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翌13日、ソズボは朝から修行場に訪れ、瞑想を始めた。霊媒師カプのところには、宿泊所にも修行場にも、テレビもラジオも置かれていない。そのためミス国全土が、地震と津波による大災害で大勢の犠牲者が出て、沈痛な雰囲気に包まれていることすら、ニフハイの大自然の中にいるうち、いつしかソズボの頭から消えて行った。
「もう、俺にはミス国には居場所はないのかもしれない」
その日1日を経て、ソズボの頭に浮かんだのは、そんな考えだった。
霊媒師カプの元には、朝昼晩を通して、大勢の人が訪れる。その中には、野菜やら海の幸やらを持参して、カブと宿泊所に泊まる数人の修行者の食事の世話をする者もいる。
そんな人たち(年配の女性が多い)が集まり、食事の支度をするスペースに、いくつかのダンボールが並べてあったので、何気なく中身を聞いてみると、
「あんた知らんの。支援物資よ。大地震で困ってる人がいるんよ」
その言葉を聞くと、何故かいきなり、ソズボの目から大粒の涙があふれた。周りの女性がソズボの変化に驚いてしまうほどに。
「俺は一体、何をしてるんだ。ミス国は俺の生まれた故郷じゃないか。俺にもきっと何かすることがあるはずだ。それをやろう」
夕食の後、翌日、出ることを告げると、カプは言った。
「世界の悲惨を凝縮した呪いの国だからこそ、その痛みを世界に伝え、世界を平和に導くこともできる。未来は何も決まっておらんのだからの。わしはここで、あなたの前途を祈ろう。わしはナミ国人だが、決してミス国を嫌ってるわけではないぞ」
ソズボは、ワゲフダにあるゼラサ教寺院に行くことを決意した。
ゼラサ教寺院は「奇跡の宗教1」で取り上げた寺院で、正式名称をボンゾ寺という。そこの住職ホプは稀代の名僧と知られ、護摩行で炎を自由自在に操る様が、番組では予想以上の反響を呼んだ。
ボンゾ寺があるワゲフダには、定期船でヤシマまで渡り、そこから鉄道で半日ほど移動すれば行き着くことができる。
次の日の早朝、ソズボはカプの元を後にし、昼前には、定期船に乗り込んだ。
部下のヘホトから2度目の電話が入ったのは、ヤシマに渡り、ムワサ駅で電車を待っている時だった。
「3号機も爆発です。ソズボさん、帰らない方が無難ですよ」
ボンゾ寺に着いたのは、14日の午後7時過ぎ。辺りはすっかり暗くなっていた。しかし住職ホプはソズボのことをよく覚えていて、
「おお、あの時のテレビ局の方ですか。また会えましたな」
と言って、その晩の食事と宿泊場所を用意してくれた。
その日は平日だったが、寺には檀家の人々が集まり、ここでも今回の地震の被害者の人々に、この寺としても何らかの手を差し伸べたいといった話がされていた。
ソズボは改めて今回の地震の深刻さと、ミス国人の絆といったものに触れた気がしたが、長旅の疲れもあり、住職らへの挨拶もほどほどにして、早めに床に入った。
次の朝、ソズボはヘホトからの電話で起こされた。時計を見ると、まだ朝の8時前だった。
「また爆発、4号機です。実は僕、直接、エワイ原子力発電所に行き、真実を伝えたいと思うのですが、許可を願えますか」
ヘホトからの電話は、ソズボの予想を超えた意外なものだった。