オートマタ狂いの男
この死体が匂いの原因っぽいな。
隣に横たわっているオートマタのホコリの被り具合や、死体の腐敗から見てかなりの時間が経っていると見れる。
死体は腹がドロドロに解けており、肋骨が露出し蛆が湧いている。
そしてその横にいるオートマタは歯車やらバネやらとをそこらに転がしていた。
臭いも酷かったがこの状態もかなり悲惨だな…………。
俺はそんなことを考えながら合掌し、部屋の捜索を始めた。
こんな所に館が建ってること事態が不思議で仕方ないのに、更に隠し部屋まであるとかここは一体何なんだ?
軽く見回した感じだと実験記録らしきものを書いた紙が散らばってるだけだが……
『我が主、この書物はオートマタについての研究について書いてあるようです』
「まぁそうだろうな、鼻がいかれてきたし探索を続行するか」
酷い臭いにより、鼻が効かなくなったアキはそこらに散らばっている髪を拾い上げ、順に読んでいく。
えー、なになに?『オートマタ作成初級』『オートマタ作成中級』『オートマタ作成上級』『オートマタの生態』『オートマタ作成記録』『オートマタ観察記録』『オートマタとの生活』『オートマタたんかわいいはぁはぁ』……と。
とんだド変態になってたみたいだな。
オートマタ作成に関しては何かのキーアイテム、もしくは隠しジョブ的な物に使えそうだから取っておこう。
これを書いた本人━もう死体だが━を冷たい目で見ると、俺はオートマタ作成から作成記録までをアイテムボックスに入れる。
「取り敢えずめぼしい物は手に入れたしさっさと帰ろう、臭いし何気に死体怖いし」
『ほんとなんでそんな性格でネクロマンサーやってんだか…………』
「…………さっさと帰るぞ」
くま五郎の呆れたセリフを無視し強がって隠し通路を駆け抜けようとしたその時。
ガッギガグガガガガグジッ
後ろで壊れかけの機械音と腐った肉が不快な音を立てた。
その音にアキは完全に停止し、ワンテンポ遅れてギクシャクとした動きで後ろを向き。
目が合ってしまった。腐りきり、眼球の無くなった双眸と消えかけの怪しく赤く光る双眸に。
「あっ、『アサルトチャージ』!!」
その瞬間、アキは通路を向きスキルを使って全力疾走を始めた。
あばいやばいきもいあもい!!何あれ!?壊れかけのオートマタに死体が癒着しててバイオなハザードに出ててもおかしくない見た目しておったでな?!
アキが心の中で絶叫していると後ろからくま五郎とほね太郎が追い付いてきていた。
『我が主!!あの化け物どうするのですか!!』
「知らん!今はとりあえず逃げる!それだけだ!!」
『おい太郎、姫は頼んだ』
くま五郎はほね太郎にそう一言残すとアキを持ち上げ、ほね太郎に向かって投げつけた。
「うぉあっぶねぇ!!」
『さあ、早くここから脱出しましょうぞ!!』
ほね太郎は宙を舞うアキをキャッチすると一直線に館の外へと向かって走る。
ほね太郎に担がれながら周りを見ていると、後ろでの戦闘の余波なのか館全体が揺れている事に気が付いた。
これは急がないと生き埋めにされそうだ……
「セキトバ!!」
『なんでしょう』
「外まで頼んだ!」
『え、ちょ、我が主?!』
『おまかせあれ』
俺はほね太郎からセキトバに飛び移ると、家具など気にせずセキトバを走らせ屋敷の外へと飛び出した。
すると飛び出た数秒後に館が崩壊を始め崩れていったのだった。
ちなみにほね太郎とくま五郎は外に喚び出したので無事だ。
「酷い目にあった、さて、セキトバ街まで乗っけてってくれ」
『我が主、安心するにはまだ早いと思われます』
完全に気を抜き街に帰ろうとしているとほね太郎が真剣なトーンでそう言い放った。
「それはどう言う…………」
アキが質問しようとしたその時、崩壊し瓦礫となった館が大きな人型を作り始めたのだ。
その様子を見ていると空から一枚の紙が降ってきた。
「なんだ、これ……『オートマタたんかわいいはぁはぁ』?ふざけんな!!なんでこのタイミングでこんなの見なきゃ…………」
手に取ったそれを投げ捨てようと思ったアキだったが、偶然見えたその言葉に動きをとめた。
「オートマタたんは凄い、この愛の巣と同化して僕の事をあの下賎な貴族と数十人を超える護衛の兵士から護ってくれた…………」
これこそ読むべき物だった…………
そう軽く後悔しつつアキはセキトバに乗り、館の化け物から逃げる為に駆け出した。




