魔王との遭遇。そして、彼女の消失。
イヤな汗が背中を流れ落ちる。
いや、背中だけじゃなくて額からも汗が噴き出て顎を伝って流れ落ちた。
「ん?怯えている表情はなかなか可愛らしいではないか。このまま見せしめに殺してしまうのもおしい。そうだ、躾のために腕を二、三本折って、そのまま愛玩動物として飼おうか」
身構えたまま動かない獲物に対して、気持ち悪い視線と思考を炸裂させて来る魔王に私は震え上がってしまう。
そして、歯をカチカチ無意識に鳴らしていた口を大きく開いて叫ぶ。
「どうして…どうしてこんな辺境の地(たぶん)に、魔王がいるんだよ!王道RPGを参考に、最初からやり直してくれよ!!自ら足を運んでどうすんだっ!!」
おい、お前はラスボスだろう!ここは玉座に座って大仰に『よく来たな勇者よ』とかやってくれよ!!頑張って魔王討伐の旅を続けて来たのに、せっかくの邂逅も喜びが半減するわ!!
…いや、今は魔王討伐メンバーの神官は休業中だけど、ね。
それを思い出した私は、さっきまでの勢いをなくして小さくなった。
私が一番、魔王討伐メンバー…いわゆる『勇者一行』から外れてしまっていることを思い出したからだ。
謙虚だから、そこはきちんと小さくなって反省の意を示しておくよ。
「あっ、でも腕はもともと二本しかないから、そんなに折れないよ?」
そこだけは丁寧に否定しておいてあげる。
他のところでそんな非常識なことをいってこの魔王が笑われたら可哀想だからこそ、ここで訂正してあげようと思ったんだ。
それとも、私は人間じゃない生きものに見えるのだろうか?
姫さまとエルフくんはエルフって種族だし、獣人さんも獣人で人間以外のメンバーがいるから勘違いされたのかな?
でも、三人とも腕二本に足は二本だよ。
どう勘違いすれば、そんなことを考え付くんだろう…?
魔王の頭、もしくは周囲のヒトたちの言動を考えてちょっと哀れに思って生ぬるい眼差しで彼を見てしまった私は決して悪くないはずだ。
ちっちゃい子でも知ってることを知らないなんて…ホント可哀想。
正面切って『アホか、こいつ』といわなかった、心優しい私。
そして、そんな私から生ぬるい視線を向けられている魔王は…青筋を立てて激おこな様子だった。
あれー?
「こ、このゴミクズにも劣る人間がっ!魔王たるこの私に舐めたまねを…っ」
「舐めてないよ!ばっちぃ!!」
見た目はそれなりにイケメンだけど、私の好みとはズレてるからなー。
それに今日会ったばかりの魔族なんて、ぺろぺろしたくないよ。
獣人さんは…じゅるり。
あふれる心の情熱(涎)が口の端から垂れたので、それを袖でそっと拭う私はぶるぶるとスマホ並みに震えるスライム嬢を視界に収める。
何、着信アリ?
「ゆ、ゆりちゃん、に、にげ、て」
ブブブブブって感じで震えるスマホ…じゃなくて、スライム嬢が必死な様子で私を促す。
そして自分は魔王の前に身を投げ出した。
「ま、魔王様、どうか、どうか…」
「ええい、目障りなっ!!」
ザシュッ
魔王がスライム嬢に向かって大きく手を振り下ろす。
そして、五体投地をする彼女は呆気なく、ガラスが砕けたようなキラキラをまき散らしながらすぅっと消えてしまった。
まるで、RPGのモンスターみたいに。
「え………?」




