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 ホルが地面に座り、祈りを続けている間に、ヘリによる注水が始まった。その様子はソズボの目に入り、ソズボは一瞬、自衛隊の決死の注水作戦に感激の声を漏らした。ところが、ウッビゾ電力技術部フンタムの反応は異なっていた。

「あれっぽちの水を入れ、何が変わると言うんだ」

 フンタムの言葉を聞き、ソズボは声を大きくして言った。

「やっぱり必要なのは、雨による大量の水と言うことですね」

 その時、ホルの近くにいたクックリが叫んだ。

「この方、顔が汗だらけだし、顔色も悪いけど、大丈夫かな」

 ソズボが近づくと、ソズボにも、全面マスクの中のホルの苦しそうな表情が見て取れた。

「やはり防御服、全面マスクは、ちょっとキツいか」

 だが、その時、カメラを回していたヘホトが叫んだ。

「ソズボさん、頭上を見てください。雲ですよ」

 全員が顔を上げると、頭上の真っ黒な雲から雨が落ちて来た。

 ソズボ、さらにクックルも落ちて来る雨に歓声を上げたが、その歓声も終わらぬ間に、その場のホルを除く全員が悲鳴を上げた。

「何だ、この風は?一体、どこから」

 その場に立っていられないくらいの風が、雨と共に吹き始めた。

「雨を降らすに、雨雲が必要。雨雲を集めるに風が必要。さらに雨、風を集め、あの原発に雨を降らすが、宜しいか」

 その場に、ホルのこの世のものとも思えない大声が響いた。

「よし、降らしてくれ。これでミス国は救われる」

 ホルに呼応し、ソズボも思いの限り叫ぶと、

「ダメだ。やめてくれ。もう、こんな茶番はたくさんだ」

 そう言ったのはフンタムだった。フンタムは続けた。

「こんな大風が吹いたら、壊れかけた施設が破損してしまう。それに、何より、全電源喪失時に、水を注げばメルトダウンが防げるって?今、水がないとしたら、それは、漏れてるのであって、水を注げば注ぐほど汚染水が出るだけだ。何故、それが分からない」

 ソズボは慌てて、フンタムに言い返した。

「ちょっと待ってください。必要なのは水じゃないですか?専門家も言ってましたよ。なら、あのヘリの決死の注水は何ですか?」

 それに答えたのは、クックルだった。

「あれは単なる政治のパフォーマンスですよ」

 小降りの雨は移動することなく、同じ場所で振り続けている。

「何だって?あれがパフォーマンス?なら、どうしたらいい?」

 誰に問うでもなくソズボが叫ぶと、クックルが続けた。

「この事故の収束のためには、電源を回復しなければ、先へは進めません。実は今日からその作業を、私もフンタム氏も、やるはずだった。ところが、国民に向けて姿が見える活動がしたいという政府のゴリ押しで、それが延期になりました。この瞬間も被害が広がっている現実を考えると、私は我慢できません」

「結局、必要なのは、水でも、ヒーローでも、政府でも、複数の船頭でもなく、現場の地道な作業だけ、と言うことか・・・」

 ソズボはそう言うと、それから間もなく彼らは撤収することにした。ダユヨが待つ車まで戻ると、そこにクックルが走って来た。

「私は原発に戻り、最善を尽くします。ただ、長い収束作業の途中、マスコミの力が必要かもしれません。その時はお願いします」

 ソズボはクックルと握手を交わすと、大きくうなづいた。

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