陸地で溺死未遂事件。
4話目にして、急にくっ付きました!!
しかし、短いです。
街ってこわいよね。
今までの街で遭遇したことを思い出すだけでも、危険がいっぱいだということがわかる。
ってことで、剣士さんたちは、捜索よりも自分たちの身の安全を選択した私を恨んでくれてもいいよ!
「でもまあ、これで獣人さんに意地悪する人は出ないね!」
「…………」
獣人さんは焚火を挟んだ向こうから、無言で私を見ていた。
彼の純白の毛が、オレンジ色の温かい色合いに染まっている。
いや、わかってはいるよ。
獣人さんにとって、剣士さんは親友であり相棒だ。
姫さまやエルフくんは私にとっては友だちだし、心配なのは変わりない。
だけどさ、あんなおっかない人たちがいる場所に…獣人さんを悪くいう人たちがいるところになんて行きたくないんだよ。
我儘だってことくらい、わかってはいるんだけどね。
「それは、オレのためか?」
獣人さんの静かな問いに、私はうっすらと笑って首を振った。
それは違う。
これは私の我儘だ。
獣人さんが我慢してるのに、私がプンプンと怒っていつも彼の努力を台無しにしてるから。
優しくて強い、大好きな獣人さんを貶されて、悔しくて悲しい気持ちが私の中にあるから、耐えられないだけなんだよ。
パチッと火が跳ねる音が、静かな空間に響く。
そんな、いつもの野宿の中で唐突に、降って沸いた答えが私の胸にすとんと落ちて来た。
……あぁ、そうか。私は獣人さんのことが、こんなにも好きになってたんだ。
孤児ってことで私が、傭兵ってことで剣士さんが、異種族ってことでエルフくんが、それぞれ弾かれる。
ときには嫌悪を、ときには敵意を、ときには冷笑を、ときには暴力でもって弾かれた。
自分やおとーさんや友だちがそうされるのは腹が立つし、悔しい。
だけど、それよりももっと、獣人さんが『獣人』ってだけで傷付けられる姿の方がよっぽど私には堪えるんだよ。
「ふふっ……」
「どうした?」
不思議そうな表情を浮かべる獣人さんに、私は内緒話をするかのようにこっそりと教えてあげた。
「あのね。私、たった今、獣人さんが好きだって気が付いたんだよ」
………………
…………
………
唐突だけど、人間って陸で溺れられるって知ってた?
何いってんだかわからないだろうけどとりあえず聞いてくれよ。
「ゆり、ゆり………」
おい、聞けって。
やたらと甘ったるい声で人の名前呼んでるの、獣人さんだよね。えっ?別人ならぬ別獣人?
どろっどろな銀色の目で見下ろして、こっちが息を吸おうとした瞬間に口を塞いで殺そうとして来るのって獣人さんだよね?
口に舌突っ込んで、完全に咥内を塞いで来る純白の獣さんってそうだよね?違うの?
「や、あん!あぁ…っ」
「ああ、可愛い声だ…。喰いたい」
「………っ!?」
ににににに肉食獣だとは思ってたけど、まさか人間まで食べるの!?
もしかして、今まで夜いなくなってたのってどこかで人間食べてたからだとか?
てっきり、おねーさんの店に行ってんだと思ってたけど、あれはカモフラージュだったのか!?
私の絶叫は、獣人さんの口に全部飲み込まれてしまったので、全然誰も助けに来てはくれなかった。