イベント当日の朝
イベント当日、宏幸が朝早くにTPOにログインすると、街には大きな闘技場が出現し運営からメールが届いていた。
『おめでとうございます!貴方は第一TPO PVP 大会の選手に選ばれました!選ばれた選手につきましては今日の十一時に闘技場へお越しください。お時間に間に合わない、予定が入っていてプレイ出来ないという方に関しては闘技場の係員にお申し出くださいませ。選ばれなかった方々は指の爪かじりながら観戦をお楽しみください』
後半完全に煽り散らしていたがそこは突っ込まないことにしよう。
さて、今は――九時か、まだ時間に余裕があるしナズナさんの所に行って死霊守護者の胴鎧を受け取って…………食べ歩きでもするか!
アキが呑気に腕を振るいながら歩きナズナの待つ鍛冶屋へと着くと、爆発に近い轟音が鍛冶屋から聞こえてきた。
「何事!?」
その轟音に心配になったアキは鍛冶屋のドアを勢い良く開け、中へと侵入する。
そして、鍛冶屋に入ってまず目に入ったのはナズナさんと全く同じ格好の神々しい女性だった。
「えっと、ナズナ……さん?」
「し、知りませんよ?そんな人」
「いや、声から見た目から何まで一致してるし、ナズナさんでしょう?」
「はぁ、やらかしましたね……」
ナズナさんが片手を顔に当て、悩ましそうな顔をしている事からこの事についてはあまり触れない方がいいと察しは着く。
でもアバターを変えれるなら俺も男に戻れると思うんだよな、ちょっと聞いてみるか。
「ナズナさん、そのアバターを変える方法教えて貰っていいですか?」
「えーっとですね、エルフの姿は仮の姿で、この姿が本来の姿です。これはアバターを変えている訳ではなくて特殊な方法、私以外に一つまみ程度しか使えない裏技なんですよ」
「う〜ん、変えられないんですか……」
「変えるとしてもできて種族程度ですしね?」
「それじゃあ仕方ないですね」
やっぱりこの容姿はどうにもならないか…………まぁいいか、この身体にも慣れてきたとこだし、何だかんだ身体柔らかくて可動範囲も広いし避けやすいし。
「そういえば死霊守護者の胴鎧ってどうなったんです?」
無理矢理自分に暗示をかけると話題を変えるために口を開いた。
「そうそう、この鎧なんですけどね?氷と同化してもうどうしようもない状態になってるんですよ」
そう言ってナズナさんが出してきたのは、元の真っ黒なデザインに紫の氷が追加され、禍々しさの増した鎧だった。
「何これ、かっこいい……」
「あら、調整を頑張って見て正解でしたね、ここまで好評とは思わなかったですね」
「早速この装備でPVP大会頑張ってきます!!」
「そうよね、アキちゃんにも送ったからそれは出るわよね」
「えっ?」
「あっ、いえ、なんでもないですよ?」
口に手を当てふふふふ、と笑うとナズナはエルフの姿に戻って「行ってらっしゃい」と手を振り、有無を言わせず鍛冶屋からアキは追い出されたのだった。
やっぱりナズナさんも神だったりするのだろうか?
…………いや、そういうのは終わってからでいいか。
考える事をやめると闘技場までの大通りに並ぶ屋台の食べ物を次々と買って食べて行く。
うん、かなり美味しい。
ゲームだからいくら食べても太らないし、これはいいね。
おっ、あっちには串焼きがある!こっちは何のお菓子だろう…………これも美味しい!!もむふむ、これはチキンランナーって鳥の焼き鳥か、美味しいな
食べてもお腹いっぱいにならないのをいい事に目に、入った屋台の料理を食べまくっていると闘技場の方から音声が聞こえてきた。
『アキさん!アキさんはログインしていらっしゃいますか!ログインしていましたら至急闘技場までお越しください!!』
まだ時間には早いんじゃ…………あっ
アナウンスに疑問を抱きつつメニューを開くとそこには11時13分とはっきり書いてあった。
…………もしかして一時間近く食べ歩きしてたってこと?!
「セキトバ!ちょっと乗せてって!!」
『主は馬使いが荒い』
「ごめんって!」
腕に食べ物を抱えた状態でセキトバに飛び乗ると、セーフティーかつスピーディーに闘技場まで走らせる。
「もむもむ、セキトバ!がんばもむもむて!」
『主、汚いです』
セキトバの呆れた声を聞きながら先程買ったものを食べながら揺られるのだった。




