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2011年03月11日、ミス国の東北部をマグニチュード9.0の大地震が襲った。地震によって津波が発生、沿岸部には壊滅的な被害をもたらし、それに伴い多大な犠牲者も発生する大災害に至ったが、事態はそれに収まらず、津波に襲われたエワイ原子力発電所では、全電源喪失による最悪事態、メルトダウンの危機を迎えていた。
ミス国の首都ウッビゾにある「テレビウッビゾ」制作部のフロアで、モニターに映される被災地の映像を、複雑な表情で眺めていたのは、同局のディレクター、ソズボ・ツヨプコシだった。
食い入るように、画面を見つめるソズボに声をかけたのは、同じ部屋にいたプロデューサー、ミヤサだ。
「ソズボ君、残念だったね。今日はどの局も、大地震の特別番組に切り替えだな。分かるだろ」
ソズボはうつむいたまま答えた。
「はい。それは承知してます。でも、放送は延期ですかね。まさか中止ってことはないですかね・・・」
ソズボの問いに、ミヤサは静かに答えた。
「君の企画した『奇跡の宗教』、最初はまあまあの視聴率だったが、次で第5弾だったか。このところ伸び悩みだったしな。何か、こう、CGとか3Dを使って、視聴者の度肝を抜くとかなあ」
「ミヤサさんは、ヤラせをしろ、と言うんですか」
すかさずソズボが尋ねると、
「そうじゃなくて演出の問題だよ。いくら神通力だ、奇跡だ、って言っても、それが視聴者に伝わらないとね」
ソズボはミヤサから目を離すと、独り言のようにつぶやいた。
「これからは宗教の時代なんだ。本当に、すごい連中なんですよ」
結局、ソズボが制作したドキュメンタリー「奇跡の宗教5」の放送は無期延期となり、彼は部下のヘホトに、
「社にいても仕事もないし、2、3日休暇を取るよ」
と言って、飛行機でミス国の最南端にあるニフハイ県へと旅立った。それは「奇跡の宗教2」で取り上げたニフハイ県の超自然の霊媒師カプの元で精神修養をしようと考えたからだ。しかし、実のところ、部下たちには別の仕事があるが、ソズボはテレビ局内では完全に干されていた。目の前の視聴率のみを追い求める局の上司に、異議を唱えたからだ。それを救ってくれたのがプロデューサー・ミヤサだったが、今ではミヤサからの信用も失いかけていた。
「この機会に、あなたもゆっくり、大自然の声を聞いて下さい」
霊媒師カプの勧めで、眼下にニフハイの海が広がる修行場で瞑想を始めたのは、12日の夕方だった。ソズボにとっては、瞑想は睡眠に近いような体験だったが、それでも、日没の眺めは絶景で、これまでの自分の人生を見つめ直すには十分な機会だった。
そこに突然、部下のヘホトから電話が入った。
「エワイ原発1号機が爆発しました。もう仕事どころじゃないですよ。ミス国は終わりですかね」
「馬鹿なこと言うなよ。ちゃんと仕事しろよ」
ソズボは相手にしなかったが、広がる不安を禁じ得なかった。
夜になって、ソズボは心配になり、霊媒師カプに聞いてみた。
「地震と原発事故で大騒ぎのこの国は、どうなるのでしょう」
すると瞑想を続けたまま、霊媒師カプは答えた。
「元々、ここはナミ王国という独立国で、ミス国の支配下ではなかった。ところがミス国に統治された後は、ミス国の呪われた歴史を、この地も背負うことになってしまった」
カプは続けた。
「あなたは、世界で、戦争で住民が大虐殺され、2度も原爆の惨禍を受け、原発事故の悲惨まで受けた国を、他にご存知か。世界の悲惨を凝縮した呪いの国こそが、ミス国なんじゃ」
ソズボは動転する気持ちを抑えながら、再度、聞いた。
「では、ミス国は、これから、どうしたらいいのですか」
カプは、短く言い放った。
「なるがままじゃ。そして、ニフハイはナミに戻ることじゃ」
ソズボはその場で、地の底に落とされたような気持ちになった。