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彼氏の意地である。

食事を終えた後も私たちはベンチで会話を楽しんでいた。

お母さんと手を繋いではしゃぐ子供たち、顔を赤く染めて笑い合うカップルたち。

そのいかにも楽しそうな様子を眺めて会話しているだけでハッピーな気分になれるのは、梓だからこそ……なのだろうか。

今まで人と会話することを極力避けていた私が、彼とならもっと話したいと思ってしまっているときがある。

私にとって梓は、それくらい気兼ねなく話せる家族のような存在になっていた。


「さて、もうそろそろラストチャレンジ行くか!」

「ラストチャレンジとはなんでしょう……?」

「最後の挑戦! 絶叫マシンへの挑戦のこと!

もう帰るような時間だしね。今回こそは絶対泣かないっ」


両手でガッツポーズをし、鼻息を荒くする。

今度こそ、そう言って軽い足取りでこのパーク1怖いと話題のジェットコースターへと向かって行った。


ジェットコースターが動き出し、高い高いところへと上って行く。

直角以上に厳しい角度で落ちる前隣の梓を見てみると、顔を真っ青にして固まっていた。


落ちた瞬間。

隣からこの世の終わりかと思うほどの絶叫が響いた。

まるでこの遊園地全体まで響き渡るかのような。

それからも彼にとってはまさに地獄のようなコースを走った後、ついに止まった。

梓は……涙を流していた。


「怖いよぉ……えぐっえぐっ……」


彼は細い人差し指で潤んだ目に溢れんばかりに溜まった涙の粒を拭った。

妙に泣く姿まで女性らしく、艶っぽささえも感じた。


私が美しい姿で涙を流す梓の背中を一生懸命叩いてやっていると、


「お姉ちゃんたち、なにがあったの? お兄さんと一緒に遊ばない?」

「……なんすか、あんたたち」

「怖いなぁ、せっかくの綺麗なお顔がもったいないよぉ」

「そうだよ、俺らが君たちの分のお金も払ってあげるから飲みたいだけお酒飲みなよ。

なんでも良いんだよ、日本酒でもワインでもビールでもカクテルでも」


2人組の男性たちは、私たちの肩をそっと抱いた。

その手は少しずつ胸に伸び寄って来ていて鳥肌が立った。

梓は一瞬で泣き止み男の顔になった。

体を器用に回転させて男の手からするりと抜け出ると、その肩を触っていた手をぐいっとひねった。

男は顔を歪めて呻いた。


「おい、お姉ちゃん、いくら美人だからって手加減しないから覚悟しろ……よっ!」


私の顔の前を通過する拳はスロー映像に見えたが、しっかりと風を感じた。

梓の顔面めがけて振り回された拳。

隣の男の目からは梓の顔に男の拳がめり込んでしまった……そのように見えたらしく、


「良いぞーもっとやっちまえー!」


と言っていたが、私の目にははっきり見えた。

梓が男の力強く握り締められた拳を手で受け止めた瞬間が。

すごい力で受け止めながら、彼はもう一つの拳で顔にパンチを食らわせた。

目をぎゅっとつぶったが、どこか張り詰めたような不思議な空気を感じてそっと目を開けた。

なんと梓は、顔の前で拳を寸止めさせて睨みつけていた。

男たちは怖じ気付いたようで、


「すみませんでしたぁ〜!」


と泣きながら去っていった。

それと同時に、


「なんであの女あんな強いんだよ! 力が半端なかったぞ……」


というつぶやきも聞こえた。


「はあぁー、女って大変だね、こうやって絡まれちゃったりして。

葵ちゃんは特に可愛いんだからああいうのに付いてっちゃだめよ?」

「いやああいうのに絡まれたのは初めてです……。

それにしてもあんな至近距離で見られても男だとばれないのですね?」

「そりゃあ、ね」


着物をふわりと舞わせながらにやりと意地の悪い笑顔を見せた。


「あんなのに見破られるほど低レベルな女装をしてるつもりねーし」


『やるならとことんやる』……彼のその姿勢は私も学べることがたくさんあった。

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