お願いである。
「かわ……いい……」
「どう、私の腕前に感動したでしょ?」
私の生まれ変わったような姿を見て梓は目を輝かせた。
腕を組んで自慢げにする楓には答えず、私の頬に手を当てる。
まっすぐに瞳を見られなんとなく気恥ずかしくなる。
私たちが恥ずかしがっている様子を見ていた楓は、
「梓、あんたこの子のこと好きなんでしょ」
「……そうだけどなにか?」
「ふーん、随分理想が高いんだね。こんな可愛い子を惚れさせるなんて難しいけど」
「わぁってるよ! どうにかするし」
「絶対梓のことだからどうやって『どうにかする』のか考えてないんでしょ」
うっ……そう呻いてうつむいた梓を見ていると楓の言葉は図星を指していたようだ。
そんな弟を見て姉は、協力してあげると言った。
ほんと? とすぐに食いついた梓を見てにやりとしながら、
「ええ、あんたたちをくっつかせてみせるよ。
だからさ、二人ともこのコンテストに出てよ」
ぴらっと見せた紙には『ミステリアスアイドルコンテスト』。
単純に言うと、正体を明かさないアイドルのオーディションということ。
仕事はネットの生配信、雑誌でのモデル、テレビのレギュラーとかなりすごいことをやるほど事務所から猛プッシュされるようだ。
オーディションでは演技、ポーズ、スタイル審査などがあるらしい。
男女各一名が合格らしい。
「これに出て楓になんの利益があんの?」
「ほら、優勝者はね今大人気の俳優・シンジと女優・ミエコとCMに出るんだって!
二人がCMに出て、私がマネージャーになれば良いでしょ。
二人とも顔めちゃくちゃ整ってるんだから、十分優勝の可能性あるし」
「そんなことで俺ら使うのかよ!」
「でも、さ。全力で協力してあげるよ?」
うっ……二回目の呻き声はその誘惑に負けたようだ。
じゃあ出ると言っているが、
「ちょっと待って、私出ないですけど」
びっくりしたような顔をされたが当たり前だ。
梓がオーディションを受けるのは構わないが、私にはなんの意味もない。
さらにまた顔を出して怖い目に遭うのが怖くて仕方ない。
それは秘密にしておくが。
「お願い、葵ちゃん! 一緒に受けて!」
「いやです。怖いし……」
振り返って部屋を出ようとすると乱暴に腕を掴まれる。
「お願いだ、葵ちゃんは俺が守るから」
そう言った梓の顔はいつものへらへらした顔とはまったく違い、真剣だった。
ついその表情に動かされ、小さくこくんと頷くと、
「よっしゃあぁ! じゃあ葵ちゃんも頑張ろうね!」
「私がメイクアップとかはやってあげるから、このパック使って」
「あ、ありがとうございます……」
ばっちり思うつぼにはめられてしまった、というかはまってしまった。
オーディションの話はそれで終了だった。
これから起こることが怖かったが、梓を信じるのもありかもしれないと思った。
また同じ机で明日提出の課題レポートを書く。
お互いに、
「ここどうすれば良いと思いますか?」
「この表現おかしいかな?」
とわからないところを聞き合い、遠慮せずズバズバと意見を言う。
私にとって彼の発想は斬新で面白く、吸収したいと思った。
彼も私に対して同じようなことを言ってくれた。
「なんで梓さんは一位を取れるんですか、なにか良い勉強法でも?」
「えーいつも今日と同じようにただ問題見たり解いたりしてるだけ。
わからないところはすぐに答え見て、わかったら次進んで」
「そ、それだけなんですか? 勉強時間は……」
「毎日一時間半やるかまったくやらないかかな」
ああ、そうか。
私は梓の勉強についての話を聞いてわかったことが一つ。
これが『天才』というやつなのか。
才能にはどうしても勝てないので若干諦めた私だった。
「梓と葵ちゃーん、一緒にテレビでも見なーい?」
「ほーい、もう行くわー」
下から聞こえたおばさんの声に梓も負けじと声を出して応える。
下のソファで可愛い動物の赤ちゃんがたくさん出てくる番組を見ている。
そこでこれ可愛いね、とか話している梓とおばさんを見て、
「二人仲良いですね、反抗期とかなさそうです」
「あーないな。俺が反抗なんてしたら母ちゃんのフライパンが飛んでくる」
「なぁに嘘吹き込んでんのよ!」
そう言っておばさんは丸めた新聞紙で頭を叩く。
そんな行動とは裏腹に満面の笑み。
それを見る楓も、叩かれた梓も笑顔が浮かんでいる。
楽しそうでお母さんを大事にする梓は学校で見る感じと違って可愛らしかった。