諦めた方が多分幸せだった
とりあえずものすごーく不本意だが、マオが仲間になることは決定した。勇者達が酒場を後にしようとした時、彼らは呼び止められた。
『勇者様!我々も仲間にしてくださ「却下」
もはや最後まで言わせねぇよ?という空気を出している勇者。疲労からか笑みも消え、真顔である。
『なか「却下」
もはや勇者は話を聞くつもりもないようですな。
『何故に!我らの方がそこの小娘よりも「ウザイよね」
辛辣なツッコミに場が凍る。しかも勇者は真顔である。そのツッコミは、勇者の本心でもあった。彼らはむさい上にウザい。こんなむさくて落ち着きがないオッサン達は、危険人物だが戦力にはなりそうなマオより連れていきたくない。
しかし、オッサン達はしつこかった。勇者が暴れださないギリギリのラインでしつこく、殴られても蹴られても罵倒されても諦めなかった。
「…とりあえず、オレの身がもたないから、1人だけなら連れてくよ」
ついに、勇者の方が折れた。しかし連れていくのは一人だけ、と提案した。
『なれば、我ら秘蔵の一発芸を…』
「じゃんけんで決めて」
『了解であります!』
全く芸を見る気がない勇者はじゃんけんで決めろと提案した。笑顔が怖すぎる勇者の申し出に不満を言えるわけもなく、オッサン達は真剣にじゃんけんをした。
『じゃんけんぽん!』
『あいこでしょ!しょ!』
彼らは全身全霊をこめて、全力でじゃんけんをした。そのためかじゃんけんは全く終わらず、あいこを連発している。
「ねぇ、確かここ、仲間の改名できたよね。連れていくやつの名前はパシリにして」
「アタシは別にかまわないけど…ぼーちゃん、今日1日でだいぶ荒んだわねぇ」
「…半分はルイージさんのせいだよ」
「いやん☆お詫びにパフパフしてあげようか?」
「…………………………ケッコウデス」
一瞬魔が差したが、ルイージは母の友人である。うっかり頷こうものなら、事実に尾ひれと背びれと胸毛もデコって盛りに盛った情報が母に伝達されるにちがいない。
ハニートラップで死にたくはない。ギリギリで理性が勝ってよかったと、勇者はため息をついた。
さて、じゃんけんは未だに続いている。既に10分以上経過しているが、決着がつかない。どんなミラクルだよ。
もう奴らを無視してここに置いていきたいのが本音だが、置いていけば確実に三人は追いかけてくるだろう。
勇者は呆れつつも決着を待った。一人とはいえウザイオッサンを連れていってやるのだから、名前がパシリになる程度の嫌がらせは喜んで受け入れて欲しいと思った。
1時間後。
「やった!我の勝ちだ!勇者様、我の名前は…」 3人のなかで、かなり筋肉ムキムキの男が勝利した。
「おめでとう、パシリ」
勇者は満面の笑みだ。
「おめでとう。今日からアンタの名前はパシリよ」
「よろしく…パシリ」
「え?え?我には親がつけてくれた…」
「じゃあ、仲間も決まったことだし、今日の宿でも探すか。パシリ、探してきて」
勇者の笑みは、黒いを通り越し、どす黒かった。
「はい!喜んで!!」
パシリはスゴい速さで走っていった。
もはやボケなど忘れていた。本気の走りである。じゃんけんで1時間待たされた勇者の殺気は凄まじいものだった。
『実は、選ばれなかった我らのほうがラッキーだったのだろうか』
「たぶんね」
勇者はアッサリそう言った。
「ステキ…」
全体的に引き気味の冷たい空気の中、マオだけが勇者にうっとりしていた。
パシリの明日は暗い。