ルイージの酒場
お約束の酒場で仲間探しになります。
勇者は酒場に来ていた。ここは冒険者の斡旋所も兼ねている。
仕切っているのは色っぽい女主人でルイージと言う。間違っても髭面ノッポのおじ様ではない。
顔見知りである勇者を見つけると、フレンドリーに話かけてきた。
「あら、ぼーちゃん(本名がボケだから)ついにこの日が来ちゃったのね」
「なんで知ってるのさ」
明らかに嫌そうな顔をする勇者。
「あぁ、アンタの母さんが、せめて旅立つ日までは普通に育てたいって言ったから、皆知らんぷりしてたのよ」
「普通に?」
勇者はこれまでの生活を反芻した。
彼は母に無茶苦茶な修行もどきをさせられていた。
焼いた石の上を重り付で走る、日頃から500キロの重り付で生活する、水上を走る等々。出来たら人類として何かが終了しそうな感じで暮らしていた。こっちの人間なら間違いなくご臨終な数々の修行らしき虐待。あれのどの辺りが普通なのか、是非お伺いしたいものである。
数々の無茶を思い出し、精神的に落ち込む勇者。
空気が湿っぽくならないよう、女主人は明るく言った。
「ほら、仲間が欲しくてきたんでしょ?」
女主人オススメという3人が仲間になった。
1時間後。
「返品」
「早いわね。ぼーちゃんにピッタリの子達だと思ったのに」
「ツッコミどころがありすぎて、冒険どころじゃないよ」
買い物に出た際に3人は落ち着かず、勇者はツッコミしまくりだった。相性以前の問題である。買い物ぐらい普通にさせろと言いたい。
『我らボケ3人衆がお気に召さないとは!』
「オレが欲しいのはボケでなく共に戦う仲間だよ!」
もはやハリセンを使わず、裏拳でボケ3人衆をボーリングみたいに10メートルほど吹き飛ばした。
『パテックシュウ!!?』
3人とも同じ意味不明な…なんとなく筋肉痛と打撲に効きそうな叫びを発しつつ吹き飛んだ。
女主人は吹き飛んだ3人を全く気にせず勇者と話していた。
「あら、そうだったの?」
「アンタも勘違いしてたんかい!ボケはいらん!なんの役に立つんだ!」
「…ストレス解消?」
ルイージは首をかしげた。地味にとんでもない返答である。
「3人もいりません!」
ルイージは、右手をぽんと左手に置いた。いわゆる、なるほどのポーズ。
「それもそうね」
「ちゃんと考えてから薦めてくださいよ…」
さすがの勇者も朝から暴れすぎて(ツッコミすぎて)疲れていた。
結局、ルイージは1人の女の子を紹介してくれた。
明らかに魔法使い風の格好をしている。
「この子が、ウチで最凶の魔法使いよ」
「大変字が気になりますが、誤変換じゃありませんよね?」
なんとなく敬語になる勇者。女の子からは危険な気配がした。見た目は清楚可憐で大人しそうな女の子。強そうではないが…強そうではないのだが…どことなく母を彷彿とさせる…強者のオーラがあった。
「うん。あそこの山ぐらいなら軽く吹き飛ばせるみたいよ」
みたいって…しかも結構大きな山だ。
女の子は無表情のまま真顔で山を指差し、言った。
「吹き飛ばしますか?」
「いや、無意味に地形変えても仕方ないから結構です」
言葉から相手の本気を悟り、勇者は丁重にお断りした。ルイージに向き直る。
「あの、普通最初の仲間って、そんな強い奴いないと思うんだけど」
ルイージはにっこり笑って勇者に言った。
「これはゲームじゃなくて、現実よ?」
「そんな…大半のRPGを根底から覆す発言を…」
ちょいちょいと服の裾を引っ張られた。いつの間にか魔法使いの女の子は勇者の後ろにいた。
全く気配を感じなかったため、勇者は素で驚き、何もリアクション出来なかった。
「マオです。よろしくお願いします」
女の子…マオが微笑む。勇者に手を差し出した。
その微笑みはとてつもなく邪悪で、果てしなく黒かった。否と絶対に言わせないという空気を感じる。
最凶の意味を確かめる勇気は、勇者にはなかった。
…………………………。
勇者は硬直しつつも脳内で壮絶な葛藤を繰り広げ、ついに結論した。
「よろしくお願いします…」
無言の圧力に負け、勇者はマオを仲間にすることにした。
後に勇者は語る。
「だって、怖かったんだもん!」
勇者はビビりだった。さすがは母親が怖いから旅に出た男である。