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コーヒー嫌いなお子ちゃま神官と、もっちりパンで朝食を。

…そう、『助け』()来なかった。

それだけいっておくよ。


「おい、いつまで寝ているんだ」


「…ほへ?」


呆れを含んだ声が頭上から落ちて来て、私の意識は浮上した。

間抜けな声と共に、口に含んでた枕カバーが外れる。

一部は色が変わっていて、しかも相当もぐもぐしていたのかぐしゃぐしゃでカバーが皺になっていた。

うつ伏せの状態から身体を起こし、ぺたんと座り込んだ私は反射的に口元を拭ってから声の主へと顔を向ける。


「まったく、年下がいないとなると途端にだらしなくなるな。まあ、そうじゃなくてもボクには昔から堕落した姿を見せていたが…どうした?」


「うーん?」


私は首を傾げて青髪くんを見上げた。

朝日を浴びてキラッキラと青い艶やかな髪を輝かせている彼は、成長期だけあってしっかりとした男の人の身体付きになって来ているようだ。

…つまり、見上げなきゃいけない私の首が痛い。


「まだ寝ぼけているのか?本当にだらしがない。せっかく、このボクが朝食を準備してやったというのに、これじゃあ温めたパンがかたく…」

「何してるの!早く食べようよ!」


「なってしま…って、早いな!?」


そんなびっくり顔を晒す時間がもったいないよ。

私は嬉々として、近くの小さなテーブルに乗ってたお盆の前に座って手を合わせる。いつものご飯前の挨拶だ。

もう一人分は残念なことに青髪くんのものだったみたいで、肩を竦めた彼が私の向かい側に座って同じように手を合わせた。


「天と地を治めます最高神に感謝を捧げ、【生命とたん」

「いっただきまーす!!」


「お前もたまには最後まで祈りを捧げろよ!!」

「もももももも」


「せめて『もぐもぐ』ぐらいにしとけ!?」


もー、ご飯のときにうるさいなー。

早く食べないと、私が全部もらっちゃうよ。


「はぁ…。そんなに急がなくても、まだパンぐらいあるぞ」

「まひへー!?」


「…何いってんだかわからないから、せめて口の中のものを飲み込んでから話せ」


口いっぱいに頬張ったもっちりパンを嚥下して、私はもう一度いった。


「マジでー!?」

「意味がわからない」


いい直した意味ないじゃんか!


「どうしたのさ。大神殿で出されるパンって、一人三個だけでしょ?」


「三個だけっていえるお前がどうかしてるんだが…。たくさん作っといたから安心しておけ」


まあ青髪くんのいう通り、大神殿っていうか神殿って質素なのを尊ぶところがあるから、食事は基本的におはないっぱいになることはないんだよね。

とはいえ、ポソポソした黒パンは具のないスープに浸しても硬いから、良く噛んで食べるおかげで動けるくらいにはおなかは満たされてはいた。

孤児院にいたときを思えば破格な待遇なんだけど…って今、青髪くんは何っていった?


「ねぇ……」

「なんだ、改まって」


「お皿に盛っただけじゃ、作ったとはいわな…いたっ!?痛いよ!?」

「うるさい!!」


理不尽!

優しく訂正してあげた私に対するお礼が、ものすごく痛いデコピンって本当に理不尽だよね!?


「こねて焼いたのはボクだ!!」


「ええええ」


顔を真っ赤にした青髪くんがそう怒鳴って来たから、私は驚愕の声を上げた。

だってさ、孤児院にいたときもそんなに手伝いしてくれなかったんだよ?

なのに、いきなりパン作りに目覚めるなんて何があったんだよ!?


「窯はまだ出来上がってないから今日はフライパンで焼いたものだが、いずれ食べさせてやる。このボクが作ってやるんだから感謝しろ」


「は、はあ…」


いや、本当にどうしたのさ。

尊大な態度でのドヤ顔は見覚えがあるけど、本当に彼が作ったのこのもっちりパン。

クオリティは確かにまだまだ本職の人には及ばないけど、それでも十分においしいよ。


「ど、どうしたの。急にパン作りを趣味にするような何かあったの?」


「何か……か」


あの香りは、もしかしてコーヒー?

大神殿ではほとんどが水か、もしくはよくて紅茶だったけどおぼろげに覚えてる香りが青髪くんの置いたカップから漂って来ている。

前世では苦くて苦手だったからよくわからないけど、たぶんそうだと思う。

この世界にもあったんだと思っていた私は、遠い目をしてアンニュイな空気を醸し出す青髪くんに対しては何も思わなかった。

別に、イケメンが朝っぱらから全力でイケメン顔を作って来ることにイラッとしてるわけじゃないよ?…ケッ。


「お前の喜ぶ顔が見たかったからだ」


簡潔に、青髪くんが口にした言葉に私は目を丸くした。


「離れていてもお前の身体を形作る食事を作ったという事実がボクを安堵させることに繋がると気付いたんだがよくよく考えてみたらボクを置いて行こうとするお前が悪いよなそうだ鎖でつなご」

「うわああぁぁぁぁぁぁ!!」


「うわっ!?」


まだなんか呟いてたけど、もしかしたらまだ崇め奉り足りないという文句だっただろうからどうでもいいね。

それより何より、この熱い思いをどうしたらいい?そうだ、ぶつけよう!

そう思い立って、私は青髪くんに勢いよく抱き着いた。


「食事が乗ってる机を避けるとこは、本当にお前らしくて変わらないな!!」

「お姉さん、キミが人を思いやれる良い子になってくれて本当にうれしいよ!!」

「聞けよ!?」


ついでにぶちゅーってしてあげる。

もちろん、ほっぺだけどね。


「………っ!?」


ぶふぅ!顔が真っ赤になってる。

尊大な態度が崩れて下から現れた初心な反応に、私はニヤニヤしてしまう。

ぎぎぎって音がしそうな程ぎこちない動きで、私がちゅーしたところを抑えた青髪くんは、膝の上に私を乗せたまま…たらりと鼻から赤いものを垂れ流した。

あれだ、イケメンの鼻からおはようございますをしたのは、いわゆる鼻血である。


「え、えぇー……」


いくらイケメンでも、前触れのない鼻血にさすがの私もちょっと引いた。


「ももももも、ごくん。ところでさ、後輩くんはどこ?」

「あいつは害獣駆除中だ。しばらくすればここに来る」


「ふーん」

「あのうらやまけしからん獣め。本当であればボク自ら…」

「ももももも」


青髪くんの啜るコーヒーの苦そうな香りを嗅ぎながら、私はもっちりパンを頬張る。

あの陸地で溺死っていう意味不明な死因になりそうなから助けてもらったのはわかってるけど。

咀嚼したパンをごっくんしてから、沸いて来た疑問を口にした。


「ところでここ、どこ?」


「今更か!?」

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