【第六話】帝国の召喚術者
『原典』に特に気になる記述は見つからなかった。
絵画やステンドグラスにも描かれている、天使たちが魔法を行使する姿。
天使たちは、あらゆる魔法で人を喜ばせ、時には人に罰を与え・・空を雲で覆い隠してしまった。
「召喚術で天使を呼び出せれば、六次元魔法のこと教えてくれないかなぁ」
ミュカがぼやく。
一週間ほど、教会を巡って天使の逸話を調べてみたが、特に六次元魔法に関係があるようなものは見つからなかった。
空を覆い隠してしまったとうことは、空の上に何かがある?
「召喚術の事故で天使が出てきたなんて記録は、無いんだよね?」
天使は、本当に存在するのだろうか。僕の疑問に、
「少なくとも王国には無いね」とミュカが答えた。
悪魔の中にも話の分かる良い奴とか、いないものなのかな?と僕が言うと、ハハハとミュカが笑った。
「それは見かけだけで、悪魔じゃないやつなんじゃないかな」
確かに。
「仮に六次元魔法が時間を支配できるようになるとして、どんなことが起きるんだろう」
今この瞬間さえ支配され、天使たちは僕らのことを笑っているのかもしれない。
「うーん、身近に起こった不思議事件とか、そういうのを調べていく方が案外いいかもしれないね。これは本当に長期戦だなぁ」
ミュカはそう言って、よし!と何かを決意した。
「ちょっと息抜きをしよう!」
賛成!最近はずっと部屋の中だった。リンゼもずっと窓を眺めていることが多くて退屈そうだったし。
「馬車を出してもらって、お昼はピクニックといこう」
いいですね、とリンゼも乗ってきた。
ちょうど雲も、いつもよりは薄くなっているような気がする。
馬車が着いた場所は、町外れにある広大な草原。この先には深い森がある。
う~ん、広い!背伸びをしながら、大きくあくびをした。
見ていたリンゼもまねをして、背伸びのあとに「くぁ・・」とあくびをした。かっわ。かわいすぎる。
「お弁当はなんだい!?ノエル君!」
「サンドイッチにしました!トマトも入ってます」
私は紅茶をいれてあげよう!とミュカも楽しそうだった。
サンドイッチを平らげ、ゆっくり寝転ぶ。
遠くに見える巨大な柱に、僕は特別なものを感じ始めていた。
いずれ、あの柱にも行くことがあるかもしれない。柱のある場所は帝国領、さらに山に囲まれているため、簡単には辿り着けない。
そう考えていると、リンゼが何かに気づいて小声で告げた。
「召喚術がきます、おそらく教会の時と同じ・・!」
ふふ、とミュカが笑い、立ち上がった。
「久しぶりだね、帝国の召喚術者君!」
帝国!?まさか、女王の特使を相手に召喚術者をけしかけるなんて。大胆すぎる。
「調べはついているんだ!」
ミュカが姿の見えない者に向かって叫ぶと、周囲は一瞬で青い光に包まれた。
草原にぽつぽつと黒い染みが生まれ、そこからぞろぞろと悪魔が湧き出してくる。
このために親衛隊を借りておいたんだ、とミュカが言った。
「リンゼは風上から遊撃!私はリンゼが囲まれないよう兵士を小隊ごとに召喚し援護する!」
親衛隊の偵察兵を召喚し、それが待機していた兵士への合図となる。
「スクランブル!!」ミュカが叫んだ。
召喚術による合戦が始まった。