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いつもの日常?①

毒舌幼馴染が見た過ぎて衝動的に書き上げてしまった。後悔はしていない。だが公開はする(激寒)。

 毒舌幼馴染、という存在をご存じだろうか? 


 それはその名の通り、毒を吐く幼馴染というもの。大体はインターネット上の小説の中の存在であり、なよなよしている男主人公のことを叱咤激励し時に可愛らしい面を見せる幼馴染という立場にいるキャラクターである。


 曰く、ギャップ萌え。


 曰く、毒舌尊い。


 


 だが、それは果たして本当なのだろうか? 


 


 思春期の男子のプライベートにずかずかと入り込んで、あーだこーだと横から口を挟む存在を、萌えと……尊いと言えるのだろうか? 


 俺は思わない。


 毒舌なんてものは所詮空想上の生き物であり、我々異性に飢えた男共の夢なのである。はっきり言おう、現実の毒舌幼馴染なんてクソである。


 何故俺がここまで毒舌を毛嫌いしているか、それは簡単である。


 俺の幼馴染が実際に毒舌だからである。


 毒舌。


 悪たれ口。


 ポイズントング。


 


 とにかく、そういうこと。


 俺の隣人の幼馴染は、とにかく口が悪い。口が悪いのに加え手癖も悪い。気に入らないことがあればすぐに拳が飛んでくる。


 特殊な趣味を持っている男子なら喜ぶこの幼馴染だが、あいにく俺はノーマルなのだ。幼馴染のこういった行動は、まあとにかく面倒くさい。


 これでデレの一つでも見せれば、まあしょうがねえなと言ってやらんこともないが、なんとこの毒舌幼馴染、デレを見せないのだ。とにかく毒舌しか吐かない。もはや存在が毒舌。


 この幼馴染の存在は、俺を毒舌嫌いにさせるには十分すぎる要素だった。


 ダラダラと冗長になってしまったが、言いたいことは一つだけである。


 


 俺の毒舌幼馴染のデレが少なすぎて辛い。


 


 


 ◆


 


 


 うつらうつらと眠りの沼に浸かっていた俺の耳に、どすどすと何かが大きな音をたてながらこちらへ向かってくる音が聞こえて来た。


 足音はすぐに止まった。俺の部屋の前だった。薄らと目を覚ましていた俺は、布団の中でぐっと伸びをする。するとタイミングを見計らったかのようにドアが開いた。


 部屋に入ってきた「そいつ」は、冷たい目で俺を見下ろしながら言った。


 


「あら、もう起きていたの。どうせなら一生布団の中で寝腐っていてもよかったのだけれど」


「……おはよ」


「おはよう? 冗談言わないでよ。こんな時間に起きといておはようはないでしょう。耳、目、頭が腐っていたのは知っていたけれど、まさか口も腐っていたとはね」


「そんな遅い時間じゃないだろ……むしろまだ早朝の部類だし」


 


 流れるように飛んでくる罵詈雑言を避けながら起き上がる。閉めるのを忘れていたカーテンから差す陽光が眩しかった。


 続いて俺は、俺を起こしに来てくれたありがたい幼馴染を見やる。


 


 腰辺りまで伸びた流れるような黒髪に、雪のように白い肌。小さな鼻と桜色の唇は不思議な色気を醸し出しており、見ているだけで頭がしびれてくるようだった。目つきが悪いことを除けば、そいつは完璧な美少女だった。


 


「何故私をじろじろと舐めるように見ているのかしら。貴方は遅く起きたくせに朝から美少女に劣情を催す家畜以下の存在なのかしら」


「朝から冴えてるねぇ梨乃さん」


 


 梨乃は、その言葉にふんと鼻を鳴らす。自分で自分を美少女と言っちゃう辺り、こいつもまだ寝ぼけてるのだろう。


 


「そろそろ支度してちょうだい。遅れちゃうでしょ」


「はいよ。外出てて。それとも俺の生着替え見たい?」


「キモ」


 


 ばたんと勢いよくドアを閉め出ていく梨乃。その背中からは嫌悪感が溢れ出ていた。


 自然とため息が出てくる。今日も相変わらずの毒舌だった。


 そう、これが俺の幼馴染である、小鳥遊梨乃である。


 容姿端麗、文武両道という、色彩兼備を形で表したような人間である彼女は、何の運命のいたずらか、俺の幼馴染だった。


 容姿は完璧な梨乃だが、問題はその中身である。彼女は口が悪いのだ。しかしただ口が悪いだけではない。彼女は人が嫌がる言葉を的確に選び、心を抉ってくるタイプの口の悪さなのである。


 その毒舌は他の追随を許さないほどの勢いであり、彼女に告白した先輩は軒並み号泣しながら帰っているという噂が立っているほどだ(ちなみに噂を流したのは俺である)。


 これ以上梨乃を待たせるとまたぐちぐち言われるかもしれないので、手短に支度を終わらせ部屋を出る。


 梨乃はリビングのソファに座っていた。足をぶらぶらさせながら朝のニュースを見ているその姿は、部屋に差し込み彼女の横顔を淡く照らしている朝日とも相まって、なんとも言えぬ神秘さを醸し出していた。


 


「……リビングに入ってくるなり私を下卑た目で見る辺り、今日もいつも通りなのね」


「さーせんさーせん」


 


 見ていることが気に入らなかったのか、こちらを睨む梨乃。砥石で研いだのかと疑いたくなるほどに鋭いその視線は、まっすぐと俺に狙いを定めていた。


 時計を見ると、七時になった辺り。まだまだ登校までに余裕はある。


 梨乃はテレビの電源を消し、気だるげに言った。


 


「それより、私生徒会に行かなくちゃだから、早くお弁当作ってよ」


「お前……それが作ってもらう立場にいる奴の台詞か?」


「うるさいわね……料理でしか私の優位に立てないからって、毎朝同じことを言うのはやめてくれないかしら。Pe〇perくんの方がまだ語彙力あるわよ」


「腹立つ奴だな……お前のぶんの弁当作らんぞこの野郎」


「そんなことしたらDVとして警察に通報するわ」


「……はいはい、つくりゃーいいんでしょ」


 


 このまま言い合いを続けてもしょうがないので、弁当を作り始める。容姿や勉強は完璧な梨乃だが、何故か料理だけは小さなころからいくら練習しても出来なかった。


 梨乃と俺の家庭は親が家にいることが少なく、加えて梨乃の料理下手ということもあって、自然的に俺が料理を作ることになっている。


 梨乃はソファに寝ころんで本を読んでいる。こちらに足を向けて寝ているのでスカートの中身が見えそうだが、肝心の中身はクッションのせいで全く見えない。


 がん見しているとまた変態だの劣情を催すなだのと文句を言われそうなので、視線を無理やり移動させる。弁当を作らなければ。


 


 暫くの間、静かなリビングは俺が弁当を作る小さな音と、梨乃が本のページを捲る音で満たされていた。


 


 


「ほら、できたぞ」


「ご苦労様。じゃ、行くから早く用意しなさい」


「おっけ、ちょっと外で待っててくれ」


「……ん」


 


 小さく頷く梨乃。そういう素直な動作は可愛らしいので嫌いになれない。結局は俺も可愛さに負けてしまっている。


 自分の部屋に戻ると、机の上に散乱している物を鞄の中に無造作に突っ込み、制服を着て外に出る。梨乃はぼんやりと空を眺めていた。


 


「ごめん、じゃあ行くか」


「あ、私の半径二メートル以内には入らないでね」


「じゃあ先行っとけよ……」


 


 


 


 今日も俺の日常は変わらない。

毒舌幼馴染ってやっぱり可愛いですよね。

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