愉しい娼館遊び。
『神官は夜の店に連れ込まれる。』で書こうとして自重したもの。
R指定するべきか迷う程度のお触りあり。
「ちょっと、ここ!」
「お前が付いて来たいっていったんだろ?」
呆れた眼差しの獣人さん。
確かにそういったよ、宿屋に一人で取り残されるのがイヤだったからね。
正確にいえば、部屋に泊まれたのは私だけで、例によって獣人さんは馬小屋に入れられてるから別に外出しててもいいけど、誰かに獣人さんがいじめられていないか心配なんだもん。
だから、ちょうど出掛けようとしていた獣人さんの腰にしがみ付いてそういったんだけど…。
「まさかこんなところに来るなんておおおおお思ってなかったんだよおおおぉおぉぉ!!」
呆れ果てた顔をした獣人さんの両腕にそれぞれへばり付く、下着みたいな恰好の女のヒトたちがそんな私を見下ろして笑っていた。
「「かわいい~」」
おねーさんたち、語尾にハートマークが乱舞してそうな声を出してる。
その姿はごく普通のお姉さんたちだけど、抜群なスタイルを惜しみなく晒して暗い中でも目立つような派手なメイクをした様子を見ると、どっからどう見ても水商売のおねーさんたちだ。
あっ、あと、片方のおねーさんにはウサギの耳、もう片方の小柄なおねーさんには大きくて丸い…ネズミ耳?が生えてる。つまり、二人とも水商売をしている獣人ってことなのかな?
ここなら、獣人さんはいじめられない…って、そういう問題じゃない!!
ギッと獣人さんを睨み付けた私は、仁王立ちして三人の前に立った。
「こんなとこ、来ちゃいけません!獣人さんったら、不潔!!」
「あらら~」
「不潔ですって。うふふ」
何なんだよ、二人のおねーさんはお互いの顔を見合わせてから私を見てニンマリ笑った。
ウサギとネズミって、捕食対象になりそうなのに今この瞬間の二人は私にとって肉食獣と一緒だ。
思わず二人に雰囲気に押されて後退る私だったけどすでに遅く、素早い動きで羽交い絞めにされて運び出される羽目になった。
二人とも良い身体付きしてるけど、そういう腕力的な意味では非力そうなのにどこからそんな力がわき出てるの!?
「ネンネな坊やに良いこと教えてあげなきゃね」
「気持ち良いことは悪いことじゃないのよ、小さくて生意気な神官さま?神殿でどんな風に教わったかは無学な私たちにはわからないけど、神さまがそういう風に造ったんだから不必要なもののはず、ないでしょう?」
「ひょわっ!?」
運び込まれた室内のソファに放り出されたと思ったら、すぐに覆いかぶさってくる。
片方のネズミのおねーさんはすぐにやって来た黒服のお兄さんに前者の言葉をいってから、更に一言二言加えてた。
私の顔とおねーさんを交互に見た黒服のお兄さんは溜息を吐いて、『やれやれ』って感じですぐに去っていったけど、どういうことかわからない。
ただ、ウサギのお姉さんに伸し掛かられている私はそれどころじゃなかった。
「ひんっ!」
「耳が弱いのね。人間なのに」
いやいや、耳に息を掛けられたら誰だって反応するでしょ!
文句がいいたいのに、私の口から出て来るのは妙な鳴き声だけだった。
そこにネズミのおねーさんまで加わって、もぞもぞと私の服の下へと手を這わせる。
ちょっ、へんなとこ抓らないで!未だに認めたくないとこ掴まないで!脇腹はくすぐったいってふひゃひゃひゃひゃっ!!やみてー!!
獣人さーん!へるぷみー!!
「はい、終了」
「「あっ」」
ひょいっと両脇に手を入れられて持ち上げられた私は、息も絶え絶えに足の指にかろうじて引っかかっていたおパンツがポロリしたのをただ黙って見ていた。
だってさ、ろくに動けないんだよ。高さ的な意味以外でも。
ちなみに、ズボンはとっくの昔にポイされている。
「よっこらしょ」
「ちょっとぉ~、これからがいいとこなのに」
「この子だって、ずいぶんと愉しそうで…ヒッ!」
別のソファに座ったらしい獣人さんの膝の上に下ろされた私は、後ろから聞こえたおっさんくさい掛け声とおパンツを失って心許ないお尻の下に感じるいつものもふもふの感覚に、やっと心底ほっとする。
ゆっくり上半身を倒して獣人さんの胸を背もたれにした私は、唇を尖らせていたおねーさんたちが引き攣った顔をした意味がまったく理解出来なかった。
あんなえっちなおねーさんたちに無力な私を差し出した獣人さんは、悪びれもなく頭に顎を乗せて来たのでイラッとしてたんだ。
「だからやめとけっていっただろ?」
「きぃ~~~!!こんなとことは思わなかったんだよ!!」
獣人さんがしゃべると、その振動が顎を通じて私の頭に伝わって微妙に痛いんだけど!
宿で詰問したときに、獣人さんが濁しつつも同行拒否したときのことを持ち出され、痛みと合わせてイライラが募る私はきぃきぃ文句をいう。
「お前なぁ…オレだって男だぞ?旅の最中にこういったとこに寄るなんて、ごく普通で不潔でもなんでもねーよ。…さすがに、いきなりそこらで襲うわけにもいかねーし、でも発散しねーとやべーし。つーか、女と絡んでんの見たらチビが男だって認識出来て、この変な気持ちもなくなるかもしれないと思ってたんだがなぁ…」
なんかまだなんかブツブツいってる。
頭に当たるごりごりでそれはわかるけど、何いってんだかわかんないよ。
「だいたい、お前だってこんなにちんまくても男だろ。ほら、ねーちゃんたちに触られて」
「ぎゃあっ!?」
せ、せくはらされたぁぁぁぁあぁ!!
私の前に手を伸ばした獣人さんが、服の間に躊躇なく手を突っ込んでそこを鷲掴んで来る。
しかも、もみもみしてるよこの野郎!!
「…あ?反応がな」
「のおぉぉぉぉぉぉ!どんと・たっち・みぃぃぃぃぃ!!」
「…何をいってんだかわからん」
触っちゃいやーん!!
おまわりさん、チカンはこいつです!!
「いたいいたいいたい!!」
「直は痛いのか」
いやいやいや!神官用の法衣を整えてから手をどけてくれたのはいいけど、何で片膝を私の両足の間に捩じ込むのさ。
ついでに何でリズミカルに膝を上下に動かすのさ!?
あと、おなかは触んな!
「い、やぁっ、あっ、あっ、あっ」
「…………っ」
上下させられるから悲鳴が途切れるだけで、別に深い意味がある訳じゃ…っ!
背後で息を呑んだ音と、続いて荒い息遣いが聞こえる。
はぁはぁはぁって、不穏というより変質者ー!!
しかも、後ろから首筋とか頬を舐めてるし!
さすが、ネコ科な獣人さん。舌がじょりじょりしてて痛いよ!
「やあぁっ、じょりじょりしないでぇ」
ヤバい、聞いてくれない。
はぁはぁはぁって返事じゃないし、しかも頬からどんどん唇に近付いて来てるし。
こここ、これじゃ私、獣人さんにキスされちゃうっ!?
「うっ………」
「お客さま、当店ではそういった行為は禁止しておりまして」
「「…………………」」
顎を捉えられ、後ろから近付いて来る唇に反射的に目を瞑った私だけど、突然乱入して来た冷静沈着な声にパッと目を開けた。
見れば、さっきまでおねーさんたちが立っていた場所には黒服のお兄さんがいて、丁寧に折りたたまれた見覚えのあるズボンとおパンツを差し出して来る。
声が掛かるのと同時に機能停止した獣人さんの腕から逃れ、黒服のお兄さんからそれを黙って受け取った私はそれを無言で身に付けて、そのまま走り去った。
今きっと私、一陣の風になれたと思うよ。