女子小学生との邂逅
日は跨ぎましたが四話目更新です!
午後四時二十分
「結構入り組んでんだなここら辺は」
好奇心の任せての探検を始めた武人はそんな事を言いながら周囲を見回した。
そこは所謂住宅街と言うやつであり大富豪とはいかずとも中々に所得の多そうな人間が住んでいそうな家が密集していた。
「家ばっかかよ、つまんねぇ。良い家なんてこの市は幾らでもあるからもう見飽きたぜ」
そう言って武人は家じゃないものを探すことにした。
野生の勘、とでもいうのだろうか。何処で曲がるのか。感じる空気と珍しい匂いを探るように武人は歩みを進めていったのだ。
内心武人は少しワクワクしていた。来たことのない場所で新たなものを求めて探検すると言う行為自体に面白いを見出していた。
そして、探索を続ける内に遂に武人は金持ちの住む住宅以外の場所を見つけた。
「へぇ……こんなとこにあんのかよ」
武人はそう言って少し感動した。
武人が見つけたもの、それは小さな公園だった。
空き地、とも言えるのかもしれないが曲がりなりにも遊具がありベンチがある場所をそ
の空き地で済ますには些かその場所に対して失礼と言うものだろう。
周辺が住宅ばかり、それも中々の邸宅ばかりがある中で武人の眼前に映る公園は何か吸
い寄せられるような魅力を持った幻想的な場所のように武人は感じた。
公園内へと足を踏み入れた武人、彼はそこでようやく気付いた。
「……」
公園内にある遊具はシーソー、滑り台、バネで上下左右に傾く馬の形をした乗り物。そ
してブランコだった。
そのブランコに一人の少女が遊ぶわけでもなくただそこに座っていたのだ。
「ん、んーーーー?」
武人はただただ首を傾げた。
何故なら武人は主観的に自分の様相と洋装が年端もいかない少女に恐怖感のようなものを与える事を理解していた。
だからこそ武人は分からなかった。この少女は何故自分がここに来た事に何一つ動揺しないのか。
しかもそれだけは無い。武人がここに足を踏み入れた時、ブランコに座る少女はその視線を武人に向けたまま一向に外さないのである。
それが武人を困惑させるに至ったのだ。
……まぁ、気にせんでいいか。
しかし武人は考えても無駄だと考え久々の懐かしい遊具やら何やらで遊び始めた。
「おーっ」
両手を上げて短い滑り台を滑った。
「おぉーっ……」
一人でシーソーを己の脚力のみで上下に動かした。
「……」
最後の遊具は体格が合わず使う事が出来なかった。武人は正直この遊具を一番楽しみに
していたため出来ないという事実に言葉が出なかった。そして何よりも。
「……」
未だ武人を見つめる視線を離さない少女によってどれもまともに楽しめなかったのだ。
気にせんでいいか。などと思っていた武人はそれを全く実行できていなかった。
「っあああぁ!!!」
痺れ、というより居たたまれなくくなった武人はズカズカとブランコまで歩いていくと
「おいさっきから何だ?」
そう聞いた。
相手は恐らく小学生、こちらが怒りながら近づいて行っては流石に怖がる。もしかしたら泣かれるかもしれない。それを懸念した武人は出来るだけ好青年を演出するように話しかけた。
しかし少女の元まで足音を強くして歩き、更に声を荒げないで話したのが逆にドスの利いた低い声になってしまったため武人の努力は全て空回りしていた。
よって、武人に近づかれた少女は恐怖で頬を濡らすかと思われるが
「……」
少女はやはり無言だった。それどころか一層に武人の目に自分の視線を外さず、体格差によって頭が自分より上にある武人を見上げた。
「い、いやぁ……」
少女の予想外の反応に武人は逆に少し動揺させられ何の意味も持たない声を上げた。
「……お、お名前は?」
不良特区で名を馳せていた男、覇原武人。
何とも言えない空気にやられた彼は何故か敬語で目の前の少女に名前を聞いた。
「お前、私を知らないのか?」
抑揚のない声、しかしやけに耳に残る声音で少女は喋った。
「あぁと、知らねぇな」
自分の知り合いに少女のような人物が居ない武人が素直にそう答えると
「……そうか」
少女は少し驚いたがやがて安堵したように言い
「御代瑠々《みしろるる》。私の名前だ」
自分の名前を武人に告げた。
「分かった瑠々だな。おーけーおーけー覚えたぜ、俺の名前は覇原武人だ」
瑠々が喋った事で何とも言えない感覚に陥っていた武人は調子を取り戻した。いつもの状態に戻った武人はいきなり少女の名前を呼び捨てにしながらもう一つ設置されているブランコにドカッと腰を下ろした。
「んでよぉ瑠々。お前は何でこんなとこに一人でいるんだ?公園ってのはダチとかと一緒に来て遊ぶとこだろ」
「そう言う武人も一人」
武人は『武人』と呼び捨てにされ、更に正論を吹っ掛けられた。
「……俺はなんつーかあれだ。本当だったらダチと遊ぶんだけど今日はたまたま誰も予定が合わなくてよ。だから一人で遊んでるんだ」
大分良いように誇張されている感が否めないが武人は一応事実に沿うように答えた。
「……武人、さっきから言っている『ダチ』ってのはどういう意味だ?」
ダチ、その言い方は確かに少女には分からないだろう。
周囲も『友人』や『友達』と言っている事から武人は納得し口を開いた。
「あぁ『ダチ』ってのはな。まぁお前らが『友達』って言ってんのと同じ意味だ」
「ダチは友達?」
「あぁ」
「武人にはいっぱいダチが居るの?」
「ん?どうだろうな……つーかダチは数じゃねぇだろ。大事なのは、どれだけ通じ合えるかだ」
武人は右の親指で自分の心臓の位置を指した。
「通じ合う?」
「おう、反りが合わねぇ。喧嘩もする。それでもこいつと居て楽しい、もっと一緒にバカやりてぇ、そう思えんのがダチだ」
そう言って、不良ははにかむように笑みを作った。
「ってメチャクチャ話脱線したじゃねぇかよ。今度はちゃんと答えろよ。お前は何でここに一人で居るんだ?」
柄にも合わず本筋を忘れ無かった武人は瑠々に再度同じ問いを投げる。
瑠々は少し言う事に躊躇いを見せたがやがて武人の顔は見ず、自分の体の正面の景色を見ながら話し始めた。
「実は家出して来たんだ」
「はぁ、家出ね。おとなしそうなナリして良い根性してんじゃねぇか」
「……」
武人の言葉に瑠々はまたしても驚き無言のまま武人を見て言った。
「怒らないのか?」
「あ?何をだよ」
「小学生が家出してるんだから、もっとこう……何か言うと思うぞ普通」
「別になんも言う事ねぇだろ。お前がしたいならすりゃあいいだろ」
なんてことを武人は言うが内心こう思っていた。
まぁ大体ガキなんて言ったところでやらねぇからな。こうして冷たーくあしらっときゃあすぐ家に帰んだろ。
この市に住む人間が自分の故郷と違う事をこの一年で武人は痛感していた。
一応年端も行かない少女から家出する気を削ごうという武人なりの気遣いである。
「武人は不思議な奴だな」
「そうかよ、まぁいいや。家出してんなら俺はそろそろこの辺で帰らせてもらうぜ。俺は帰んなきゃいけねぇ所があるからな」
武人はブランコから飛び降り腕を上に伸ばして伸びをした。
正直久々の公園の遊具も一回遊んだだけですっかり飽きてしまったのでもうこの場所に居る理由も無く、ただただ出て行きたいという気持ちしかなかった。
「まぁまぁ、そんな急ぐなよ武人。家出している私に免じてもうちょっとだけな?そうだ。何かしてみてくれまいかい?」
瑠々は露骨に武人を足止めのための話題をして武人を居させようとする。
「あぁ・・・?いや別にいいけどよ」
当の武人はその意図が読めずあっさりと瑠々の話に乗った。
「じゃあ見てろよ」
ブランコから少し離れた武人はそう言って五秒もしない内に
「よっと」
バック宙を決めた。
「おぉぉぉ!」
ジト目は健在だが目を輝かせながら瑠々はそれ見て拍手をした。
「すごいな武人。サーカスか何かやってるのか?」
「いや何でサーカスなんだよ。普通に練習して出来るようになっただけだ。サーカス団なんて入ってねぇっての」
不良特区で育った武人は警察や相手から逃げ回る時に建物から建物へと飛び移ったり建物から飛び降りたりといった事を日夜繰り返していた。
その延長としてもっと早く立ち回れるというところからアクロバットも出来るようにな
ったのである。
「他、他も見せてくれ武人様ー!」
瑠々の声は平坦だったが声量は大きくなった。
「様ってなんだよ……まぁいいや、分かった分かった。見せてやるよ」
キラキラとした目に逆らえず武人は瑠々にアクロバットを見せる事を決めた。それはも
う、地面でやるものから遊具を使ってやるものまで様々なものを。
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
本作が少しでも気に入って下さった方は是非ブックマークや感想、広告の下の☆から☆☆☆☆☆→★★★★★というように評価などしていただけると幸いです!!
皆さんの応援に日々励まされています!!
別で下記のような作品も書いているのでよろしければそちらもご覧いただけると嬉しいです!
幼馴染の副官に追放された魔王の復讐譚~次は裏切られないように忠実な幹部を育てようとしますがやはり少し育て方を間違えたようです~
https://ncode.syosetu.com/n6110ge/
(広告の下にそのまま飛べるURLを貼っておきます!)