やきもちである。
梓は泣き続ける私に理由を問うこともなく包み込んでくれていた。
こういう優しさが女子に人気なんだろうな……またそうやって他の女の子と仲良くする梓のことを考えてしまう。
そういう私がとても嫌になるが止められない。
どうしてこういうことを考えてしまうのか?
その原因さえ定かではないのだからどうしようもないであろう。
さすがに涙が止まらず、過呼吸気味になってきた私の心配をしてくれたのか、
「葵ちゃん……どうしたの? 俺にならなんでも相談してよ……」
と少し掠れた声で囁かれた。
その艶っぽい声を聞いて、私は彼を愛おしく想う気持ちが溢れそうになったが、脳裏には先ほどまでの梓の姿が浮かんだ。
つい反射的に梓を突き飛ばし、彼の温もりに別れを告げる。
「梓さん、正直にお答えくださいね?
私と……いつまで付き合ってくださるのでしょうか……?」
「なに言ってるの? いつまでって……いつまでもの予定なんだけど」
私が泣きながら問うたことの意味がわからないのは当たり前だが、彼は首を斜めに傾けて普通にそう言った。
「いえ、どうせすぐに私なんかに飽きたら、あの可愛い女の子たちと付き合うのでしょう。怒りませんよ……」
「『私なんか』!」
そうだ、『私なんか』って言わないって約束したんだった。
梓はびしっと私に指を向け、すぐさま指摘した。
そしてその厳しい顔が緩んで優しげな表情になった。
「葵ちゃん、落ち着いて……どうしたの?
俺に言いたいことがあるなら言ってくれる?」
彼は困り眉になった。
私の目線に合わせて腰をかがめ、肩に手を置かれる。
こういう小さな仕草とか優しさが好き……なのかな。
おかげでパニックになっていた頭と彼への爆発しそうな苛立ちは落ち着いてきたような気がする。
梓はすごい力を持っているし、その能力を無意識的に発揮しているから尊敬してしまうのかな……私にはない力である。
その安心感に導かれ、私はぽつりぽつりと話し始めた。
「今日梓さんがクラスの女子と楽しそうに話しているのを見て、無性に苛立ちを覚えてしまいました……。
そして、すぐに私な……いえ、私を見捨ててあの可愛くて綺麗な方々に夢中になってしまうのではないかと考えたら不安になって来て。
さらに最悪なことにその苛立ちを梓さんに甘えることでぶつけてしまいました。
すみません、これからはあの方々にも負けないくらい努力します……!」
もうほとんど最後の方は言葉にならず、うぅーとかわぁーとかばかりだったが、頻繁に『大丈夫? 辛くない?』と心配してくれていたのでどうにか過呼吸にならずに通常呼吸モードに戻った。
今までの梓に対する謎の苛立ちについて話し終えた瞬間、彼は私とは目を合わせようとしないまま私を強く抱き締めた。
どうにか彼の肩の上から顔を出してぷはーっと息をし、
「な……なんでしょうか……?」
「なんで葵ちゃんそんなに可愛いの?
天然なんだろうけど、わざとなんじゃないかってほど可愛い」
それからも『葵ちゃん可愛い』のようなことを連呼していた。
私は彼の匂いを今までよりも近く感じて、なんだか胸が高鳴ってしまう。
こんな風にどきどきしているのも私だけなのかと思うと苛立ったが……彼の胸に耳を当てても私と同じくらいの速さで心臓が跳ねていた。
「それね、『嫉妬』っていうんだよ?
まあ別の名を……やきもち、ってやつって言えば良いかな?」
やきもち? やきもち? 私が?
なんだか現実ではないみたいな言葉だった。




