

 護るべき相手であるお嬢様、それを第一に考えた時優佳は自分の身など気にはせず、最善手を取る。

「ですが、生憎今の俺はまだボディーガードの卵です。俺に貴方を護衛する権利は存在しません。ですから、俺も武人に乗ります。貴方の願いを叶えるために助力する事をどうか許していただきたい」

「もっと分かりやすく俺と一緒に匿いますって言やぁいいのにっていてぇ!?」


 武人の何気ない呟きの最中、優佳は彼の頭をはたいた。


「で、お前はどうすんだよ相馬」

「分かってる事を聞くな、この状況で今更引き返せない……それに武人、お前がもし捕まったら絶対俺の事チクるだろう」


 相馬の問いかけに武人はニヤリと笑う。


「俺も武人に乗る、御代嬢様を一日匿う」

「つーわけだ瑠々。てめぇのオヤジ、振り向かせてやろうぜ!」


 覇原武人、成宮優佳、伊尾相馬。

 三者思いはそれぞれ異なってはいる。純粋な思い、打算的で合理的な判断、それは様々だろう。

 だが三人の根底にあるのは同じであった。それは 一人の少女の、子供らしい願いを叶えてあげたいという善良な思いだった。

 この三人、性格もバラバラではあるが共通している所がある。

 この男三人は各々色々な方向でバカであるが基本良い奴らなのだ。

 彼らは共に大きな危険を背負う事を決意した。

 

 これが、長い長い夜の始まりだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!!

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