魔人対サツキ
魔人が放った敵MOB達に、観客席がパニックに陥る。
「あははは!!さぁやれ!そして誘き出すのよ勇者を!」
――ヒュッ
「あははは…………あ?」
魔人が高笑いをしていると一筋の光が放たれ、その一瞬の間に召喚した従魔が塵となり消え去った。
『皆さんご心配なく、これも想定の内です。』
従魔達が消え去った後、闘技場の真上に半透明なモニターが現れメフィストフェレスの顔が映し出された。
『選手の攻撃によって観客の皆様が怪我をしないよう障壁を張り、暴走した選手或いは選手の従えているMOBを迎撃する用にレーザーまで完備しておりす。ですのでお客様方は安心して観戦ください』
冷静に、それでいて淡々と説明するメフィストフェレスに会場は落ち着きを取り戻し、全員恐る恐るではあるが席へと戻っていく。
『さぁ、試合を再開しましょう』
「チッ……作戦は失敗ね、さっさと切り上げて…………出れない?」
魔人は先程入ってきた入口に走り出し、逃げようと試みたが見えない壁により阻まれ額に青筋を浮かべ始める。
「クソ、こんな事ならもう一人くらいこちらに用意しておくべきだったわね」
「えーっと?もういいのかな?」
「ええ、どうせあなたを倒さないと逃げられなさそうですし。さっさと死んでください」
質問を投げかけるサツキに魔人は冷たい視線を向けると、もう一度従魔を召喚し鞭を構える。
「やっとやる気になってくれた」
それに対してサツキは少し嬉しそうに得物【三日月】を抜き、刃を相手に向け頭上に構える霞の構えをとる。
「グギャギャァ!」
サツキが構えるとほぼ同時に召喚された従魔達はサツキ目掛けて向かって来た。
「ふぅ〜…………せっ!たぁ!!」
サツキは深く呼吸をすると目の前まで来ていた従魔を右肩から左の腰に掛けて斬り裂く、そして手の内を返し左上に飛行してきた従魔を斬り上げで真っ二つに斬る。
「まだまだぁ!」
そして嬉々とした表情で次に迫った従魔の胴を薙ぎ、魔神へと走り出した。
それを阻止せんと迫る従魔だが、サツキの一撃の前に次々と塵へと変わってゆく。
やっぱり召喚系はそこまで強くないね、宏幸が特殊なんだろうね。
おっと…………次!!
「うひゃぁ?!」
サツキが目の前の従魔を斬り裂いたその瞬間、魔人の鞭がサツキの足を搦め取り身体を宙に放り投げる。
「なめてもらっては困るのよ!『血ノ矛』!!」
魔人がスキルを発動すると魔人の頭上に10数本の紅の槍が形成され、それと同時にサツキに向けて射出される。
「なめてなんてないよ!」
魔人の怒号にサツキは笑って返すと、もう一本の防御用の短い得物【砕月】を抜き放ち飛んで来る槍を全て弾き防ぎ切る。
「はははっ!楽しいね!」
「こっちは作戦が失敗で楽しくないわよ!」
「おっとっと」
魔人の放った鞭による一撃を砕月で受け止める。
すると鞭は砕月に巻き付き、得物を引き合う魔人とサツキの力比べが始まる。
「Strなら負けないよ!」
「ぐっ……」
早々に不利を悟った魔人はそのまま鞭を手放し、召喚の準備をする。
「やらせないぞ!」
魔人の不穏な動きにサツキは走り出す――
――しかし、その瞬間に魔人の目の前にサツキの二回り大きいゲートが現れる。
「早く出てきなさい、サイクロプス!」
ゲートから巨大な足が露見すると、数秒も経たないうちに5メートル程の一つ目巨人が姿を顕にした。
「うーん、流石にまずいかも」
「さぁ、潰してやりなさい!」
「ヴガァ!」
魔人の命令と共に動き出したサイクロプスはサツキ目掛けて拳を高速で振り下ろす。
それをサツキは間一髪で避けるとサイクロプスから距離をとる。
何あれ、すっごい早いんだけど!大きい敵ってゆっくり動く物じゃないの?
「驚いた顔をしてるけど大きいからってゆっくり動くと思ったら大間違いだからね?大きい生き物にはその大きい体を動かすだけのパワーがあるんだから。当たり前でしょ?」
「そっか、ライオンとかも速いもんね!」
サツキは少々お馬鹿だった。
「ヴガァァァァァ!!」
サツキが納得しているとサイクロプスの蹴りが飛んでくる。
「おっと危ない」
その蹴りをスライディングで避けるとサイクロプスのアキレス腱をすれ違いざまに両断する。
アキレス腱を両断されたサイクロプスはバランスを崩し、膝を付く。
「今チャン(ス)!魔人ちゃん、覚悟ー!」
「嘘でしょ!」
「『瞬歩』!『閃光突き』!」
――ザシュッ
スライディングの勢いのまま飛び出したサツキはスキルを二つ発動し、爆発的に加速すると魔人の心臓に三日月を突き立てた。
「ぐっ…………しょうがない、ここまでね。リスポーンしたらあいつらに文句でも言ってやらないと」
魔人はそう呟くと塵となり風に溶けていった。
『勝者サツキ選手!!』
サツキの勝利に会場全体が震える完成が上がった。
う〜ん、あの魔人ちゃん誰かに似てた気がするんだよな〜……まぁいっか!
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「あーもう負けた!なんなのよあの障壁にあの剣士!」
怒りながらVRギアを外した綾はスマートフォンを取り出し、この計画を企てた主犯にメッセージを送る。
『この馬鹿!あなたの計画ダメダメじゃない!何が「これなら絶対上手くいく」よ!』
『いやぁ、しょうがないじゃない。相手があんな障壁貼ってるなんて思ってもいなかったし。まぁ待ってなって、こっちの計画は今のとこは順調だから』
『そこに異分子が来て計画がおじゃんになるに賭けるわ』
『酷いなぁ、それでも風紀委員の副会長かよぉ〜』
『今は関係ないでしょ』
綾はそのメッセージを送るとスマホをほおり投げ、机に向かいノートと筆記用具を出し作業を始めるのだった。




