初仕事である。
今日の出演者は男性3名、女性6名の計9名。
茜、UMI、そして茜が呼んだ楓の3人でメイクを進めていく。
私はヘアメイクに関してはまったくと言って良いほど力にならないので、1人3人ずつを目安に動きを見て指示していく係だ。
「茜ちゃんはこの廊下の端の部屋にいる佐藤さんを、UMIさんはこの部屋の山田さん、楓さんはUMIさんと同じ部屋で坂本さんをお願いします。
UMIさん、山田さんはメイクがあまりお好きではないそうですので、うっすらで大丈夫です」
という調子で配分し、その1人1人のこだわりがあればそれも話していった。
この3人の協力によって、思ったよりもかなりスピーディーに終わった。
時計を見てみると……、
「始めてから9分30秒で終わりました!」
スタッフに大声で叫んだ。
私たちは4人でハイタッチし、喜び合った。
ミステリアスな雰囲気でなければならないので、私はカラコンを入れてヴェールをまとっているし、茜も黒いハットを被っている。
基本的に黒っぽいようなダークな色合いの服でないといけない。
これでは私たちの正体は確実にばれないだろうから安心だ。
私たちは収録開始の合図から緊張しっぱなしだった。
司会のUMIに『ミステリアスコンテスト』優勝者だということを紹介され、私たちが挨拶をする場面でも噛みまくって何度もやり直しになってしまった。
周りの出演者たちも少しずつ苛立ってきているのが伝わる。
そんな肩身の狭い環境の中におかれ、私たちはさらにがちがちになり、再び噛みまくり……という悪循環に。
そんな様子を見兼ねたスタッフが『はい、ちょっと休憩挟みまーす』と言った。
共演者もスタッフも全員が一斉にため息をついた。
焦って焦って、心臓がきゅーっとなってきた……そんなとき。
「大丈夫大丈夫! 普通に、普通に! 私たちのために出演してるわけじゃないのよ、すべては自分のため、視聴者のため。
それを考えつつも無心で……大丈夫!」
と言って背中を叩いてくれたのはUMIだった。
それを聞き私たちは、また共演者の方々に怒られる、またスタッフの方々に迷惑をかける……そんな風に思っていた自分がばかばかしく思えてきた。
休憩の終わりを告げる声が聞こえたとき、私たちはちょうど同じタイミングで息をすぅっと吸って、ゆっくり吐いた。
「こちら、先日開催の『ミステリアスコンテスト』で優勝された、RIHOさんと燈さんです! お二人はこれが初のテレビ出演なんですよね?」
私たちは揃ってにこっと笑顔を見せた。
「はい! 初めてなのでとっても緊張しているのですが、嬉しさもいっぱいです。
コンテストで優勝しました、RIHOと申します! これからもテレビに出させていただけるように頑張りますのでよろしくお願い致します!」
「僕も優勝しました、燈です!
お世話になってきた方々に恩返しできればなって思ってます。
よろしくお願いしまーすっ!」
わーっという歓声に、私たちは会釈と笑顔で応える。
「これからどのようなお仕事をしたいとお考えですか?」
「私は、ニュース番組のコメンテーターや司会にも挑戦したいですね」
「僕は街を食べ歩いてレポートとか……したいです!」
それからもコーナーの中で普通に楽しみ、私は気が付けば歯を見せて笑っていた。
また違う人格が私の中に入ったかのようだったが、収録はUMIにアドバイスをもらってから一瞬で終わった。
最後まで笑顔で、自然な私で入られたように思える。
収録後、私たちはUMIの楽屋へとお邪魔した。
もう次のお仕事の支度をしていたが、どうぞ入ってと言ってくださり、笑いかけてくれた。
「とても良かったじゃない! お客さんも好印象だったと思うわ。
ああいう自然な笑顔とトークは大事だから忘れずに、決して飾ったりしないように。
じゃあまたあなたたちと共演出来ることを楽しみにしてるよ!
私はお先に失礼するけど……」
「メイクなどまで、たくさんお世話になりました! ありがとうございました!」
「ありがとうございました。お疲れさまです」
じゃあねー。
そんな風に親しみやすい口調のままこの楽屋を出て行った。
テレビ局を出たとき、ちょうど梓と楓が迎えに来た。
「どうだった?」
という問いに対し、私たちはそれぞれの愛する人に抱きつきながら答えた。
「とにかく……疲れたぁ……!」
私たちはその足で安いチェーン店の蕎麦屋へ向かった。
今日の収録に関する話が尽きなかった。




