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デート

サブタイトルが決められないマン

日曜日の昼下がり、天気は良好。俺と梨乃は、二人並んでスーパーマーケットまでの道のりをあるいていた。デート(仮)である、ちなみに梨乃は先ほどから熱心に携帯の画面を眺めているので、デートっぽさは皆無だ。


 


「冷蔵庫の中、何があったっけ?」


「…………」


 


 ちょっとでもデートっぽい雰囲気を出そうと声をかけてみるが、無視。どうやら携帯に集中しているようだ。俺は一人寂しく、冷蔵庫の中身を思い出す。


 調味料はあったし、飲料水とかもあった。とりあえず野菜と肉、後はおかずを買えばいいだろう。


 俺は相変わらず画面を食い入るように見つめてる梨乃をちらりと見る。一体何をしているのだろうか。


 


「なあ梨乃、せっかく二人で出かけてるんだから、もうちょっと話し合おうぜ」


「……デートみたいに言うのやめてよ。ただの買い出しなんだから」


 


 今度はきちんと返事が来た。やはり会話というのはこうでなければ。言葉のキャッチボールの球の独り占めダメ、ゼッタイ。


 しかし返事が来たと言ってもそれはシンプルなもの。どうやら俺に興味はないらしい。ていうか、ホントに何やってんだ? 


 


「デートみたいなもんだろ。年頃の男女が二人で出かけてるんだから。梨乃ももう少し素直になってもいいんだぞ?」


「あ、ちょっとそこの公園寄るわね。先行っててもいいわよ」


「台無しだよ」


 


 梨乃は携帯に引っ張られるように、公園へと歩いていく。何か公園にあるようだ。


 


「マジで何やってんだ?」


「うるっさいわね、レイドバトルに集中できないから黙っててくれないかしら?」


「ポケ〇ンGOかよ! 俺とのデートよりゲームの方が大事なの!?」


「アーマードミ〇ウツーは期間限定なのよ」


「知るか!」


 


 公園の前に立ち止まった梨乃は、ポチポチと携帯をいじり始める。どうやらそのミ〇ウツーとやらと戦っているようだ。画面は見えないが、必死に指を動かしているのはわかる。


 


「……何分くらいかかりそう?」


「え、まだいたの? 先行ってていいって言ったじゃない」


 


 どうやら本気で俺がいたとは思っていなかったらしく、目を丸くさせている梨乃。


 


「ポケ〇ンGOに負けたっていうのは何か悔しいから、ゲームに熱中する彼女を温かく見守る彼氏役になるわ」


「デートじゃないって言ってるでしょ。あなた如きが私とデート出来ると思ってるの?」


「可能性はゼロじゃないんだぞ」


「知り合いと行くカラオケの一曲目でおしりかじり虫を歌うくらいの確率でなら、あるかもね」


「ゼロだな」


「…………」


 


 携帯に噛みつく勢いで画面を眺める梨乃の背中は、なんだかとても遠く思えた……。


 


 ◆


 


 数分後、苛立たし気に携帯を仕舞った梨乃。どうやら終わったらしい。


 


「勝てたのか?」


「……あら、あなただったの。子供たちが跨ってびよんびよんするパンダの乗り物みたいな遊具だと思っていたのだけれど」


「こんな場所に設置されてたら戸惑うわ」


 


 現在、公園の入り口前。


 


「で、終わったのか?」


「見りゃわかるでしょ。さっさと行くわよ」


 


 何だかご機嫌斜めな梨乃。どうやら負けたらしい。


 


「そんなに強いのか? そのアーマード何たらっての」


「一人で勝てる強さじゃないわね」


「じゃあフレンドとやればいいじゃん」


「私にフレンドがいると思っていたのかしら。だとしたらあなたの頭は相当お粗末だと思うのだけれど」


「おう毒舌と見せかけた自虐やめーや」


「…………」


「んで一人で傷ついてんじゃねーよ……」


 


 とぼとぼと肩を落として歩く梨乃がどこか寂し気で、俺は思わずぽつりとつぶやいた。


 


「……何だったら、俺がインストールしてフレンドになってやってもいいけど」


「あ、ごめんなさい私トレーナーレベル20以下の雑魚とはフレンドにならない主義なの」


「悪かったな雑魚で!」


 


 だからフレンドいねえんだよ。


 すると梨乃は、俺の少し前を歩きながら喋り出した。


 


「ちなみにもし私があなたとデートしているとするわね」


「おう」


「仮に、ね。もしもの話よ? 万が一にもあり得ないけど、わかりやすくするために話してあげてるだけだからね?」


「さっさと進めろ!」


 


 くるりと、前を歩いていた梨乃がこちらを振り向く。その表情は、空に輝く太陽のように綺麗だった。


 


「仮にもしも万が一にもあり得ないけど百億歩譲ってあなたとデートしているとするわ。もしその場面でチャラい男が私をナンパしてきたとして、そのチャラ男のポケ〇ンGOのトレーナーレベルが36以上の場合迷うことなくあなたをほっぽり捨ててその男についていくわ」


「いい表情でえげつないこと言われた!」


 


 ていうか、あくまでポケ〇ンGO基準なのな……。


 梨乃はそれだけ言って満足したのか、再び前を向いて歩き始めた。


 俺は家に帰ったらインストールしてみようかなぁなんて思いながら、その背中を追うのだった。


 


 


 ◆


 


 


 買い物シーンは面倒くさいので割愛。


 


 


 俺はビニール袋片手に、梨乃と帰り道を歩いていた。日は傾き始めており、真っ赤な太陽が地平線にどっぷりと浸かっていた。ちらりと横を見ると、真っ赤に染まる梨乃の横顔が。物憂げに下を俯くその姿は、まるで一枚の絵画かと疑ってしまうほどに儚く美しかった。下を向いている理由はポケ〇ンGOだが。


 


「今日はカレーでいいだろ」


「材料買った後に尋ねないでよ」


「それもそうだ。花梨ちゃんは今日うちで食べんの?」


「多分」


 


 住宅街を歩いていると、どこからともなく夕飯の匂いがしてくる。無性にお腹が空いてくる匂いだ。横を見ると、梨乃も匂いの出所をきょろきょろと探していた。その光景がなんだか微笑ましく、俺はつい笑みを漏らした。


 


「……さっさと帰るか」


「え、何そのにっこり笑顔。キモッ」


「…………余計なお世話だよ」


 


 本当に……こいつは全てを台無しにする。


 


「今の笑顔何? マジで気持ち悪かったのだけれど。平成で一番キモかったわ」


「時代に取り残されてるぞ。今は令和だ」


「……令……和? もしかして、平成はもう、終わった、の……?」


「なんだそのコールドスリープから目覚めたばっかりで平成が終わったことを知らない患者みたいなリアクションは。お前令和発表の時俺の部屋でテレビ見ながらポテチ食ってたじゃん」


「……しあわせバター味を馬鹿にしてんじゃないわよ!」


「誰もしてないよ!?」


 


 蜜色に染まる住宅街の壁に、俺たちの声が響いていく。


 こうして、俺と梨乃の買い物デートは、特に問題もなく終わっていったのだった。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 ~おまけ~


 


 


 


「ねえ花梨。今度の休みに一緒にカラオケに行かない?」


「え、珍しいね。どうしたの急に?」


「ちょっと、カラオケに行って歌わなきゃいけない歌が出来たから」


「何それ、誓いでも立てたの?」


「まあ、そんなとこよ……」


 


 


 ~おわり~


 


 


 



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