少女の涙
「どうだっ!!」
一時間後、武人はすっかり熱中して小学生の少女に最早大道芸に近いアクロバットを披露していた。
武人が一つ技を見せる度に瑠々がパチパチと拍手をして称賛する、そんなやり取りが繰り返し行われ続けた。
武人もこうして様々な動きをするのは久しぶりだったので途中からはかなり熱中して自分の身体を動かしている。
やがて凡その動きをし切った武人はふぅ、と一息つくと瑠々を見た。
「ま、ざっとこんなもんだぜ!」
「すごいぞ武人、お金が取れるレベルだ。今持ち合わせがあれば即金で払ってやりたいぞ」
「いやぁ俺もこんな風に色々身体使うのは久々だったからいいってことよ!」
「そこは少し謙遜しろよ。持ってたら本当にもらうつもりだったのか?」
「ケンソン?なんだそりゃ。俺の辞書にはンな言葉ねぇな」
武人が大真面目な顔で言うと瑠々はクスリと笑った。
「面白いな。武人は」
「あったりめぇだろ。俺ほどのコメディアンはそうそういねぇぞ」
その武人の返しが更に面白かったらしく瑠々はまた、はにかむように笑った。
「……じゃ、俺はそろそろ帰るわ。良い時間だしな。お前もさっさと帰れよ」
会話の区切りも良い、時間的にも頃合いだと思った武人は腰を首や腰を鳴らしながらそう言った後、踵を返すと公園の出口へ向かって歩いた。
「武人、仮にもお前は年上だろう。こんな火がほとんど暮れかかっているこの状況でこんな少女を一人で置いて行くつもりか?」
「いやだから帰れって!帰る家あんだろお前には!?」
空が大分暗くなっている。
それでも瑠々は家に帰らないと言っているのだ。
おいマジで家出する気か?アイツ。
どうせ実行しない、そう判断していた武人はどうやら瑠々が本気である事がここにきて
ようやく分かった。
いやいやいや、ヤだぞ俺ガキのお守りなんて!!
それは武人の心の底からの叫びだった。
腹も減っているから早く寮に帰りてぇんだよなぁ……。
武人にとってここでこんな面倒事を片付けなくてはならないなんて事は絶対にしたくな
いのである。
「は、ははは。い、いやぁ……さっきはあんな事言ったけどさぁ。や、やっぱ帰れる家があるってのは大事っていうか? ……うん、帰った方がイイとオモウナぁ!」
声を上ずらせながら必死で武人は少女に帰宅を勧めた。
「……」
武人のその言葉に瑠々は少し涙を浮かべた。
「いやだ……帰りたくない」
そして、消え入りそうな声でそう言ったのだ。
「お、おい……」
瑠々の言葉に乗っている思いが何なのか、頭が悪い武人では言葉で表現できなかった。
しかし、それでも一つ分かる事があるとすれば
「……はぁ……わーったよ」
瑠々のその言葉は武人を動かすだけの力を持っていたという事だ。
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