ちょっと待てや、お前ら!!
「あの種がこんなところに出るなんて…っ。シイナ、お前本当にどこから連れて来たんだよ!!」
「うーん、そこら辺?」
テキトーだ!
「親がいないから巣から盗って来たんだけどなー。一人じゃ親、始末出来ないし」
しかも、何かコワいこと平気でいってるよ!?
震える私を背で守り、暢気な態度を崩さない後輩と、横に立って守ろうとしてくれてるらしい髪色同様に顔を青くした青髪くん。
「ボクの腕を当てにするなよ」
「でも、一人だと難しい」
「…わかってる」
悲壮感を醸し出していた青髪くんは、決心を固めたような顔で私を見た。
元々整った顔立ちの、何かを決心した顔。
見慣れた小憎らしい幼馴染である彼の表情に、私はドキッとした。
「ユリ、ここはボクとシイナが必ず食い止める。だから、逃げろ」
「そ、そんなことできな」
「頼むから!!」
言葉を噤んだ私に、ぎこちなく笑う青髪くんは唾を飲み込んで必死に冷静さを装って優しく言葉を続ける。
まるで、聞き分けの悪い子ども相手にいい包めるような態度だった。
「頼むから、聞き分けてほしい。さっきもいっただろ?お前はボクにとって大切な存在なんだ。ケガ一つ、何一つ損なわれてほしくない、そんな相手なんだ」
「………っ」
同じ孤児院にいた頃から意地悪な子だった。
なのに、この状況で真摯な表情を浮かべて来るなんてずるいよ……。
「う、ん……」
「よかった」
本心から浮かべた表情なんだろう。
フッと微笑んだ青髪くんの安堵の笑みは、とても自然で美しかった。
「まずボクが飛び出して、その後にシイナが横から飛び込む。その隙にユリは行け」
「先輩、振り返ったらダメだよ?」
こくりと黙って頷く。
思わず後輩のナイフを握るのとは別の手を強く握り、そして離した。
「ムリ、しちゃダメだからね」
「うん、大丈夫ー」
「適当に逃げるさ」
いつもと同じ軽い口調で私たちはそれぞれしゃべり、そして…。
「いくぞ…」
バキーッ!!
「に゛ゃーん!!」
ずどーん
「「……………」」
横倒れする仔猫のお母様を見て硬直する二人の代わりに、私が叫んどく。
「あああああ、ありえない!!あの巨体で鳴き声が『にゃーん』だなんて!」
私は認めないぞ!
「先輩、そこー?」
「お前、意外に混乱してたのか!?」
明らかに呆れた表情の後輩と、驚愕の眼差しを向けて来る青髪くん。
さっきの悲壮感はどこいった。
「…まったく」
「じゅ、獣人さん」
「なんだよ」
仔猫のお母様が倒れたことによって砂埃が立つ中を悠然と歩いて来るのは、獣人さん?
呼べばぶっきらぼうな態度だけど、きちんと反応してくれる。
「た、たすけてくれたの?」
「あー?…まあ、そうだな」
一瞬だけ顔を背けた獣人さんだったけど、そういって肯定した。
その姿にキュンとした!
「獣人さーん!!」
「うおっ!?」
勢いよくそのしっかりした腰に抱き着いた私は、見事なおっぱいに頬ずりをする。
いつもより熱いのは、筋肉を使ったばっかりだからかな。
「おおお、お前!あんなマネしといて…」
「ありがとう。私たちを助けてくれて!!」
「……………」
ぎゅむぎゅむ抱き着く私の頭上から、沈黙が落ちる。
あれ…悪寒が。
「オレはお前だけを助けたつもりなんだがな」
「え…」
「自分の番に群がる雄なんて、モンスターの餌になろうが死のうがどうでもいい」
なんか聞きずってならないことをいわれたぞ?
自分に冷たい人たちに対してだって優しい獣人さんなのに、私の幼馴染と後輩に対しては塩対応をしようとしている!
「そんな!二人共、私にとって大切な人なのに!」
幼馴染と後輩だ、大切な人には変わりない。
例え子ども扱いが常だとしてもね!
獣人さんとの立派なやり取りを見て、私がきちんとした大人の対応が出来ると再確認してほしいよ全く!
そう思いながら、近くにある獣人さんを見上げた私はじゃっかん後退った。
め、目がまたぐるぐるしてるよ!?
「お前って本当にどうしようもないヤツだな」
「それって、どういう意味…?」
子ども扱いとは違う。
ただの直感でそう思った私は、ガッチリとホールドされて一歩以上下がることが出来なくなっていた。
自分から抱き着いといてあれだけど、いつの間に!?
「オレを妬かすためだったらよかったがどうも本気でそう思ってるらしいなどうしたら『番』だと認識しているオレの前でそんなことをそんなマネが出来るのか理解出来ないがああそうか獣人の性質を知らないから平気でそんなことが出来るのか?それとも自覚させられてないオレが悪いのかそうか」
「じゅ、じゅうじんさん。どうしたの」
「『どうしたの?』だと?」
ピタリと独り言を止めた獣人さんはゆっくりと、普段の俊敏な動きとはかけ離れたやたらとゆっくりした動作で首を傾げる。
その姿は壊れた人形じみていて…ぶっちゃけホラー的な意味でコワかった。
だから、獣人さんが元に戻ってくれるならと思って簡単に頷いちゃったんだ。
「自覚が足りないってお前が思うんならそうだな…そうだ。なぁ、チビ神官。もしあれを一人で倒せたら何でもオレのいうことを聞いてくれるか?」
『あれ』と獣人さんが指したのは、仔猫のお母様だ。
よろよろと立ち上がる彼女(たぶん。母親だろうから)からは、怒りの気配を感じる。
あれはヤバいヤツだ!!
前の状態のでも青髪くんや後輩が何かを決意するだけの強さを持っていたらしいのに、更に怒り狂ってんだから本気でマズい事態だろう。
そう瞬時に判断した私は、がくがくと首を上下に動かして必死に頷いた。
「わわわわわ、わかったよ!倒してくれたら何でもいうことを聞くよ!!」
「交渉成立、だな」
そのときの獣人さんの顔を、なんといい表せばいいんだろう。
唇を釣り上げた彼の表情はひたすら昏い。
なのに笑みにも見えるその表情を見た私の背筋に、一気に悪寒が走った。
魔王討伐の旅をしているとき、大口を開けて丸のみにしてこようとしたモンスターの咥内を見た瞬間に感じたのと全く同じ、身の危険を感じたときの感覚だ。
あわわっ、私ったらもしかして自分からお皿の上に乗っちゃったってこと!?
「獣人さん待って!私、食べられたくな…」
「「ちょっとまったぁ!!」」
「ふへっ?」
「……チッ」
舌打ちしましたね、獣人さん!?
食べられるなんて私、イヤだからね!
急に青髪くんと後輩に遮られて、最後まで言葉に出来なかったけどそれは意を酌んでくれたと信じてるよ。
「今の話しは本当か!?」
「えええ、今の話しって」
「倒した人のいうことを何でもきくって話」
「ああ、うん。だけど聞くだけで出来るかどうかは内容にもよるよ?」
もぐもぐごくんしたいっていわれても、了承しかねるからね。
それなのに、鼻息荒く詰め寄って来る二人は聞いてはくれなかった。
「な、なんでも…」
「え…?ちょっとなんで鼻血?」
顔を押さえた青髪くんは、また鼻血を噴いた。
血気盛ん過ぎないか?
「やったぁ!じゃあ、先輩の洋服を全部処分してー」
「待って!それってだいぶ痛いよ!?」
懐具体的に!
というか!軽くいじめだよねそれって。
「…チッ。まあ、いい。誰のものかわからせてやる」
不穏な空気で呟く獣人さんがコワい。普通にコワいよ!
え、このカオス再びな状態ってどうなってんの?
このままのんべんだらりんとしてたら私、大変なことになるんじゃ…。
「おい、囮役共さっさと行け」
「誰が囮だ!お前こそ、魔王討伐に選ばれたんだから先に行けよ!!」
「二人共、お先にー」
「「あっ」」
やたらとギラ付く目をした三人が、揃って飛び掛かる。
こんなときは息ピッタリだよね!
えっ、追い払ってもらうだけでいいんだけど、このままじゃ仔猫のお母様は危ない?
それに万が一、三人が同時に倒した場合は私はどうなるの?
「ちょっと三人共!止めて!!」
大声で呼んでも、誰一人反応しないってどういうことさ!?
「………」
イラッとした私は、決して悪くないはずだ。
ついでに、私が出来ることをしたっていいでしょ、別に殺傷能力があるわけでもないし。
「世界を識る者にユリ・シスが問う!」
ねえねえ神さま!可愛いユリちゃんが聞きたいんだけどさ-
「こいつらの暴走を止める方法ってなんかないのー!?」
私の身体が光り輝き、神聖魔法が完成する。
遠くで鈴が鳴り響く音を聞きながら、私の意識は光に飲まれた。




