第十二話
「パパ、王子さまみたい!」
エントランスでミアが父を見上げてぱちぱちと拍手をする。父は「そうか?」とかすかに笑って、ミアの小さな頭を撫でた。
だが、紳士倶楽部なるものに出席すると言う父は、黒にも見える蒼いジャケット、ベスト、ズボンと正装を着ているのでそう見えるのかもしれない。中のシャツは黒で鮮やかなシルクの青いタイがアクセントになっている。襟の部分に暗めの金糸で植物模様――あれはロザリオに彫られている植物のモチーフだと思う――が施されている。それに合わせるタイピンは銀に紫、母の色だ。魔道具である小鳥から情報を受信しているというピアスも銀に紫と母の色になっている。この忙しいのにいつ作ったんだろう。
大分、伸びた髪は後ろで紫色のリボンで結ばれていて、髪もきっちり整えられている。似合っているが王子様というより、無表情であるがゆえに冷たささえ感じる美貌と服の色合いも相まって裏社会のボスみたいな雰囲気だな、とサヴィラは思ってしまった。間違っても神父じゃない気がする。
王子様と言うなら、マヒロの隣にいるカイトだろう。カイトも父と同じ形の服だが、カイトは彼の目と同じもっと明るい青だ。中のシャツも白でタイは水色。刺繍はされていないシンプルなジャケットの襟には金にサファイアのラペルピンが輝いている。金髪碧眼で柔和な笑みを浮かべている美青年なので、物語の中の王子様を指すならこっちだ。裏社会の人っぽい父ではない。一応、二人とも腰にはロザリオを下げているのに、一体、何が違うんだろう。
「お前、なんか失礼なこと考えてないか?」
「まさか」
じとりと睨まれてサヴィラは肩をすくめた。だが、母も母で「王子様は王子様だけど、魔王城に住んでそうよねぇ」と首を傾げているので、サヴィラが失礼なわけじゃないと思う。
父の視線から逃れるように横に顔を向ければ、サヴィラが連れて来たネネが両手で口元を覆って固まっている。ネネの視線の先には、父の後ろでエドワードとヴァイパーと並んで控えるリックだ。
リックも父が仕立てた深緑色の正装に身を包んでいる。いつもと違い、髪を後ろに撫でつけていて、それがまた良く似合っているのだ。
サヴィラはどっかの誰かさんたちのように鈍感というわけではないので、ネネの恋心というものには気づいている。ネネに打ち明けられたわけじゃないが、可愛い妹分は感情が表に全部出ているのだ。分からない方が難しいと思う。イチロとエドワードは除いて。
リックも薄々気づいているのだろうが、幼い少女の憧れをそっとしておいてくれる。そういう分別のあるところがネネの兄であるサヴィラにとっては非常に好ましい。これ幸いとネネに手を出すような輩だったら即刻叩きだしているが、あれこれ面倒くさい父の護衛騎士になれるリックなのだから、そこには絶大な信頼を寄せている。
ネネの恋心が叶うかどうかなんてことは、サヴィラにだって分からない。十年後には夫婦になっているかもしれないし、或いは、別の人とそれぞれ生きているかもしれない。でも、貧民街を出て年相応の少女として生きられるようになったネネを見守りたいと思うのだ。相手がリックだし。(※非常に重要なことだよ、これは)
「リラ、刺繍の出来が素晴らしい。君にも裁縫関係で予算を出せるから、何かあったら申請してくれ。というか君用に裁縫箱を新調するか」
「は、はい! ありがとうございます!」
母の後ろにいたリラが父の言葉に緊張しながらも嬉しそうに頷いた。
確かにリックのジャケットの襟の刺繍は見事だ。短時間で仕上げたとは思えない緻密さがあった。
「園田、手配しておいてくれ。裁縫箱の中身の要望は園田に言うように」
「……はい!」
頬を紅潮させるリラから、白い花びらがぶわりと舞った。喜びが分かりやすく伝わって来る。
「真尋様、そろそろ出発のお時間です」
「そうか。では行って来る」
「行ってらっしゃい」
父と母がハグとキスを交わして(父は母からのキスがない見送りは不機嫌なるという面倒くさい性質があるのだ)、出かけていく。
マヒロとカイトが馬車に乗り込み、ヴァイパーが御者席に座り、リックとエドワードは腕にかけていたコートを着て、自分の馬に跨る。エドワードが先頭に出て、リックが後ろに着き、馬車が動き出す。
「がう!」
そんな声が聞こえて来たかと思えば、屋根から飛び降りて来たポチが見送りのために開けていた窓から中へ入って行った。どうやらついて行く気のようだ。
窓が閉められて、馬車は庭を進んで、あっというまに見えなくなった。
「……かっこよかったぁ」
黙ったままだったネネが、うっとりと呟いた。
そんなネネをユキノやリラが微笑ましく見守ってくれている。ミアが「よかったね」とネネに声を掛ければ、ネネは「うん」と嬉しそうに頷いた。
「さ、そろそろ部屋に戻ろう」
「ええ、そうね。ミアも行きましょう」
「うん。ネネ、リラちゃん、おやすみなさーい」
「おやすみ」
「おやすみなさいませ」
ネネとリラとはここでお別れなので、サヴィラも「おやすみ」と声をかけ、母の背を追いかけるように階段を上がる。ミツルがサヴィラの後についてくる。
「ミツルはさ、あんまり父様について行かないよね。いつもヴァイパーが一緒だ」
「ふふっ、マヒロさんは充さんを信用しているからよ。もちろんヴァイパーのことだって気に入っているから傍に置いているんだけれど、充さんを家に置いておけば心配も問題も一切ないと分かっているのよ」
「みっちゃん、すごいねぇ」
「光栄なことでございます」
母とミアの言葉にミツルが、照れくさそうに頬を指で掻いた。
なるほど、と頷きながら、サヴィラはそれって本当にすごいことなんだろうな、と感心する。なにせ、とにかく人の好き嫌いが激しく、えり好みも厳しい、面倒くさい父親だ。その父が、ミツルには全幅の信頼を置いている。ミツルは男だが父にとってこの世で何より大切な母と二人きりになることを許すくらいの信頼なのだ。サヴィラも息子だからと許してくれているが、息子じゃなかったら多分、年齢的に許してくれていなかったと思う。あの人はとても大人げないので。
「故郷にいた頃も、真尋さんが充さんを連れて行くことはほとんどなかったわねえ。あ、一度、お見合いを押し付けようとして連れて行って、お父様に怒られていたけど」
「なんで次期当主とのお見合いで執事が代理になると思ったの、あの人……」
大きな商会の次期当主となる人間との見合いに行って、その家の執事を紹介されたら、相手は怒り狂うだろうし、どうやっても怒られるに決まっている。
「そういうところ、大さっぱなのよ」
うふふ、と雪乃は可笑しそうに笑った。
大雑把すぎやしないかとサヴィラは、ここにはいない父に対して、溜息を零したのだった。
「いっつもいきなりなんだよなぁ」
馬車に乗り込んで間もなく、海斗がぼやく。
「俺が攫われ役でもいいが、誘拐犯で遊ばないと雪乃と約束してるんだ」
「そりゃ知ってるよ。その誓約書作成したの俺の父さんだし、署名するのに立ち会ったの俺と一路じゃん」
向かいの席に座る海斗は呆れたように肩をすくめた。
実は雪乃はあの件に関して、とにかく怒っていたようで、本気で弁護士(海斗と一路の父親)に依頼し、作成してもらった誓約書に署名捺印することで、ようやくその怒りを完ぺきに鎮めてくれたのだ。
「そうじゃなくてさ、俺も作戦会議に参加したかったってこと。面白そうじゃん」
真尋は海斗のこういうところが親友として気の合う点だと思っている。
「しょうがないだろう。お前は別件で仕事があったんだから。それよりこれが会場の地図だ。赤い丸が騎士たちが立っている場所だ。覚えるように」
「人使いが荒いんだよなぁ」
ぶつくさ言いながらも海斗が地図を受け取り、頭に入れ始める。
真尋は脚を組みなおし、隣へ視線を向ける。隣にはポチが座っていて、自分の尻尾の様子を見ている。鱗の輝き具合でも確かめているんだろうか。なんとなく手を伸ばして頭を撫でれば、嬉しそうに押し付けて来る。
「お前は脱皮とかするのか?」
「がう?」
「脱皮だ、脱皮。そもそもドラゴンは爬虫類の分類なのか……?」
不思議な話だが、爬虫類の遺伝子を持つ有鱗族は脱皮に似た現象が起こる。成長に合わせて頬や体に浮く鱗が脱皮するそうだ。とはいっても、大人になるとほとんど起こることはなく、サヴィラのような成長期に多く見られる。
「フィリップ小隊長って、あの人? エディから聞いたけど、カロリーナ小隊長と仲が悪いって言う……」
「ああ。顔を合わせれば喧嘩しているな。ガストンが言っていたが、とにかく初対面からお互い、気に食わない様子で、なんだか知らんが大喧嘩して、それ以来、ずーっとああだそうだ。水の月の事件の時も第二小隊とフィリップの小隊は地下牢に監禁されていたんだが、そこでも飽きずに喧嘩していたとエドワードが言っていた。俺も何度か演習に立ち会っているが、とにかく仲が悪いな」
「同じ獅子系獣人族だからかな?」
「知らん。地図は頭に入れたか? 次はこれ、相手の情報だ」
別の資料を海斗に渡す。海斗は地図と引き換えにそれを受け取り、視線を落とす。
「貴族ってのは厄介だねぇ」
「貴族じゃなくとも権力や財力を持つ者が集う社会は魔窟だからな。定期的に掃除はしなければ」
「掃除が壊滅的にへたくそなくせによく言う」
けらけらと笑いながら海斗が読み終えたらしい資料を差し出してくるので受け取ってアイテムボックスに戻す。
「まあ、向こうの事情は分かったよ。でも、そっちはもうすでに動いてんでしょ?」
「ああ。俺は別件で取引があるから、コラッド家のあれこれはお前に丸投げする。好きにしてくれ」
真尋の言葉に海斗はゆったりと座席に座り直し、脚を組む。
「……どこまでやっていいの?」
ゆるりと細められた青い眼差しは、弟と同じ穏やかな緑が混じっている。だがそれを包む蒼の静かな荒さは、広大な海や空を想起させる。穏やかで平坦で、けれど、一度荒れ狂えば、何もかもを飲み込んでしまうような蒼だ。
「話ができればそれでいい」
「Yes,sir」
楽しそうな軽やかな返事に一つ頷いて、真尋は腕を組んで目を閉じる。
「ここのところ、睡眠時間の確保も難しいんだ。少し寝る。着いたら起こせ」
「はいはい、おやすみ~」
軽い調子の返事を聞きながら、真尋は浅い眠りへと意識を委ねる。
意識はうっすら起きたままなので海斗の「あんま無茶すんなよ」と小さくささやかれた声に心の中で「ああ」と返事だけしておいた。
紳士倶楽部は、紫地区にある高級レストランを貸し切りにして催されていた。
立食形式で自由に動き回れる分、交流をしやすくなっていて、海斗は、ジークフリートに宝石商オーブの会頭ベネディクトを引き合わせている真尋の隣で成り行きを見守っていた。
結婚指輪というものに目を付け、市場を拡大したいベネディクトたちにとって、領主であるジークフリートは領内の富裕層に対して最高の広告塔だ。その上、ジークフリートにとっても夫婦円満の象徴である結婚指輪については、ぜひ、自分の妻の指に飾りたいところだろう。
真尋が仲介役となって、ここでも大きな企画が動き出しそうである。
「だが、それで彼女は喜ぶのだろうか」
「それにはまず領主様が奥様との関係を良好なものにしていかなければならないと言っているんです。いいですか、他の装飾品ならつゆ知らず、結婚指輪だけは相手のご機嫌取りに使ってはいけないのです」
「……大分、先の話になりそうだな……」
衆目の環境のためか、丁寧な口調のままの真尋の忠告にジークフリートが頭を抱える。
「指輪というものは、今日明日できるようなものじゃございません。奥様との交流を深めて奥様の好みなどを知り、完成させることができれば、それは集大成を飾るにふさわしいものとなるはずです」
ベネディクトの言葉に真尋がワイングラスを傾けながら頷いた。
この男、来てからずっと飲みっぱなしだ。煙草はそこまで吸っていないが、付き合いだから仕方ないわね、という雪乃からの許しを得て、飲み続けている。領主も来ているために、良い酒が用意されているのも一因だろう。多分だが雪乃は「ほどほどに」と言っているはずなので、それを破れば怒られるというのがどうして分からないのか、海斗には分からなかった。
「オーブの職人たちの腕は確かですよ。私も妻にいくつか購入しましたが、妻もとても気に入ったようすで喜んでくれました」
「光栄なことにございます」
ベネディクトが誇らしげに応えた。
「ベネディクト、私もこれから妻となる人に指輪を贈りたいんだが、相談に乗ってもらえるだろうか?」
ジークフリートと一緒に話を聞いていたウィルフレッドの申し出にベネディクトは「もちろんです」と頷いた。
「私は、その……結婚指輪は私が彼女に似合うものを選びたいと思っているんだが、やっぱり一緒に選んだ方が良いだろうか?」
「いえ、閣下は部屋の内装や他のもろもろを婚約者様と選ぶと前に教えて下さったでしょう? なら一つくらいは、彼女のために貴方が頭を悩ませて贈るものがあってもいいと思います。相手を大切に思うからこそ、形になるものもありしょう。なあ、ベネディクト」
「もちろんでございます」
賛成する真尋と頷くベネディクト、ほっとしているウィルフレッドにジークフリートが「なぜ?」という顔をしているが、当たり前ではなかろうか。聞けばウィルフレッドは遠く離れているにも関わらず出来る範囲で手紙を送り、交流を深め、誕生日や婚約した日などの記念日も欠かさず祝っているそうだ。その際の贈り物も相手側のご両親を通して、彼女の侍女たちからそれとなく好みを探っているのだという。
なにもかもをほったらかしだったジークフリートがどうしてウィルフレッドと同じ土俵に立てるだろうか。
「神父殿は一緒に選んだのか?」
「私の国では婚約に際しても指輪を贈るのですが、婚約指輪は彼女が欲しいと選んだものを。結婚指輪は私がデザインしたものを贈りました。まあ、私たちの場合はもともとそういう約束だったのですが、とても喜んでくれましたよ」
「神父様は、センスが大変よろしいですからな」
ベネディクトの賛辞に真尋が「どうも」とかすかに笑って酒をあおった。リックがその酒量に物言いたげにしている。これは幼馴染であるがゆえの未来予知だが、当たり前に真尋は飲み過ぎを雪乃に怒られると思う。何事にも限度がある。
それから商談の話へと移行していくのを見届け、海斗は真尋の傍を離れる。エドワードがリックに声をかけついてきた。
真尋から離れてすぐに中年男性が二人、料理を見ていた海斗の下へやって来た。エドワードがかすかに目を細めつつ「いかがいたしました?」と先に声をかけた。
「初めまして、私はロッド商会のフランツ・コラッドと申します。これはうちの執事のネオです。神父様のご活躍は耳にしておりまして、ぜひ、ご挨拶をと」
海斗はこっちの世界では何というのか知らないがおそらくローストビーフを皿に乗せて顔を上げ、振り返る。
「初めまして、神父の海斗と申します。失礼、あまりに美味しそうな料理に釘付けだったもので」
「いえいえ、私も声をかける時機を見誤ってしまいました。このレストランの料理はどれも美味しいと評判ですから」
「では、お先に一口頂いても?」
「もちろんです」
快く頷いてくれたフランツに礼を言ってローストビーフを頬張った。赤身肉のうま味がぎゅっと詰まっていて、胡椒の効いたソースが美味しい。
でも家に帰ったら雪乃の特製シチューだしなぁ、と次に手が伸びない。真尋が食にうるさいというのは事実だが海斗も一路も、雪乃の料理に慣れ過ぎているという自覚くらいはある。いつも心の中で「まあ、雪乃が作ったほうが美味いな」と呟いてしまうのだ。なにせ、この間、一路とティナ、エドワードを誘って一緒にレストランで食事をしたらティナでさえ「ユキノさんが作ったものの方が美味しい……」と呟いていたので、雪乃の料理が美味しすぎるのが一番の原因なのかもしれない。
「こちらのレストランでは契約農家から仕入れている新鮮な野菜と同じく契約牧場から毎朝納品されるポヴァンの搾りたてのミルクが自慢でしてね。そのミルクで作られたバターやチーズを使った料理の美味しさは格別ですよ」
「それは良いことを教えてもらいました。……ああ、ありがとう」
エドワードが差し出してくれた飲み物を受け取り、口を潤す。
「改めまして、私はロッド商会のフランツ。こちらは執事のネオでございます」
「初めまして、私は神父の海斗と申します」
フランツは人族の若い男で、ネオは初老の有鱗族の男だった。
どちらも人当たりの好さそうな顔をしていて、身のこなしも上流階級の人間だと分かる。
「お二人は商会の方でそうですが……何を販売しておられるのですか? 私はまだこちらに来て日が浅く、まだあまり領のことも町の事も詳しくなくて」
「いえいえ、うちは小さな商会でございますから。実は私も紳士俱楽部に参加するのは初めてで……いつもは父が来るのですが、風邪を引いて寝込んでいて代わりに私が」
その言葉通り、フランツの顔は緊張というものが分かりやすく浮かんでいた。ネオが心配そうにちらちらと若い主人を見ている。
「なるほど、寒くなり始めると体調を崩しがちになってしまいますからね」
「はい。熱は下がったのですが、酷い咳が残っていて」
「それは辛いですね。早く良くなるように祈っております」
「有名な神父様に祈って頂けるなんて、父も喜ぶでしょう」
フランツが眉を下げて、控えめに笑った。
「話がそれてしまいましたが、ロッド商会では何を取り扱っているんです?」
「これから寒くなりますでしょう? 冬を超えるには必要な毛織物を製造、販売しております」
「おや、それはいい。私も冬用のコートやマフラーなんかが欲しいなと思っていたところで」
「もちろんご用意がございます。質の良いムートンの毛を用いて、国内でも指折りの品質をお約束します」
「本当かい? なら商品とか見せてもらえますか、部屋の敷物も冬用のものが欲しいんですよ」
「ええ、ぜひ! 倶楽部では商談も許されておりますので」
ちらりとフランツが真尋の方を見た。
ベネディクトの横でクルトが宝石箱を開け、ジークフリートと真尋が中身をのぞき込んでいる。
「いくつか、小さなものですが敷物も含めて持参しております。ただ、やはり場所を取るので個室に用意してございますので、よろしければぜひ」
「ではお言葉に甘えて」
振り返れば、ちらりとこちらを見た真尋が手を挙げた。それを返事として海斗も手を挙げて返し、フランツの背について行く。
会場を出て廊下を進む。今日は領主が来ているので廊下にも護衛たちがちらほらと待機していた。階段を上がり一つ上の三階の個室へと入る。それなりの広さの部屋に様々な商品が並んでいる。
海斗は部屋の中央に置かれたテーブルセットの椅子に腰かける。エドワードは入り口で待機だ。
フランツが正面の席に座り、ネオは二人の前に紅茶を用意するとフランツの背後に控えた。
フランツがカップに手を伸ばすが、カチャンと小さな音を立ててカップが手から滑り落ちた。ネオがすぐさまテーブルを拭く。
「すみません、神父様にお話を聞いていただけるとは思わず、緊張で手が震えてしまって」
フランツが自分の手をこすり合わせて震えを誤魔化そうとしながら言った。
海斗は「大丈夫ですよ」と穏やかに微笑んで返す。
「俺たち、年も近いようだし、もっと気軽に話そうじゃないか」
「い、いえ、そんな、恐れ多い……ですが、神父様はどうぞ楽になさってください」
「本当かい? 丁寧口調は苦手でね。ありがとう」
海斗が態度を砕けさせると、フランツの緊張に強張っていた顔がわずかに緩んだ。
「まずは製品のもととなる、こちらをご覧くださいませ」
フランツがそう言って、手で合図をするとネオがカゴを持って来て、海斗の前に置いた。
柔らかな羊毛と思われるものと、それを紡いだのだろう毛糸がいくつか入っていた。海斗は羊毛を手に取ってみる。
「とても軽いですね……でも温かいし、毛糸の方は触り心地も柔らかい」
「はい。我が領では、ムートンの品種改良にも力を入れており、シャーフと呼ばれるムートン系の魔物を幼体の頃から育てて、ムートンと掛け合わせ、ムーフという独自の魔物を育て、毛を刈り、こうして製品にしております」
「へぇ、魔物と掛け合わせるんだね」
「はい、シャーフの毛は非常に保温性に優れているのですが、野生種ですので毛質は硬く、一歩のムートンは柔らかい毛質なのですが保温性を維持するために非常に重いのが難点で、両方の良い部分だけをなんとか選び取り、誕生した品種です。ですがまだ安定した飼育と生産には至らず、我が商会の主力商品はムートンの毛織物ですが、一部の、例えばこの紳士倶楽部に出席できるような方々には、こちらの商品をお勧めしているのです」
「へぇ……」
海斗は目を伏せて、視線を部屋の中に走らせた。
巧妙に、おそらく隠蔽魔法が駆使されているのだろうが、この部屋の広さは偽りだ。向かって左側の壁が大分前に出てきているのだ。布か何かに隠蔽魔法の擬態を掛けて壁として偽っている。そこに数多の気配がある。
『12……ってところかな』
英語で呟いて深く椅子に腰かけて脚を組む。
片手を挙げてエドワードにあらかじめ決めておいたサインを送る。
「ど、どうされました?」
当然、未知の言語で何かを呟き、手を挙げた海斗にフランツが面食らったように首を傾げた。
「ああ、ごめんよ。とても素晴らしいものに触れて、感動したんだ。これだけのものを作るのには、相当な時間と努力があったんじゃないかい?」
「……それはもう、様々な苦労がございました。曾祖父の代から始まったこの試みはようやく形になって来た次第です。ですがなかなか安定した生産が叶わず、昨年、牧場がゴブリンに襲撃されまして、ムーフも数自体が減ってしまいました」
「おや、それは大変だっただろう? ……トレープというものが、出たのかな?」
「いえ、そこまでの規模ではありませんでしたが真夜中の襲撃で対応が遅れてしまい、被害が……拡大してしまったんです」
フランツが俯いたと同時に首筋に冷たいものが当てられる。
「それで大口の取引を失って、経営が傾いちゃったんだよなぁ。坊や」
頭上から酒焼けした男の声が降って来た。
壁の向こうから音も気配もなく出てきた男が海斗の背後に立ち、首筋にナイフを当ててきている。
「おっと、動くなよ? お前の主の血が噴水みたいにぴゅーっと出ちゃうぜ」
男が牽制するように言った。ぞろぞろと男たちが出て来て、周囲を囲まれる。おそらくエドワードのところにも一人か二人、くっついているだろう。
「おやおや、物騒だねぇ」
海斗は両手をゆっくりと挙げながら言った。
フランツは俯いていて表情はうかがえないが、テーブルの上で握りしめられた両手が震えている。執事のネオはただじっと祈るようにフランツを見つめていた。
「コラッド家は今、窮地に立たされているんだ」
男がガサガサ声で話し始める。
「大口の取引先を失ったうえ、目玉商品だったムーフが激減して、量を確保することもできない。その上、父親の病が発覚して、治療に金がかかり、牧場の復興にも目途が立たない。さらに純粋なお育ちの子爵夫人がうっかり騙され、借金したところが少々厄介でね。このままじゃ土地も屋敷も手放さにゃならん」
「それは大変そうだ。不幸の詰め合わせだね」
「おい、勝手に喋るな」
余裕の態度を崩さない海斗に男は少し苛立っているようだった。
「……だがよぉ、この坊やは夏に父親になったばかりでな。……連れてこい」
少しの間を置いて、ドアの開く音がした。
横目で見れば、若い女性が小さな赤ん坊を抱えてやってきた。フランツが勢いよく顔を上げ「マリエッタ、カーク!」と叫ぶ。女性も「あなた」と震える声で答えた。女性は大分やつれていて、長い髪も後ろで一つに結わえているのだが、ぱさぱさなのが見てわかる。
赤ん坊はまだ双子と変わりないくらいに見えるが夏生まれなら、少しだけ上だろう。五ヶ月か四カ月くらいだろうか。
「それで? 俺に何をしてほしいわけ?」
「だから、勝手に喋るな! ……だが、聞き分けがいいのは嫌いじゃない」
男が口角を吊り上げたのがなんとなく分かった。
「お前は交渉材料になってもらう。冷酷だ無慈悲だと恐れられる神父様も大層、身内にお優しいそうじゃないか。それに領主もお前らに頭が上がらない。こちらに有利な条件で交渉が出来るってもんだ」
「そもそも、俺たちから何が欲しいわけ?」
海斗は、交渉材料なら殺されないな、と判断してアイテムボックスから真尋から貰った煙草を取り出して火を点ける。あまりに自由な海斗にナイフが少し首に食い込むが、男が海斗を殺せないことは分かっている。
「それを交渉材料でしかないお前が知る必要はねえ」
「そりゃそうだ」
ははっと笑って海斗は煙草を唇に寄せる。
「バース殿、貴方が出した条件は、達成しました……! 若旦那様たちを開放してください……!」
フランツの横にネオが立ち、毅然と言い放つ。どうやら海斗にナイフを突きつけている男はバースと言うらしい。
なるほど、と海斗は自分が狙われていた理由を察する。フランツが逃げるように目を逸らした。
「だめだ」
「なっ、話が違うではありませんか! 神父様をこの場に呼び出せば、若奥様と坊ちゃまを返してくださると……!!」
ネオが眉を吊り上げる。フランツが席を立ち、妻子の下へ行こうとするのを男の仲間が剣を構えて阻止する。
「カーク!!! だめ、やめて、返して!!!!」
マリエッタの悲鳴が響き渡り、赤ん坊の泣き声がこだまする。
別の男がマリエッタから赤ん坊を奪い、突き飛ばした。床に激突しそうになったマリエッタをフランツが自分の傍にいた男を押しのけて受け止める。
「それだけ返してやるよ」
バースが鼻で笑いながら言った。フランツが飛びかかろうとするのをネオが「今はだめです」と抑え、マリエッタが「返して」と泣き叫ぶが、バースはそれを愉快そうに笑っているだけだ。
海斗はふーっと細く長く紫煙を吐き出した。
「バース」
名前を呼ばれたバースの手がぴくりと揺れたのが押し当てられたナイフから伝わって来た。
「俺はね、こう見えて、弁護人になろうかと思っている人間なんだよ」
「神父のくせにか」
「うちは兼業が基本だし、自分の食い扶持は自分で稼ぐの決まりだからねぇ。それはさておき、約束ってのは守られないと意味がない、実際の報酬と異なると詐欺になっちゃうんだよね」
「だからなんだ? 信じたほうが悪いんだ」
「ははっ、詐欺師の常套句だ。俺、嫌いなんだよ、嘘つき」
「あっづ!!!!」
海斗は躊躇いなく唯一地肌が見えていたバースの手首に煙草を押し付けた。その瞬間、後ろでゴッと重い音が聞こえて、エドワードがフランツたちを一気に水のベールで覆った。
海斗は勢いよく立ち上がってバースの顎に肘を入れて、テーブルを跨いで目を見開いた男の顔に膝を入れた。男の腕の力が緩み床に落ちそうになった赤ん坊を素早くキャッチし左腕に抱きながら、飛びかかって来る男どもの相手をしてやる。
次から次へと飛びかかって来る男どもの合間を縫うように歩いていく。
「やあ、カーク。お兄さんが助けにきたから、もう大丈夫。ああ、ほら、赤ん坊に悪影響だよ?」
避けて躱して、脚を引っかけ転ばせて、海斗が勢いよくしゃがめば、頭上で頭と頭のぶつかる鈍い音がして男が二人倒れる。
「はい、エディ、ちゃんと持っててね」
赤ん坊をエドワードに託して、海斗は男たちに向き直る。
海斗の誘導に見事に引っかかてくれたおかげで、エドワードと水のベールに包まれる一家は海斗の背後に、それ以外は海斗の前に対面する状態になる。
「おや、鼻血が出ている。可哀そうに」
先ほど頭同士をぶつけた奴らだろう。赤いそれが間抜けに垂れている。
「あんまり煽るなよ??」
エドワードの声が引きつっている。
「よーし、エディ、お兄さんが狭い室内で多勢の暴漢に襲われた時の戦い方を教えてあげよう! ほら、おいで!」
「殺さない程度に痛めつけてやれ!!!!」
バースの怒鳴り声に男どもが飛びかかって来る。
「まずはこういうものをぶん投げる」
海斗は魔法でソファを持ち上げ、勢いよく投げつけた。三人巻き込まれて脱落する。
「金属製のトレーは防具にもなるし、こういう細い側面で鼻とか打たれるとめちゃめちゃ痛いんだよね」
ソファ横のカートに乗っていた金属製のトレーでナイフを防御し、トレーを平行にしてナイフ男の鼻面と鼻の下――人中に打ち込んだ。なんだか嫌な音がして、男が鼻と口を押さえてうずくまる。
「それでここには熱湯があるわけでしょ? これも使わない手はないよねぇ」
背後から忍び寄って来ていた気配に振り向くことなくポットのお湯をぶっかけた。ちゃんと魔法で再加熱してあげたので、もくもくと湯気を立たせながら男が転げまわる。なんか「目がぁあ」と叫んでいるから、彼はどこかの空に浮かぶ文明の王なのかもしれない。
「火魔法は使うと火事になっちゃうだろうし、魔法は室内ではあんまり向いてないよねぇ。それで大事なんだけど、こうやって飛びかかって来た人間ってさ、勢いをね受け止めて流して、ほら、ここを掴んでこうすると」
「いだだだだだだ!!」
海斗は殴りかかって来た男を最小限体をひねることで避けて、その手首を掴んでくいっとひねった。それだけで男はその場に膝をついた。もう日檻、性懲りもなく蹴りを向けてきたので上体を逸らし、もう片方の手で足を掴んでそのまま転ばせた。背中をしたたかに打ち付け、その場で悶絶している。
「いだい、痛い!!!」
海斗に腕を掴まれたままの男が悲鳴を上げる。
「ね、痛いよね。エディ、俺は合気道とかが得意なんだけどね。それには人体の構造をしっかり把握するのも大事だと思うんだよ。こうすりゃ、ほら、簡単に骨が折れる」
ぼきっと派手な音がして男の腕の骨が折れた。男はのたうちまわりながら気を失う。
海斗がにこにこ笑いながら、男たちを潰していくので、残りの男ども――バースを入れて五名――がたたらを踏んでいる。
「どうしたの? ほら、俺一人だよ、おいでよ」
海斗が首を傾げれば、バースが「行けよ! おら!」と仲間の背を押した。
「う、うぉぉぉぉ!!」
体格の良い一人が飛びかかって来る。
「エディ、こっからが大事なところなんだけど、人間には急所って呼ばれるものがあって、まずはここ『こめかみ』。殴打されると脳が揺れちゃってどうにもならなくなっちゃうんだ」
海斗は殴りかかっていた男の手を受け流し、態勢を崩したところで膝を入れた。男はふらふらと痛みに呻きながら倒れ込む。逃げようとしているのか、懲りずに挑もうとしているのかは知らないが、よろけて立てずにいる。
「その次が顎とみぞおち、どっちも有名だよねぇ。最後は王道の金的」
ひとりでは無理と判断したのか、三人同時に飛びかかって来たので、顎、みぞおち、股間、と拳と蹴りを叩きこんだ。男たちは呻きながら、その場に崩れ落ちた。金的の男は、泡を吹いて気絶してしまった。
さて、と顔を上げればバースはリックに捕まっていた。
「片付いたようだな」
「久々にすっきりしたよ」
リックの後ろから出てきた真尋に海斗は少々汚れてしまった手袋を変えながら返す。
ぞろぞろと第二小隊の騎士たちが入って来て、男たちを縛り上げて運び出していく。
「エディ、ほら、魔法を解いて」
海斗は振り返って、顔を引きつらせていたエドワードからカークをもらう。はっと我に返ったエドワードは、慌てて魔法を解いた。するとフランツとマリエッタが飛び出してきて「カーク」と名前を呼びながら辺りを見回す。
「こっちだよ。大丈夫、見たところ、怪我はないよ」
「ああ、カーク……!」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
マリエッタが掻き抱くように受け取り、フランツがペコペコと頭を下げる。
「まあまあ、まずは落ち着ける場所へ移動しよう。ジェンヌ、ガストン、頼んだよ」
「はい。こちらへ」
「我々が護衛します」
「で、でも、父と母が……!!」
フランツが顔を青くする。立ち上がったネオもこくこくと頷く。
「そっちは別働隊が動いていますから。今はまず、奥様と赤ちゃんの安全を守りましょう」
ジェンヌの言葉にフランツは、少しの間を置いて頷くとマリエッタを支えるようにして歩き出し、部屋を出ていく。これから騎士団の保護施設に移動する予定だ。
「あー、片付いたらお腹すいちゃった。雪乃のシチュー、たくさん余ってるかな」
「俺は一切、譲らないからな」
足下に転がるリックによって蔦でぐるぐる巻きにされたバースを検分しながら心の狭い神父が言った。
「カイト殿、冷静で的確で素晴らしい一戦でした! ぜひ、次の手合わせでは指導をお願いします!」
目を爛々と輝かせてカロリーナが握手を求めてきたので、海斗は「どうも」と笑いながら握手を交わす。
「俺はカイトがマヒロさんの友人でイチロの兄なんだなって、しみじみ思ったけどな……」
エドワードが後ろで何かをぼそぼそと呟き、リックが慰めるようにその肩を叩いている。内容は聞こえなかったが、彼も騎士として活躍したかったのかもしれない、と海斗はエドワードに向き直る。
「エドワード、君がコラッド一家を守っていてくれたから、好きに動けたんだよ、ありがとね」
「俺もなんだかんだ護衛騎士だからな」
照れくさそうにエドワードが鼻の下を指でこすった。
「リック、これも護送馬車に運んでおけ」
「はい」
真尋が立ち上がり、バースを顎でしゃくった。リックが蔦の端を掴むと「すみません、重い物は持てなくて」といけしゃあしゃあと告げて、ずるずる引きずりながら連れて行った。リック、あのまま階段とかもひきずっていくんだよなぁ、と思いながら海斗はバースを見送った。
「さて、俺は帰っていいよね?」
「俺も帰る、義理は果たしたからな」
真尋はカロリーナに「あとは頼んだ」と声をかけると部屋を出ていく。
「ジークは?」
「頃合いを見て帰るだろ。ベネディクトとの商談は終えたからな」
真尋の隣に並んで歩き出す。エドワードが数歩後ろについてきた。
「ね、真尋、これ見てよ」
海斗は懐からサンプルのムーフの毛糸を取り出す。あの騒ぎの中、床に転がり落ちたのを拾ったのだ。
真尋が手袋を外してそれに触れた。
「……ほぅ」
銀に青の混じる瞳が面白そうに細められた。
「この案件、俺がもらっていい?」
「ミア……は暑がりだから、先にサヴィラの部屋に恩恵を与えてくれるならな」
「ははっ、いいよ。サヴィ、寒がりだもんね。じゃあ、サヴィと女性陣優先で、これはなくしてしまうのは惜しい」
毛糸をアイテムボックスへと戻す。
「勉強は大丈夫なのか?」
「大体、頭には入れたからね。クロードがあれこれ教えてくれて、今度、商業ギルドに過去問と面接試験の予約をしに行ってくるよ」
「行く時は教えてくれ。まず間違いなく、商業ギルドへのなんらかの届け物が毎日のようにあるからな」
「はいはい。……あー、でもマジで腹減った。あんま食べる暇もなかったし」
「俺もほとんど食べていないな。飲んではいたが……お前、煙草吸ったか?」
「ああ、一本だけね。そういや、吸い殻、どうしたっけな。バース……さっき足元に転がってた奴ね。あいつにジュっと押し付けた後の記憶がないや。エディ、悪いけど確認してきてくれる? 火事になっても困るし……」
「俺も忘れてた、すぐに行って来る」
エドワードが慌てて部屋に引きかえしていく。
階段を降りて、会場には入らずそのままエントランスを出る。倶楽部の護衛に配置されている騎士たちに見送られ、ヴァイパーが馬車をエントランスに横付けしてくれ、お礼を言って乗り込む。リックとエドワードが戻って来るまで少し待機だ。
「ポチは?」
馬車の中に姿なく、真尋にくっついているというわけでもなさそうで首を傾げる。
「ジークの護衛をしている。それで? 手ごたえとしてはどうだった?」
座席に深く腰掛け、脚を組みながら真尋が問いかけて来る。
「俺の足下には及ばないけど、一般人なら逆らうのは難しい程度の実力かな。ただあれこれべらべらしゃべってはくれたけどね。コラッド家は、かなり困窮して、どうも借金という弱みを握られているっていう事前情報は間違いないみたいだよ」
「そうか。お前を呼び出したフランツ、だったか? あれもかなり脅されていたんだろう。お前に声をかけた時点で、かなり顔色が悪かったしな」
「奥さんと赤ん坊を人質に取られていたみたいだからね。でもなんで、人質も一緒に連れて来てたんだろ?」
「さあな。それは騎士団が捜査していくことだろう。海斗、この件は全体的にお前にまかせるからな。なにせ、誘拐された掛けたのはお前だから」
「なっ、最初に狙われたのお前だろ!?」
「俺は他の仕事で手いっぱいだ」
そう言われてしまえば事実、真尋は大忙しなので海斗は何も言えなくなる。
海斗は「騙された」と嘆きながら、絶対にこいつよりたくさんシチューを食ってやる、とひそかに決意を固めるのだった。




