車内にて
「はぁ……全く、手を煩わせてくれるなお前は」
隣の席に座る瑠々に悪態を吐きながら明良は言う。彼は先程までは警察の居る手前、外面用の仮面を被っていたのだ。企業の交渉など、数え切れない程のそういった事を重ねた彼にとってはお手の物である。
「ご、ごめんなさ……い。でも、こうでもしないと、話せないと……思ったら……いつも話そうとしても居ないし……手紙も、読んでくれないから……」
「はぁ……話なら手短にしてくれ。お前のせいでただでさえ時間が押してるんだ」
「う……うん。あの、ね」
瑠々は緊張気味に言葉を放とうとした。武人達の犠牲でここまで来たのだ。ここで全てを無に帰す訳にはいかない。なんとしても、父との会話を成立させなければ。
そう思えば緊張するのも当然であった。
「お、お父さん……」
そして、瑠々が本題を口に出そうとしたその時である。
バンッ!!という異音と共に事は起きた。
キイィィィィ!!!!
「な、何だ!! タイヤが……!?」
明良は突然驚きの声を上げる。突然ハンドルが効かなくなったからだ。
「くっ!」
「な、何?」
おぼつかないハンドル操作によって大きく揺られる車内に翻弄された明良と瑠々は思わず声を出した。
「うぉ……おぉっ……!!」
咄嗟の判断で明良は車を左側へ、ガードレールと車体を擦りつけるようにしてブレーキを掛けた。
ガガガと歪な音を立てながらも車はすぐに減速していきやがて停止した。
「お前は車から出るな瑠々!」
そう言うと明良は車から出てパンクしたと思われるタイヤを確認した。
「何だこれは……」
見たもの、それはタイヤに確かに刻まれている切り傷だった。その傷が原因でタイヤがバーストした事は誰が見ても明らかだ。
道中で釘などの異物を踏んでもこんな酷いのは付かない……つまり。
そこまで思考した時、突如として背中に嫌な悪寒が走った。
「っ!?」
すぐさま振り向こうとしたが
「ダメだよ。いきなりそんなの危ないでしょ?」
後ろに居た男が銃を持ったその手を上から抑え、残った腕に持っていたナイフを首筋に当てた。
「な、何だお前は……!!」
「こんな小さいナイフでもね。首の頸動脈を切るのは簡単なんだよねぇ」
不気味な笑みを浮かべながら男はナイフを強く首に押し当てようとした。
その時である。
「不要な殺しはするなミケ」
ボディガードの男の視界に映る細い路地、そこからもう一人男が現れた。
「はーいはい、冗談だよタマ」
タマと呼ばれたその男は一般男性と変わらぬ歩行スピードで歩くとミケと明良の横を通り過ぎるとパトカーの左側のドアを開け明良を引っ張り出した。
「お前も出て来い」
「痛いっ……!」
襟元を持ち足が地面から離れるように持ち上げられた瑠々は苦しそうに顔を歪めた。
「瑠々!!」
娘のその声を耳にした明良は居ても立っても居られず、たちまちタマに向かって行く。
「おっと」
だがタマは大して動じる事は無く、淡々と瑠々を持ったまま明良の突撃を避けるとそのまま彼の首を掴み車へ叩きつけた。
「ぐあっ!!」
叩きつけられた明良は堪らず声を上げる。
「や、やめろ……!! 娘に……手を出す……な……!!」
明良は声を振り絞りタマを睨み付けた。
「安心しろ、殺しはしない……だが」
「がっ……」
「う……」
「これくらいはさせてもらうぞ」
タマは掴んでいた二人を一瞬開放し、手刀で明良と瑠々を気絶させた。
「行くぞミケ」
二人を肩に担ぎ歩き出した。
「はーっい。にしても本当に二人だけで来たね。警官はこっちで来ないように出来たけどボディガードはどうしようってなったから。依頼主には助かったよ本当に」
手に持っていたナイフを俊敏な動作でミケは仕舞う。
「そうなのか……俺はミケに従って行動していただけだからよく分からん」
「全く、タマが受けたんだからね。大きい仕事が終わったから一週間くらい休もうって話だったのに数時間前に入った依頼を受けるなんて、人員も時間も足りないし、準備も何もあったもんじゃないよ」
「す、すまん……前金だけで一年は暮らしていけるくらいの金だったからつい……」
そう言ってタマは申し訳なさそうな表情を見せる。
「まぁいいよ。タマの足りない部分を補うのは相棒である僕の役目さ。相棒がしたいって言うなら僕はそれに応えるだけだよ」
相棒にタマは笑みを向ける。
「ミケ。ありがとう」
「どういたしまして。さてと、この後の動きだけどまずこの車の処理だね。これについては大丈夫、三分後証拠隠滅のために仲間が来て隠蔽するよう手配してあるから……それといつ言おうか迷ってたんだけど、タマ」
この後の展開について話しているミケだったがふと思い出したかのようにタマを見る。
「ん、どうした?」
「社会の窓開いてる」
「……すまん」
タマは再び申し訳なさそうな表情をして、窓を閉めた。
「出来る強キャラ感出してるのに所々抜けてよねタマって」
ミケは軽く溜息を吐いた。
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