ミネラルウォーター『爽やかブルース』
思いついて書いた小説です。ちょっぴり学ぶべきことがあるかもしれませんが、楽しんでくれたら嬉しいです。
改めて電話が嫌いになった理由をこれから話すよ。俺は電話が嫌いだけど固定電話を自宅に備えてはいる。万が一の緊急事態や天変地異の連絡を教えてくれたり、念のために、こちらからも知らせる連絡手段のために置いていた。電話はどこの家にもあるはずなので、俺、個人としては、単なるインテリアとして電話を捉えている。
これから話すことは今から2日前の話だ。昼頃に見ず知らずの人間が、どこで調べたのかは分からないが電話が掛かってきた。
『はい、村瀬です』
『わたくし、ウォーターズという天然水を扱う会社の水沼と申します。お宅のお水はいかがですか?』とセールスの電話が掛かってきた。
『水は水道水で十分だよ』と言って俺は電話を一方的に切った事があった。しばらくして、また電話が掛かってきた。
『はい。村瀬です』
『先ほどお電話致しました水沼です。水道水は危険な物質が含まれている危険性がありますよ』
『例えば?』
『それは言えません』
『じゃあ、言うなよ』
と言って俺はまた切った。しばらくして、また電話が掛かってきた。
『はい』
『川田さんですか?』
『いえ違います』
『あっ、間違えました』
と間違い電話が掛かってきたが、どうも水沼っぽい声だった。
しばらくして、また電話が掛かってきた。
『はい』
『内藤さんのお宅ですか?』
『違います』
『あっ、間違えました』
『おまえ、水沼だろ?』
『えっ!?』
『水沼だろ?』
『違いますよ』
と言って切れた。
水沼だな。次、掛かってきたら、ミネラルウォーターは要らないと言おう。
10分後、また電話が掛かってきた。
『水沼か?』
ガチャン!ツーツーツー。
ほとんどイタズラ電話になっているよな。
ウォーターズという会社を調べたら実際はしていた。水沼の存在だけが怪しくなってきたな、と俺は思った。
しばらくして、また電話が掛かってきた。
『はい』
『水沼です』
『どうした?』
『村瀬様、ミネラルウォーター、1ケース10本で良いので、買って頂けないでしょうか?上司が今月のノルマをクリアしなかったら、水沼の首を真っ先に切る、と言われてしまいまして…うぇん(涙)』
『いくらするんだ?』
『今、村瀬様の自宅付近にいるのですが、今からですね、お値段も含めまして、詳しいお話を、ご説明に、お伺いしてもよろしいでしょうか?お願いいたします!』哀願する水沼が哀れに思い始めた俺は考えた。
『分かったよ。今から来い』
『ありがとうございます!』水沼は涙声になっていた。
5分後、
ピンポーン♪
「はい」
「水沼です」俺は玄関を開けた。水沼は2ケースのミネラルウォーターの箱を抱えていた。
「話だけは聞くよ」「村瀬様、こちらの天然水当社が発売しておりまして『爽やかブルース』という商品名です。バナジウムやミネラルが豊富に含まれていまして、清少納言が飲んでいたらしい天然水です」
「らしい!?」
「はい。エルヴィス・プレスリーが来日した時には、当社のバックアップの元、お風呂のお湯代わりとして沸かしたらしい天然水です」
「エルヴィスは来日していないよ」
「えっ?」
「来日していない」
「あわわ、間違えました。ジミーです。村瀬様、ジミーです」
「どこのジミーだ?」
「ジェームス・ディーン」
「帰れ!!今すぐ帰れ!!」
「また来て良いですか?」
「ダメだ」
「上司が、上司がぁ!」
「ちなみに、1ケース、いくらするんだ?」
「期間限定商品でして80万円です」
「水を限定扱いにするんじゃない!あきらかに、詐欺だな。嘘八百を並べて人を陥れて騙す仕事は仕事ではない」
「村瀬様、私は新婚でして可愛い嫁がいます」
「ほ〜う。いつ結婚したんだ?」
「1週間前です」
「左手を見せろ」
「ダメです!」
「帰れ!!今すぐ帰れ!!」
と俺は水沼を玄関の外に放り出した。俺はミネラルウォーターを抱えた水沼の左手を見た。水沼は結婚指輪をしていなかった。 俺は玄関の扉の覗き穴を見た。水沼は泣いていた。いや、これは確実に嘘泣きだろう。水沼は、しばらくして、ケロッと普段の顔に戻してからスマホで時間を確認して、踵を返した。
今朝の朝刊の片隅の記事に『ミネラルウォーター詐欺師逮捕』と小さな記事が載っていた。
内容は
『昨夜、午後7時頃、元・警察官の田部良勝さん(75歳)宅にミネラルウォーターのセールスに来た水沼増男(33歳)が田部さんの通報により詐欺容疑で逮捕された。ミネラルウォーターは1ケース10本で120万円もしたとのこで、あまりの高額に驚いた田部さんが、昔、使用していた手錠をその場で水沼容疑者に掛けて緊急110番をした。駆け付けた警察官によると水沼容疑者は「俺は明日、入院中の母の大腸の移植手術に立ち会わなければならないんだ!だから逮捕はやめてくれ!」と泣きながら言い、警察官が不審に思い、水沼容疑者の自宅に電話をしたところ、元気な声で母親が電話に出たので、警察官が母親に事件の顛末について話をした。警察官は母親に「今、何をしていましたか?」と聞くと焼きそばを食べながら、クイズ番組を見ていたとのこと。田部さんは水沼容疑者に手錠を掛けた時、「俺をなめたらイカンよ!」と言ったとのこと』
私は普段から愛飲しているミネラルウォーターを飲みながらこの朝刊を読んだ。
やれやれ。
イカれた奴がいる。
つまり、俺が更に電話を嫌いになった理由がこれなんだ。
終
ありがとうございます!




