確かなキスである。
学校では、とある1枚の写真が話題になっていた。
女子たちが回しているそれは、昨日発売の週刊誌だ。
大きな字で書かれているのは、『謎の美少女・RIHO、友人も超絶美女⁉︎』。
見開き1ページをすべて使ったその記事には、ロリータファッションに身を包む人と顔を近付けて見つめ合う和服を着た長身美女の写真が大きく載っていた。
つまり、一昨日の日曜日の私と、女装した梓である。
テレビ出演などする際はいつもヴェールをかけているというのに、意外にもあっさり撮られてしまったこと、そしてなによりも梓が普通に超絶美女として認められていることに驚きつつも、女子たちの会話に耳を傾けてみた。
「最近RIHOちゃんを雑誌で見て可愛いなって思って注目してたんだけど、このお友達も綺麗じゃない⁉︎」
「わかる! 2人並ぶと人間じゃないレベルだわ」
まさか梓が女装していたと勘付かれてしまったのではないか……?
そんな不安は一瞬で打ち砕かれた。
逆にこの『超絶美女』さんが美しすぎる一般人というような認識らしい。
梓の方を見ても余裕そうに腕を組んでいて、無駄に心配したのは私だけだった。
それにしても、
「私、RIHOちゃんのポージングとか話すときの自然な感じも好きで、雑誌載ってるところ全部付箋貼っちゃったんだよね」
「私もだよ? 隣のクラスの友達も言ってた!」
「あの子、ミステリアスで顔見えないけどなぜか親近感感じちゃうって言うか」
「わかるー!」
思わぬ人気につい頰が緩む。
私は普段ないほど軽い足取りで理科室に移動した。
理科室では、名前順に席に着くため、梓と向かい合って座る形になっている。
こういうときに交際していることを公言しておいて良かったと思う。
だって……堂々とお喋りできるから。
「良かったね。すごい大人気じゃん、RIHOちゃん?」
「本当に私が……皆さんに認知されているなんて。
女の子たちの話題に上っているなんて。信じられないです……!」
興奮して話していると、頬杖をついてそんな私の様子を眺めていた梓がにこっと微笑んだ。
思わず口をつぐみ、首を傾ける。
「あ、ごめんね。良いよ、もっといっぱい話して?」
そんな風に可愛く言われても、『ああそうですか』とすぐに納得できるわけがない。
「な、なんですか? こんな状態で話し続けられるわけ……」
「んーん、葵ちゃんがこんなに興奮して頰を紅潮させて話してるの見たことないなって思ってつい見入っちゃった。
こんな理由じゃ見つめてちゃだめかな?」
「〜〜〜!」
なぜいちいちこんなにも私をどきどきさせて来るのか。
私のことをどきどき死させるつもりなのではないかと変な疑いをかけてしまうほどである。
理科は、なんでも出来てしまう梓が唯一苦手とする教科である。
これだけは難問に頭を悩ませたり教えて欲しいと頼んで来たりする彼が見られる。
「この化学反応式の酸化銅は……」
「これは……」
「あ、そっか! ずっとこれ分からなかったんだけど見落としてたわ」
素直に学ぼうとする姿勢は彼の好きなところでもある。
頭が良いことを自慢することなく私の目線にも合わせてしてくれる解説も分かりやすくて、つまずいた原因も指摘してくれるので同じ間違いを繰り返すことがない。
こういう素晴らしい人が彼氏だなんて……昔の私には想像出来なかったことだ。
今日は部活がない日なので梓と久々に一緒に帰る。
校門のところには、めいっぱいおしゃれした楓がいた。
「楓さん、こんにちは。茜ちゃん待ち……ですか……?」
「こんにちは! ん、そ、そう。学校で怪しい女とかいない⁉︎」
「安心しろ、今の茜ちゃんは楓のことしか見えないくらい惚れてるから」
『彼氏の気持ちが不安になれるのは女子の特権』なにかにそう書いてあったことを思い出す。
別に男だからといって不安になれないわけではないのでは……そういう反抗心も持ったが今はとりあえず触れないでおこう。
私は彼の横顔に目線を走らせた。
そのときに彼も私のことをちらりと見たように思えるのは気のせいなのか……?
梓の家の前に着いた。
いつものように手を振って私の家の方に足を向けたが、後ろから抱き締められる。
「ど、どうしまし……ん?」
後ろを振り向いたと同時にキスを落とされる。
「不意打ち……ずるい……」
「この前のデートで出来なかったんだもん。
……ねぇ、今日は葵ちゃん家行っちゃだめかな、寂しい」
「良いですが……どうされたのですか? 今日はいつもと違う気が……」
「葵ちゃんが『RIHO』として有名になっていけばいくほど距離が遠くなる気がして……」
なんてことを言っているんだろう、この人は。
「なにを言ってるのですか、そんな気持ち、私はいつも持っております。
いつ飽きられてしまうんだろう、いつ別れを告げられてしまうんだろう。
そんなことばっかり考えているのですよ……」
「なんだ、俺ら一緒のこと考えて不安だったんじゃん」
そんなことに気が付いて、私たちは『ふふふ』と笑い合った。
今私の家片付いてないけど……大丈夫かな?




