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「馬鹿野郎。お前が原発事故現場に行って、どうするんだ」
ソズボが声を荒げると、
「僕は心配なんです。テレビで原子力の専門家は安全だ、安全だ、と言ってますが、それが本当なのか現場で確かめたいんです」
ソズボはヘホトのただならぬ真剣さを感じたが、押し留めた。
「分かった。とにかく俺も帰るから、自分の仕事を放り出して、早まったことをするんじゃないぞ」
ソズボは電話を切ると、その足で住職ホプのところに向かった。
「住職、私は先に、あなたの素晴らしい霊力を目の当たりにした。あなたから見て、今、大混乱にあるミス国はどうですか?」
ホプは最初、少し怪訝な顔をしたが、すぐに穏やかになり、
「この国か?この国は安泰だよ。何も心配はいらない」
と答えた。ソズボは、さらに質問をする。
「しかし、エワイ原発は、メルトダウンの危機と言いますが」
するとホプは再び怪訝な表情を浮かべた。
「私は宗教家だ。それは学者に聞くべきだ」
だがソズボは、食い下がった。
「だから住職の宗教家としてご意見を伺えればと」
ホプはしばらく考えて、
「この国は神の国。いざとなれば神風が吹く」
ホプの言葉にソズボは少し呆れたが、言葉を続けた。
「先のアメパライ国の大戦では、神風など吹きませんでしたが」
それを聞くと、ホプはソズボを睨んで言った。
「戦前は王族が神とされ、ゼラサ教は迫害されておった。そんなことをしたから戦争に負けた。今はわしも祈るから安心しなされ」
再びヘホトから電話があったのは、ソズボがホプの元を後にして、部屋に戻ってすぐだった。
「どうやらメルトダウンを防ぐには、原子炉を冷やす必要があるようで、今、様々な形での給水が検討されているそうです。あ~あ、大雨でも降ればいいんですがね」
ヘホトは朝の電話よりは少し落ち着いていたが、その言葉に反応したのがソズボだった。
「なら宗教家に雨を降らしてもらうのは、どうだ。ヘホト君、君、大至急ヤゼヘ山山麓にあるダモエ教の総本山に行ってくれないか。あそこの教祖ズハなら、雨を降らせられるんじゃないか」
ダモエ教は「奇跡の宗教3」で取り上げた教団である。ちなみに「奇跡の宗教4」では、独特の心霊治療で難病を治す尼僧を取り上げたが、ここでソズボは、まだ未放送の「奇跡の宗教5」で訪問した、ヒナネブピ山に住む仙人ホル・レヘヤサボを訪ねることにした。自らをボア神の生まれ変わりとし、加持祈祷を生業とするホルの言動に「雨降らし」が含まれていたことを思い出したのだ。
ボンゾ寺を出る前に、ソズボはもう一度、住職ホプへの接触を考えたが、ボンゾ寺の荘厳な建物、そこに並ぶキラキラした仏像の数々、建設中の塔などを見ているうちに、その気を失くした。ボンゾ寺のあるワゲフダは、ミス国でも有数の過疎のお金のない県なのだ。
ソズボは電話でタクシーを呼び、黙ってボンゾ寺を後にした。次の目的地ヒナネブピ山には、電車、高速鉄道を乗り継げば、夕方には到着できるはずだ。ただ問題は、神出鬼没の仙人ホルが、すぐに見つかるのか否かと、前回撮影した番組そのものが、まだ未放送という点だった。