【第五話】天使の御前で
礼拝堂で話した男は、名前をデューク=レーンといった。息子の名前はエディ=レーン。
彼は無事、息子の待つ『星の世界』に帰ることができるのだろうか・・
教会の書庫で、『原典』のページを慎重にめくりながらも、僕はデュークのことが頭から離れなかった。
「五次元魔法、召喚術による事故は通常、使用者に責任がある」とミュカが沈黙を破る。
召喚術・・免許と、媒介となる『秘薬』が必要であり、使用時には周囲が青い光に包まれる。『秘薬』の精製には大掛かりな施設が必要であるため、何かあった場合は流通ルート、使用履歴から辿ることができる。
「召喚術は転送の他に、海の底の悪魔を呼び出して使役することもある」
ミュカは強かだった。
「デュークが僕らを惑わす、悪魔の可能性もあるってことか・・」
召喚術で使役される悪魔は通常、大人くらいの背丈で、性別と『おへそ』が無い。命令が無ければ衝動的に悪さをする、賢くないやつらだ。
人に化ける悪魔なんてのは、いたなら100年に一度くらいの珍しさだ。
でも、とミュカが返す。
「私は実のところ信じているんだ、『星の世界』のこと」
その時だった。
「ミュカ様、ノエル様、外で何かあったようです」リンゼがはっきりとした声で告げる。
リンゼが先頭に立ち、警戒しつつ書庫を出ると外は一面、青い光に包まれていた。
「召喚術!?」
何者かが召喚術を使用している。
僕たちは礼拝堂に戻り、司祭様の様子を伺う。
「この付近での召喚術使用予定は聞いていませんよ!君たち、この礼拝堂なら安全なはずです」
外の青い光が礼拝堂を覆い、天使の描かれたステンドグラスが美しく光っている。そこへ・・
悪魔が現れた。
礼拝堂の床から染みのように影が広がって、次々と『這い出して』くる。
「お任せください」とリンゼが飛び出す。
酔っ払いをのした時のように、地面を滑って高速移動しながら悪魔を槍で突き刺していく。
「リンゼの靴、そうか、ローラーが仕込まれているんだ」と僕が気づくと、ミュカも反応した。
「リンゼは身のこなしと武器の扱い、それに戦いのセンスってのが抜群なんだ」
細い腕で巨大な槍を振り回しているのも、靴のモーター・パワー同様、柄の部分にヴァリアブル・グリップという工学魔法兵装が使用されているおかげらしい。
ゴスゥ!と砂を突き刺したような音を立てて一回り大きな悪魔の動きを封じる。
そして槍の中から二振りの剣を抜き出し、リンゼは周囲にいた悪魔を一掃した。
「いなくなった・・?」
ステンドグラスから差していた青い光が消え、悪魔たちは灰のようなものに変わって消えていった。
「これが偶然なら、いいんだけどね」とミュカが言った。
「親衛隊に召喚術使用者の調査を依頼しておきます。それとノエル様・・」
リンゼに見つめられ、ぴっ、と緊張する。
「怖がらないでください。リンゼは二人を守ります。それに・・」
ステンドグラスをバックに、天使のような微笑みを向けられる。
「リンゼも、六次元魔法と星の世界のこと、信じていますから」
天使すぎる・・と僕は思わずつぶやいていた。
「は?」天使の微笑みはかわいいジト目に変わった。