感動的な再会…っには、当然ながらならない。
作者の意に反して甘くなる獣人さんと、相変わらずな神官。そして、ヤンデレたちの戦闘開始!
「おーまーえーはぁぁぁっ!!」
ゴチン!
「いたいぃぃっ!!」
頭を押さえて私は蹲った。
ここは『チビ神官!』『獣人さんっ!』ひしっ!て感じで抱き合うとこじゃないの?
なんでゲンコツ。
そんな私の気持ちに気付いているだろう獣人さんは、拳を握った状態のままものすごーく深く溜息を吐いた。
「はあぁぁぁー。まったく、本当に目が離せないヤツだな」
失礼な!
「勝手に迷子になる獣人さんが悪いんでしょ!」
「オレが迷子になったんじゃなくて、そこの死神と戦ってる間にお前が」
「全く!相棒同士で本当、似てるね!」
「……そうだな、悪い」
絶賛迷子中の剣士さんと似たり寄ったりな状態になった獣人さんは、そっと顔を背けて小さな声で謝って来る。
いい年して迷子になったのが相当恥ずかしいっていう気持ちを汲んで、顔を合わせない獣人さんの態度に何もいわないでおこう。
「獣人さんは、大丈夫だった?」
「オレか?あの死神とひたすら戦ったが決着は着かないし、お前がさらわ…いや、お前を見失って焦ってる隙を突かれて神聖魔法で拘束されてただけで、ケガはねーぞ」
「ケガはなかったんだね。よかったー」
途中なんかいってたけど、結論としては『ケガはない』ってことらしいから私は安堵の息を吐いた。
単純に早口で聞こえなかっただけで、別に興味がないわけじゃないよ?
「お前はどうなんだよ?頬の赤みと肉付き、肌の弾力、目の下にクマもなければ髪が痛んでる様子もないから食生活、睡眠はきちんと取れてたとは思うが…」
「えっち!」
「何でだよっ!?」
両手を交差して、私は自分の身体を獣人さんから隠す。
乙女の身体をじろじろ見ないで!しかも、違いがわかる程普段からしっかり観察してるの!?
「変態!」
思わず追加で罵倒すれば、鋭い目をまん丸に見開いてた獣人さんは私と同じくらいの勢いで怒鳴り返して来た。大人げない!
「おまっ!?ひでぇな!大事なヤツのことを心配して何が悪いんだよ!」
「へ………?」
大人げないはずの獣人さん…の言葉に、私はポカンと口を開けて呆けてしまう。
今、彼は恥ずかしげもなく何をいったの?
「だだだ大事ってあれか!我が子的な意味で!」
「そんなわけないだろうが」
「あうっ」
笑って恥ずかしさと真っ赤になった顔を誤魔化そうとすれば、獣人さんは急に真顔になって即座に切り捨てて来る。
真剣そのものの表情と、即答する姿に私の視線は泳ぎまくってしまう。
「あんなこと、自分の子どもにするわけねーだろ」
「ああああんなことって」
「こういうこと、だ」
私は獣人さんよりずっと背が低い。
だから俯くと、彼には表情が見えなくなるんだけど、顎に指を当てられて強制的に獣人さんの方を向かされる。所謂『顎くい』?
顎をくいっとされた私は真っ赤になった情けない顔を獣人さんに晒す羽目になる。
じっくりそれを見下ろした彼は、そのまま親指で私の唇をゆっくりと意味深になぞってうっそうと笑った。
囁く声は低くて掠れ、銀色の目は熱を含んでとろりと甘い。
身を屈めた彼はこつんと私の額に自分ものを当てる。
私の視界いっぱいに、獣人さんの色っぽい表情が…あぁ、近付いてるからこんなに視界いっぱいに映って。
混乱する私とは別に、頭の片隅にいる冷静な私がいう。
ほら、やっぱり欲求不満じゃなかったでしょ!って、今は必要ない情報だよね、それ!?
確かに獣人さんの様子だと、私は彼に大人にしてもらったってことで合ってるだろうけどさ。
「覚えてないのか?…なら、もう一度してやろう」
「もももも、もう一度って」
額をこっつんこしてる状態だから獣人さんとの顔の距離は元々近いのに、彼は更に顔を近付けて来て―……。
「待て」
「待って」
「「!?」」
わわわわわわすれてたよ!?
背後から青髪くんに口を塞がれて、私はやっと二人のことを思い出した。
昔から自分のことを知ってる幼馴染である青髪くんと、大人びた先輩らしい姿しか見せていない後輩になんて情けない姿を見せてしまったんだろう!!
羞恥に真っ赤になる私は、青髪くんの手から逃れることもせずに目の前の二人を眺めることになった。
「お前なぁ…っ!」
仰け反った獣人さんは、距離を取って臨戦態勢で後輩を睨み付ける。
彼はまるで旅をしていたときに遭遇した、強い魔族と戦うときと同じ表情をしてた。
すごく鋭く、殺気立った目をしている獣人さんと対峙する後輩は、顔の近くに付き付けてた大振りのナイフを構えていつも通り覇気の足りない表情で相手を見遣っている。
ところで、どこからそのナイフ出したの?四次元ポケット?
「近付かないで。汚れちゃうから。あんたの存在が穢していい方じゃないんだよ」
「ふざけんな。こいつはオレを選んだんだ。徒党を組んで、力ずくで連れて行くことしか出来ないヤツが出しゃばるな」
「選んだ…?ははっ、哀れだね。自分が特別だとでも?たかだかケダモノの分際で」
「フン、こいつは優しいんだよ。だから、あぶれたヤツでも傍に置いてやってんだ。それを勘違いしやがって。このクソガキが」
「それはそっちでしょ、オジサン。野良猫にエサをやっただけなのに、勘違いされた挙句に発情されちゃって…可哀想な先輩。大丈夫だよ、今度こそ処分してキレイさっぱり視界から消してあげる」
「それはこっちのいい分だ!!」
お互い毒々しい態度で言葉での殴り合いをしてた二人は、地面を蹴って肉薄する!
獣人さんは戦場にいたらしいし、今は魔王討伐メンバーで実力は折り紙付きだけど、対する後輩は大神殿でのんべんだらりんとしてた子だからあぶな―…。
ガギン!
ザッ
キンッ!
「えええええ!?なんであんな動き出来るの!?」
開いた口が塞がらないよ!!
なんで後輩はあんなアクロバティックな動きが出来るのさ!?どっかにワイヤーでも付いてるの!?もしかして、映画の撮影中!?
のんびり屋な後輩しか知らない私があわあわしていると、いつの間にか口から手を離していた青髪くんが腕を掴んで引っ張って来る。
「行くぞ」
青髪くんの視線は突然はじまった撮影…じゃなくてケンカ、それも獣人さんに固定されていて私の方は全く見ていない。
その睨むような視線を肩越しに振り返って見ていた私は、不思議に思ってその場で踏ん張ってみた。
「なんでさ?こう見えても私、魔王討伐メンバーの一人だからこのくらいのケンカじゃ動じないよ!」
てっきり軽快な動きをする後輩に驚いてる姿を、ケンカに怯えてると勘違いして逃がそうとしてくれてるのかと思った私はそういってドヤ顔をしてみる。
あれ…それとも、青髪くんの方がコワくて私を巻き添えに逃げようとしてるとか?
あり得る!だって彼は、血統書付きの家ネコさまで、こういった野蛮なこととは無縁そうだもんね!
そう内心思いつつ、お姉さんな私は顔にも態度にも出さなかったんだけど、引っ張っている相手に踏ん張られて動けなくなった青髪くんの方はイライラした様子で私を睨んで来る。
理不尽だ!
「そうじゃない!シイナが破られたらマズいといってんだ。ボクではあの獣を止める力はない。だいたい、神聖魔法なんて戦闘力皆無なんだから仕方ないだろ!?」
しかも、なんか逆ギレされた。
外見は成長してるけど、まだまだキレやすいお年頃なんだね。
「別に逃げる必要ないんじゃない?だって、獣人さんだよ?」
「バカいえ。むしろ、お前はバカだな。知ってたけど」
「ムッ!」
優しい獣人さんを怒らせた後輩だって、きっとちゃんと謝れば許してくれるって。
そういいたかったのに、青髪くんは呆れたような顔で私を見下ろして来る。
掴んでた手を離して、身体もこっちにわざわざ向けての態度は本当に理不尽だよね!
しかも、こんなに優しい私を捕まえて『バカバカ』いうなよ!
そんな気持ちが表れてるだろう私の顔を見下ろしていた青髪くんは、呆れ果てた表情を消してスッと真顔になって口を開いた。
「お前、あいつに喰われるぞ」
ほわい?
何いってんだかわからない。
え、だからわからないって。
青髪くん、親指で戦闘中の獣人さんを指さしても意味が理解出来ないよ、そもそも『喰われる』ってまさか。
あはははは~。もー、初対面でまんま肉食獣な獣人さんを見て勘違いしちゃってんだよね、このお茶目さん☆
この獣人さんは吠えない、嚙みつかない、粗相もしない良い子だよ?それが売りなんだから、だいじょ…え、一ミクロンも青髪くんの顔が動かないだけど。
冗談でも、嘘でもない…ってこと?
「えええええ、マジでーっ!?」