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天罰である。

私が堂々と手を繋いで登校した、とある月曜日。


学校にお偉いさんがいらっしゃるということで、私たちは朝清掃することになった。

普段の清掃は10分間、今日は特別に30分間も清掃時間が取られていた。

私と梓は同じ班なので清掃場所は一緒だが、彼は男子トイレ、私は女子トイレ担当なもで別行動である。


同じ班の女子4人とトイレに足を踏み入れ、清掃用具入れからモップやブラシを取り出して水を床に撒く。

私は黙々と床をブラシで擦り始めたが、周りの女子はそんな私をくすくす笑いながら見ているだけでなんだか感じが悪い。

嫌な気持ちになりながらも、こんなことはもうなれっこ。

特に気にすることもなく作業を続けていた。


すると、その4人の中で1番細く、華奢きゃしゃな可愛らしい女子がわざとらしくふらついた。

頭を押さえているということは貧血の真似だろうか。

私はちょうどその女子がふらついた先に水を送り出してしまっていた。

そして当たり前だが私は彼女に掃除して汚れた、黒っぽい色の水をかけてしまった。


「きゃあぁっ! 汚れちゃったぁ〜ん」


これまたわざとらしく口に手を当てて騒ぎ出した。

さらにその同じグループの女子たちが、彼女の周りに並んで私をきっと睨み付けた。


「うちらの『シンユー』になにしてくれてんの?」

「ゆうにゃんはあんたなんかより100000000000倍可愛いんだからね?」

「うわーかわいそ、ゆうにゃんの可愛さに嫉妬してるんだ?」

「もぉやめてよみんなぁ。みんなの方が和泉より100000000000倍可愛いよぉ。

あっごめんねぇ、ゆう素直だからつい思ったこと口に出しちゃうのぉ」


当人も仲間をおだてながら遠回しに私を侮辱ぶじょくしている。

まあ普通に見ればこの『ゆうにゃん』が1番可愛いと思うが……。


「やっぱうちら、ゆうにゃんのために復讐しなきゃだよね?」

「当たり前じゃーん?」

「ゆうにゃんが可愛いからって嫉妬しちゃってる和泉さん?」

「うちらの梓を独り占めしてるからって浮かれちゃってる和泉さん?」


このすべてに疑問符がつく言い方。

以前にも気になったことがある……。


そうだ、はっきり思い出してしまった。

以前茜が勇気を出して追い払ってくれた人たち、そして茜と2人きりで清掃用具入れに入ったあのときに話していた人たち。

さらに思い出した、


和泉あいつに天罰下そうよ』


そう言っていたことまで。

もしかして、その計画は今、実行されているのでは……?


私は自然と後ずさっていた。

気が付けば全身がぶるぶると震えている。

前にも出てきた『みーぴょん』ががしがしと大股で私を壁まで追い詰め、私の腕をこれまた力強く掴んだ。


「いた……っ……」


そう顔を歪めた私を見て、顔を見合わせてきゃはっと声を出して笑われた。

そんな彼女らを私は睨み返し、手に持っているブラシを構えた。

だが大柄なみーぴょんの力には逆らえない。

どうにかあらがおうと手に持っているブラシを振り回そうとしてみても、4人の力は強大でただ暴れるだけになってしまった。


先ほど私が水をかけてしまった女子が水が少し溢れ出るホースを持って来る。

嫌な予感しかしなかった。

蛇口を思い切りひねり、ホースの口を私に向ける。

羽交い締めにされた私は目をつぶり、口を硬く閉じておくことしか出来なかった。

私は彼女らの笑い声や、『ざまあみろ』という声に囲まれていた。


清掃終わりのチャイムが鳴って、私はやっと彼女らから解放された。

全身びしょ濡れになった私は先生や梓に事情を聞かれたが、


「間違えてホース自分に向けちゃったんだよねぇ?」

「もードジっ子さんなんですよぉ、和泉は。んね? 和泉」


と威圧感ある笑顔で頷かざるを得ない雰囲気になってしまった。

私は梓に心配をかけてはいけないと思い、微笑んだ。


帰り道で梓は本当になにもなかったのかと問い詰めてきた。

だが今まで散々迷惑をかけてきたのだからもういけない。

そう思い、


「なんでもありません。ご心配……なさらず」

「そ、そうか? なんかあったら言えよ?」


彼のたくましい手のひらに撫でられて目には涙が溜まったが、どうにかしてその涙を抑え込んだ。


これで天罰は終わり?

いや、彼女らの天罰はそんな甘いものではなかった。

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