【第九話】絵本の天使
王国から、柱に隣接する国のひとつ『アラマヤカン』へは鉄道でまる一日かけて移動した。
これから一ヶ月ほど滞在して、六次元魔法についての調査をすることに決まった。
「大使館への連絡は済ませてあるよ。せっかくだから、まずは観光でもしようじゃないか」
直径にして300キロメートルとも言われる巨大な柱。周囲は山に囲まれていて、その山の中心を国境線にして四つの国が、柱に近づくルートを有している。そのため、柱の調査等はその四つの国が協力して行っている。
「柱と言うより、壁だな・・」
現在地から柱までは、およそ50キロメートル。空気で霞んで遠くに見えるその風景は、『壁』という表現がぴったりだった。
よく見ると、木肌のような模様も見て取れた。
「約300キロですものね・・こんな景色も、この辺りの住人は慣れっこなのでしょうか」
リンゼも感嘆のような、唖然としているような感想をもらす。
壁のようではあるが、『すきま風』が吹くらしいよ。とミュカが付け足した。
「私は『天使の柱』に関する資料も調査するよ。ノエル君は六次元魔法の調査をしてくれ」
王国とは違ったものが、たくさんあるはずだ。
三人は街の中心部にある図書館へ向かった。
・・・
途中、思わぬ人に会った。
あれ、確か同じクラスの。向こうも気づいたらしく、近づいてくる。
「ノエル!元気にしてた?スクールに顔を出さないと思ってたら、もう働いてるんだって?すごーい!」
彼女は家族旅行で来ていたらしい。山に行ってきたらしく、もともと褐色の肌が日焼けでさらに黒くなっていた。適当に談笑し、じゃあねー、と別れる。
「ふぅん、きれいなかたですね」
リンゼが視線を刺してきた。
「ごめん、ちょっと時間を取ってしまった」
「いえ、このぐらい。ノエル様は誰にでも優しいですからね」
これも護身術のようなものさ、と返しておいた。
・・・
「帝国は、創作物になんというか、活気がありますね」
図書館でリンゼが、僕が見ていた本棚の方に歩み寄りながら話した。
「あぁ、そうかもしれない。規制があまり厳しくないって聞いたことがある」
僕も小さめの声で答える。
たくさんの国の集合体・・帝国では様々な価値観がある故にまとめることは難しく、お互いに領域を侵さないことで落ち着いたバランスを保っているようだ。
「リンゼは、気になる本でもあった?」
「今は絵本の棚を見ていました」
本を開くと飛び出る仕掛けや、語り聞かせ用のぬいぐるみが一緒になっているものなど、王国にあったものより作りが細密なものが多くあった。
ふと、一冊の絵本を手に取った。内容は、人に興味を持った一人の天使が、姿を消して人にいたずらをしているうち、その代償として姿が消えたままになってしまうというものだった。
「ゴースト・エンゼル・・どこにでもいる天使の話、魔法の代償・・か」
六次元魔法には、どんな代償があるのだろう?
それこそ時間を移動するというなら、肉体は無い方がいいのではないだろうか・・?
考えていると、リンゼが工学魔法兵装の大きな本を抱えて持ってきた。かわいい。
「気になる創作物があれば、作者に話を聞くというのもいいのではないでしょうか」
この絵本の作者は・・?柱の反対側の国の出身らしい。
「リンゼは、どこまででも護衛いたしますよ」
何から手をつけて良いのか迷う、この任務。ひとまず進んでみよう、という一歩目を、リンゼが手をつないで一緒に踏み出してくれた。
「ありがとう、リンゼ」
リンゼは口をにっ、として笑った。
「おや二人とも、『いいかんじ』ではないかな?」
ミュカも、ニヤニヤしながら寄ってきた。
「はは、ミュカにももちろん、感謝しているとも」
ふふん?と微笑みかけるミュカ。ただの観光以上に、この時間はとても楽しいものだった。