アウト
「武人が幼女誘拐犯にいぃぃぃぃぃ!!!」
目に映るものから合理的に情報を整理した優佳は、寮中に響き渡るかのような叫び声を発した。
「待てぇい!!」
少女と腕に掛かったランドセルを高速で降ろした武人は慌てて優佳の口を塞いだ。
「もしもし、警察ですか」
しかし今度は傍に居た相馬がいつの間にか携帯を取り出し警察に連絡しようとしていた。
「わぁ!? だからちょっと待てってお前ら!!」
武人はそう言いながら相馬の携帯を奪い取り通話ボタンを切った。
「これには訳があんだよっ!!」
「一体どれほどのどういう訳があれば自室に小学生の少女を連れてくるんだっ!!」
「そ、そいつが帰りたくないっていうから連れてきたんだよっ! 変な事するために連れて来たんじゃねえ!!」
「観念するんや、武人」
「相馬てめぇはぜってぇ面白がってんだろ!!」
似非関西弁で武人を諭そうとする相馬に武人はツッコんだ。
「武人!」
「い、いや優佳だから聞いてくれって……!」
子供が帰りたくないと言ったところで武人は連れて帰ってくるような事をする男ではない。だがあの公園で少女が放った「帰りたくない」という言葉に確かな意思を感じた。
武人はそれに反応したのだ。
しかしそんな事を優佳や相馬に言ったところで信じてもらえるわけも無く、そもそも何と説明していいのか武人本人が分かっていなかった。
絶体絶命、弁明の余地が無い武人は脳内で警察に手錠を掛けられる未来を想像してしまった。
だが思わぬところから助け船が出た。
「武人の言っている事は本当だぞ」
その声に優佳と相馬が振り向く。
声を出したのは武人が連れてきた少女である瑠々だった。正直全く弁明を期待していなかった武人は彼女が口を挟んだ事に少なからず驚きを隠せなかった。
「ほ、本当なのかい君?武人の腕力に逆らえず誘拐されたわけじゃない?」
「おう」
瑠々は胸を張って言った。
「サンキュー瑠々!お陰で俺の無罪が消されたぜ!」
「家出先を十分も経たずに出されるなんて御免だからな。お安い御用だ」
武人のサムズアップに瑠々もサムズアップで返した。尚、表情と声の抑揚には相変わらず変化が無い。
「いや客観的に見て十分誘拐犯だからな!?」
「ハハハ!なーに言ってんだよ優佳。俺は善良な心で子供の願いを叶えてやった好青年だぜ?」
「本気で言ってるのか!? なら自分がやったことを思い返してみろ!!」
「全く何言ってんだか……いいぜ分かった分かった」
武人はそう言って腕を組み目を瞑る。
数秒後。
「誘拐犯やん……俺」
冷や汗をだらだらを流しながら頬の引き攣らせながら笑顔の武人は言った。
「わぁー!!!どうしよどうしよ!!!源作に問題起こすなって言われたばっかなのにガキ誘拐とかマジでもうぅああぁ!!!」
頭を抱えた武人はそのまま床をゴロゴロと転がり回った。
「だから言ったろ!今からでも遅くない!!俺も一緒に行ってやるから事情を説明して何とかこの子の親に説明を……」
「いや、それ多分無理」
いつの間にやらネットを閲覧していた相馬が突然そう口を挟んだ。
「む?どういう事だ相馬」
「その子供、どっかで見た事あると思って令嬢のデータベースをハッキングしてして調べてみた。そしたら」
相馬は充電ケーブルからノートパソコンを外すと画面が優佳に見えるように相馬はそのパソコンを近くまで持って行った。
そして優佳はパソコンに表示されたものを見せられた。そこには瑠々の顔写真、そして瑠々の詳しい経歴が書かれていた。
「何々?御代財閥……」
四文字、それを声に出して読み上げただけで優佳の中の時が数秒停止した。
数秒後、再び時が動き出した優佳は恐る恐る振り返り武人が連れてきた少女の顔を確認しパソコンの画面に表示されている写真を見た。
何度も交互に少女の顔をパソコンの写真を見た。
というよりそもそも優佳ならば財前学園初等部の制服を着ている時点で何かしらの令嬢である事は分かるはずなのだが武人が小学生を連れて来たという絵面が強すぎてそれが頭から消え去っていたのだった。
「い、いや……い、いくら財閥の方でもし、しっかりと話せば……」
「いやぁ、無理だと思う」
相馬はそう言いながら今度はテレビのリモコンを手に取りテレビの電源を入れた。
するとチャンネルではニュースが流れておりニュースキャスターの女子アナがニュースを読んでいた。
『御代財閥の一人娘である御代瑠々様が今日午後三時頃から行方が分からなくなりました。警護のボディーガードが居た事から御代瑠々様は相当人攫いに長けた誘拐犯に誘拐されたものだと思われます。これを受け警察は大規模な捜索を決行、開浜市を含める周囲の市を全力で捜査しております。何か情報がありましたら警察、もしくはこちらのテレビ局までご連絡下さい』
多くの警察車両が市内を捜索している映像と共に女子アナの淡々とした声がテレビでは流されている。
顔面蒼白、その四文字に準ずる顔をした優佳は
「アウトォォォォォォォォォォォォォ!!!!????」
そう叫ぶと武人同様決して広いとは言えない室内の床を転がり始めた。
チョコンと座っている瑠々を中心に武人、優佳両者共にうずくまるように膝を抱えクルクルと転がるその様は中々に奇怪なものである。
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