表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/18

ルイージの酒場

 お約束の酒場で仲間探しになります。

 勇者は酒場に来ていた。ここは冒険者の斡旋所も兼ねている。


 仕切っているのは色っぽい女主人でルイージと言う。間違っても髭面ノッポのおじ様ではない。

 顔見知りである勇者を見つけると、フレンドリーに話かけてきた。


「あら、ぼーちゃん(本名がボケだから)ついにこの日が来ちゃったのね」


「なんで知ってるのさ」


 明らかに嫌そうな顔をする勇者。


「あぁ、アンタの母さんが、せめて旅立つ日までは普通に育てたいって言ったから、皆知らんぷりしてたのよ」


「普通に?」


 勇者はこれまでの生活を反芻した。

 彼は母に無茶苦茶な修行もどきをさせられていた。

 焼いた石の上を重り付で走る、日頃から500キロの重り付で生活する、水上を走る等々。出来たら人類として何かが終了しそうな感じで暮らしていた。こっちの人間なら間違いなくご臨終な数々の修行らしき虐待。あれのどの辺りが普通なのか、是非お伺いしたいものである。

 数々の無茶を思い出し、精神的に落ち込む勇者。


 空気が湿っぽくならないよう、女主人は明るく言った。


「ほら、仲間が欲しくてきたんでしょ?」


 女主人オススメという3人が仲間になった。






 1時間後。


「返品」


「早いわね。ぼーちゃんにピッタリの子達だと思ったのに」


「ツッコミどころがありすぎて、冒険どころじゃないよ」


 買い物に出た際に3人は落ち着かず、勇者はツッコミしまくりだった。相性以前の問題である。買い物ぐらい普通にさせろと言いたい。


『我らボケ3人衆がお気に召さないとは!』


「オレが欲しいのはボケでなく共に戦う仲間だよ!」


 もはやハリセンを使わず、裏拳でボケ3人衆をボーリングみたいに10メートルほど吹き飛ばした。


『パテックシュウ!!?』


 3人とも同じ意味不明な…なんとなく筋肉痛と打撲に効きそうな叫びを発しつつ吹き飛んだ。


 女主人(ルイージ)は吹き飛んだ3人を全く気にせず勇者と話していた。


「あら、そうだったの?」


「アンタも勘違いしてたんかい!ボケはいらん!なんの役に立つんだ!」


「…ストレス解消?」


 ルイージは首をかしげた。地味にとんでもない返答である。


「3人もいりません!」


 ルイージは、右手をぽんと左手に置いた。いわゆる、なるほどのポーズ。


「それもそうね」


「ちゃんと考えてから薦めてくださいよ…」


 さすがの勇者も朝から暴れすぎて(ツッコミすぎて)疲れていた。


 結局、ルイージは1人の女の子を紹介してくれた。

 明らかに魔法使い風の格好をしている。


「この子が、ウチで最凶の魔法使いよ」


「大変字が気になりますが、誤変換じゃありませんよね?」


 なんとなく敬語になる勇者。女の子からは危険な気配がした。見た目は清楚可憐で大人しそうな女の子。強そうではないが…強そうではないのだが…どことなく母を彷彿とさせる…強者のオーラがあった。


「うん。あそこの山ぐらいなら軽く吹き飛ばせるみたいよ」


 みたいって…しかも結構大きな山だ。

 女の子は無表情のまま真顔で山を指差し、言った。


「吹き飛ばしますか?」


「いや、無意味に地形変えても仕方ないから結構です」


 言葉から相手の本気を悟り、勇者は丁重にお断りした。ルイージに向き直る。


「あの、普通最初の仲間って、そんな強い奴いないと思うんだけど」


 ルイージはにっこり笑って勇者に言った。


「これはゲームじゃなくて、現実よ?」


「そんな…大半のRPGを根底から覆す発言を…」


 ちょいちょいと服の裾を引っ張られた。いつの間にか魔法使いの女の子は勇者の後ろにいた。

 全く気配を感じなかったため、勇者は素で驚き、何もリアクション出来なかった。


「マオです。よろしくお願いします」


 女の子…マオが微笑む。勇者に手を差し出した。

 その微笑みはとてつもなく邪悪で、果てしなく黒かった。否と絶対に言わせないという空気を感じる。


 最凶の意味を確かめる勇気は、勇者にはなかった。


…………………………。


 勇者は硬直しつつも脳内で壮絶な葛藤を繰り広げ、ついに結論した。


「よろしくお願いします…」


 無言の圧力に負け、勇者はマオを仲間にすることにした。




 後に勇者は語る。




「だって、怖かったんだもん!」


 勇者はビビりだった。さすがは母親が怖いから旅に出た男である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ