【第七話】平地、召喚合戦
ミュカは周囲を凝視した。
召喚術を発動させるエネルギー源となる『秘薬』の入った小瓶を握り締め、兵士を召喚する場所を睨みつける。
小瓶の中の秘薬が微かに減少し『門』となる魔方陣が描かれると、兵士が飛び出してきた。
さて、相手はどれだけの悪魔を召喚できる・・?
「ノエル君、術者を探してくれ」ノエル君に単眼鏡を手渡す。そっちは任せた!
ざっと見て5、60体程の悪魔がうごめいているが、リンゼが順調に倒してくれているので、準備してもらった一個中隊、60人の兵士で十分対応できそうだ。40人を分けて召喚し、20人は待機させておく。
思ったより早く片付く・・しかし、なにか引っかかる。
その予感はすぐに的中してしまった。
ノエルが「風上に新手だ!」と叫んだ。
同じ事をやられたのか!!
30体程の悪魔と、あれは・・
大きな『アゴ』が影から暴れながら出てくる。巨大なワニの体に長い手足を持つ、異形の悪魔が現れた。残る兵士を全て召喚してかく乱する。
足りない・・!
「リンゼ!」しまった!と思った。草原ではリンゼの靴のモーター・パワーが力を発揮できない・・リンゼに頼りすぎてしまった。
ドス!とリンゼが投擲した剣が刺さり、悪魔が一体、灰になって消える。
リンゼも「持ちこたえて!」と叫ぶ。
その時ノエルが「秘薬を貸してくれ!」と言ってきた。
私は迷わなかった。
「リンゼ!!飛べぇ!」
私は驚いた。ノエルはリンゼの足元に『滑走路』を召喚し、リンゼにモーター・パワーを使わせたのだ。
ビュウン!!と風が唸る音とともにリンゼが飛ぶ。
一気に相手を自分の間合いに捉えたリンゼは、渾身の一撃で異形の悪魔を討ち取った。
青い光が消える。召喚術者は取り逃がしてしまったようだ・・。
・・・「すまない、私の未熟だった」ミュカが兵士たちに向けて言う。
僕も召喚術者を見つけることができなかった。
「ノエル様、先程はナイスサポートでした」とリンゼが切り替えた。
「リンゼも召喚術の免許と秘薬は持っているのですが、苦手なので使っていませんでした」
そういえば無免許召喚をしてしまったのか。怒られる・・!と思っていると、
「事情は私たちが見ている。大丈夫さ」
とミュカが言ってくれた。
「リンゼ!」と兵士の一人がリンゼに声をかけた。なにやつ!?
「兄ぃ様」
お兄様でしたか!
リンゼは四人兄妹の末っ子で、三人の兄がいることがわかった。上二人は女王様を守る少数精鋭部隊・銃士隊のエース、三番目だけ『大所帯』の親衛隊にいるそうだ。
「すばらしい活躍だったな、召喚術も教えてもらったらどうだ?」
と、目が合った。
「ノエル様がやってくれるので結構ですよーだ」
リンゼは僕の後ろにまわり込み、お兄さんに笑いかけた。かわいい!
そうだ、僕は召喚術の免許を取って、リンゼの魔法サポートをできるようにしよう!
「工学魔法兵装の整備も覚えたいな」
と言うと、向こうを向いたままリンゼが、ノエル様なら、できそうですね。と言ってくれた。
・・・家に戻ると、
「ああ、さっきの滑走路これかぁ」とミュカが気づいた。
家の屋根の板が一枚、無くなっていた。