王様に会いました。
勇者は城を訪れることになった。なんでも勇者は旅立ち前に王様に挨拶するものらしい。面倒だが怖い母に脅されたから仕方ない。
話はすでについているらしく、アッサリ玉座の間に通された。セキュリティ大丈夫なのかなぁ。オレオレ詐欺…最近は母さん助けて詐欺ならぬ勇者詐欺にあわないのだろうか。
玉座の間は、赤い絨毯が敷かれ、壁にも彫刻が施されていた。玉座自体も凝った細工がなされており、美しく威厳があった。
玉座の王も玉座に負けず劣らず威厳があった。長いヒゲに王冠。ありがちなスタイルながらも、王としての気品と風格があり、少年は少し緊張した。
隣にはヒョロッとしていて神経質そうな感じの宰相様もいる。
失礼のないようにしなくては、と少年は思った。
「よくぞ参った。勇者…ぷふっ」
名前を言おうとして王様が笑った。
「陛下、笑ってはいけません。彼は希望の星なのですぞ…ぶふふっ」
宰相様も堪えきれずプルプルしている。
「だって、面白いんじゃもん。だって名前がアレで苗字がコレよ?笑うじゃろ。つーかお前も笑っとるじゃろ」
王様、案外フランクなタイプらしい。喋りだしたら気品とか威厳とか、まったく無くなった。
「いい年して、もんとかアレとかコレとか言わないでください…ぐひゅっ」
「えー、だって、お前、真面目な顔と空気で言えるー?笑うでしょ、コレ」
少年は、ただ静かに耐えていた。てめぇら人の名前を馬鹿にしてんじゃねぇよ。僕だって好きでこんな名前になったんじゃない。ふつふつと燃えたぎる怒りを抑えに抑え…………
ついに、ナニかがプツンと切れた。あれが堪忍袋の緒というやつなのかもしれない。
「イイ度胸してますね、陛下」
少年は満面の笑みだ。しかし瞳は冷えきっていた。怒りすぎると逆に冷静になるものだ。
知り合いがこの場にいたら思っただろう。少年のお母さんに超そっくりだと。笑顔が怖い。常人が夢に見たら怯えそうなレベルだ。少年は顔立ちが綺麗であるため、余計に恐ろしかった。
少年はゆっくり王様に近づいた。王様は蛇に睨まれた蛙状態で、全く動くことすら出来ない。
王様が射程に入ったのを確認し、少年は渾身の力を込めてハリセンをフルスイングした。
小気味いい音が鳴り響き、王様が宙を舞った。
「見事だ…勇者ボケ=ツッコミよ…ぐふ」
ぐったりしている王様を見て、少年…勇者はようやく正気になった。
説明しよう!この名前と名字は彼にとって地雷であり、いじるものを薙ぎ倒す習性があるのだ!知人達は『精神的過剰防衛』と呼んで恐れている。
ちなみに当初少年から勇者ボケにしようとしたら本人から苦情が来たので、少年は勇者と記載させていただくことになった。
「はっ!つい!陛下ぁぁ!!」
慌てて王様に駆け寄る勇者。顔にくっきりハリセンの痕がついている。
「大丈夫です。仕事サボりたいから、死んだフリしてるだけですよ」
王様がどつかれたのに、宰相は心底どうでもよさそうだ。この人、王様が嫌いなんだろうか。
兵士達は少年のご乱行にドン引きしている。少年も自分でやらかしておきながらドン引きしている。
「あの、オレは不敬罪とかにはならないんですか?」
王様の事より己の身が心配だった少年は、宰相に聞いてみた。
「平常時ならそうだが、魔王を倒す勇者が投獄されて国が滅んだら、意味がないだろう。これは準備金だ。使いたまえ」
お金を宰相から渡された。とりあえず、お金はあって困ることは無いので少年は素直に受け取った。
「…こんなハリセン持った子供ごときに、本当に魔王が倒せると思ってますか?」
少年は、自分が今一番気になっている事を宰相に聞いてみた。
「君のツッコミがあれば大丈夫だYO☆」
視線をそらしつつ、めちゃめちゃイイ笑顔を見せる宰相。政治的手腕には定評があるのだが、彼は嘘をつく才能がないようだ。
イイ笑顔は死ぬほど嘘くさい。
「不敬罪には、ならないんでしたよね?」
勇者は宰相にそう確認した。宰相が頷くと母親そっくりの笑みを浮かべ、王様ごと玉座を持ち上げた。
ちなみに、椅子だけで総重量300キロはある。普通なら軽々持ち上げられるものではない。しかし、勇者は軽々と…まるで発泡スチロールを持っているかのように持ち上げ、無造作にポイッと王様ごと投げた。
王様+玉座は、宰相のギリギリ手前に落ちた。
宰相はだらだら汗をかいている。直撃したら明らかに即死である。
「ありゃ、外れたか。…宰相閣下?僕は不敬罪にならないんですよね?」
にっこり笑う、見た目は華奢で可憐な美しい少年。
しかし、笑顔が怖すぎる。瞳はどこまでも冷たく、微塵も笑っていない。
また、纏う空気が限りなくどす黒い。兵士も怖すぎて、全く助けに入れない…いや、もはや殺気にあてられて動くこともできない。こいつ勇者じゃなくて魔王なんじゃないかと何人かが思ったらしい。
「イヤァァァァァ!!」
勇者はこの後、城の人間の一部がトラウマになるぐらい激しく大暴れした。
王様と宰相は泣きながら詫びたとかなんとか。
結局、お城の3分の2を破壊して、勇者は城を後にした。
それから、近衛兵が何人も辞職したらしいが、それはまた別の話。