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幸せな報告である。

目を覚ますと、私は真っ白なベッドの上に寝ていた。

体を起こそうとして、私の腕を誰かが掴んでいることに気が付いた。

腕を掴んだままベッドに突っ伏して眠る彼は、私が動いたせいかはっと顔を起こした。


「梓さん? ここは、どこ?」

「ここは病院。俺が寝室に行ったら、葵ちゃん意識失ってたから……心配した……っ」


私の腕を掴む手により一層力が込められた。

そうだ、私が梓に八つ当たりしたのだった。

私は梓の手を両手でぎゅっと握り、うつむいた。


「すみません、梓さんは私の体調を心配してくださったというのに……八つ当たりなんて、みっともない姿を見せてしまいました。お恥ずかしい限りです。

以後こんなことのないよう、落ち着いた振る舞いを心がけていきますので、どうか……見放さないでください……」


いきなり頬に涙を零す私を見て、梓は驚いていた。

私の両頬に触れ、彼は自分のほうに私の目線を向けさせた。


「なに言ってるの。見放さないで、って、俺の台詞せりふだから。

ああやって怒っている姿を見られたのも結婚したからでしょう? 嬉しいよ。

これからも俺にはいろいろな表情を見せて欲しいな」


私はこくんと頷くだけだった。

ここは言葉のいらない場面だ、そう思ったからだ。


私たちが手を握り合って少しずつ言葉を交わしていると、ドアがノックされた。

返事をすると、入って来たのは永澤先生だった。

そう言えばここは以前晶子さんが入院していた病院。

先生がいるということはつまり……期待通り、永澤先生の後ろに続いて病室に入って来たのは柚葉だった。


「どう? 体調のほうは」

「ええ、だいぶ良くなりました。ご心配おかけしました。

永澤先生が私の担当なのですか……?」


私が聞くと、苦笑しつつ先生は答えた。


「いいえ、俺は産婦人科医ではないから違いますよ。

でも君の担当医師から伝言を預かってきましたから、俺から伝えるね。

『少しずつでも良いから食事をすること。明日の朝に退院予定』だって」

「食事、しっかりしたい気持ちはあるのですが……つわりがひどくて……なにを食べたら気持ち悪くならないのかわからないのです……」

「専門ではないけれど、聞いたことあるのはバナナやクルミを食べると良いそうですよ。

あとはしっかりと水分と鉄分を摂ること」


ありがとうございます、そうお礼を言うと、先生は人の良さそうな笑顔で会釈した。

そして梓はすぐにバナナとクルミを買ってくると言って出て行った。

私はまだ大丈夫だと言ったのだが、早くしたほうが良いと言って聞かなかった。


いってらっしゃい、いってきます。

そんな当たり前の言葉を交わした後、柚葉と永澤先生は私に話し始めた。


「私たち……結婚することになりました」


そう言って左手を見せる。

その2人の左手薬指には、銀色に輝く指輪がはめられていた。

私は思わず歓声を上げた。


「おめでとうございます……!」


すると、永澤先生が照れくさそうに言った。


「本当はもっと早くにプロポーズしてしまっても良かったのですが、なかなか勇気が出ずこんなに遅くなってしまいました。お恥ずかしい限りです……。

さすがに俺も彼女も良い年になってきたので覚悟を決めました」


かなり早く結婚した私たちとは対照的に、2人はゆっくりと愛を育んでから結婚へと進めたようだ。

永澤先生はぐいぐいと攻めていくタイプではないし、柚葉も正反対のタイプだから、なかなかプロポーズに踏み切れなかったというのもわからないわけでもない。

なんともこのカップルらしい話である。


「いいえ、遅くても私は先生と結婚出来ただけで嬉しい……ありがとう」

「なに言ってるの。柚葉は俺なんかより良い人がいただろうに、俺を選んでくれて……ありがとう」


いきなり2人が私の入っていけない雰囲気を作ったので、私はまた布団に潜った。

そんな私に気付くとともに、自分たちがそういう雰囲気を作ったことにも気付いたのか、2人は慌てて変な距離をとった。

柚葉はこの雰囲気を打ち破ろうとしたかのように言った。


「茜が私にはなにも話してくれないんだけど……茜たちのこと、なにか聞いてる?」

「私ではなく梓さんが聞いた話なのですが、茜ちゃんは進展させようと頑張っているようですよ。

そして楓さんはそんな茜ちゃんを見て、悪い笑みを浮かべながらなにをして来るのか様子を見ているのだとか」

「あの子らしい……」


楓のそういう性格を知る柚葉は、ふふふと笑った。

茜ちゃんも茜ちゃんらしく、そのカップルもこれまた面白い。


私たち以外のカップルすべてが良い方向へ進んでいる。

皆の幸せな報告を聞くたびに私の赤ちゃんが喜んでいるかのように動く……そう感じるのは、私がこの子たちの親だからなのだろうか。

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