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別世界である。

「……ん?」


とだけ言って固まった梓に、2人揃って左手を見せた。

その薬指には銀色に輝く指輪がはめられていて、手首にも同じデザインの腕時計を唯紅はピンク、お兄ちゃんは青色のものをしていた。


「私の希望で婚約時計お揃いなの。でね、このリングは名前入りでここに小さいけど私たちの誕生石のサファイアが入ってて……」

「唯紅には謝りに来てくれたその日にプロポーズしたんだ。

やっぱり唯紅がいないと俺はだめだなって思ったし、また唯紅が来てくれたときすごく安心したから。な、唯紅」

「うん、私なんかを選んでくれて、ありがと」


2人で寄り添って、顔を見合わせてふふふと微笑んでいた。

その様子をじっと見ていた梓に唯紅は言った。


「梓くんも結婚しちゃいなさい? あと1年の辛抱、よ?

それともうひとつ、先輩からのアドバイス、『プロポーズは後回しにしないこと』」


そんな具体的に『結婚』というワードを出されても私たちはまだ高校生。

私も梓も戸惑うばかりである……と思いきや、梓は顔をぼっと紅く染めた。

な、なんで梓さんそんな真面目に考えて照れてるの……!


私はそのとき、もう自分が17歳という歳になったことに今さらながら気が付いた。

女子が結婚出来るようになるのは16歳なので、もう結婚しても良い歳になっていた。

男子は18歳なので梓は来年の誕生日を迎えてからである。

そう思うと『結婚』は夢のような幻想的なものではなく、現実的なものに感じてきた。


この日、お兄ちゃんと唯紅はこの家を出て、また今まで通りの生活に戻った。

今までお兄ちゃんと一緒にいたり、茜の家や梓の家に泊めていただいたりしていたので賑やかだったぶん、少し、いや、かなりの寂しさを感じた。

だが今の私は前の私とは違って優しい友達がたくさんいる。

……理解者である彼氏もいる。

前のような不安感はなく、またその友達たちに会えることを楽しみにしている自分がいた。


翌日、再び学校に行く生活がやって来た。

最近まで忌引で欠席していた梓は、かったるいという言葉を連呼しつつ一緒に登校した。

これまたかったるいと連呼しつつ教室に入って来た先生はいきなり、


「んじゃあもう良い感じだし席替えするか〜」


とつぶやくように言い、みんなにくじを回して引いていった。

せっかく想いが通じ合ったばかりなのに梓とお別れ。

お互い寂しくなって、一瞬だけこっそりと手を繋いだ。

……というのもクラスの人たちにはまだ私たちが付き合い始めたことを打ち明けていないからである。


黒板に書き出された新しい席順。

私は窓側の1番後ろで、梓はその2列前の席。

同じ班だから週番のときは一緒にいられるが、授業中会話を交わすことはもちろん、休み時間に話しかけることも困難だろう。

どうにか梓は私の隣にいけないかと色々な言い訳をしていたが、それはただの無駄なあがきとなってしまった。


1時間目授業を受けている間も私は視界に梓が入っている状態である。

梓の周りの席にいる女の子たちはみんな派手で、私なんかよりも可愛い。

おしゃれに気を遣っていて、髪を巻いたり薄いメイクをしていたり、声も可愛くていかにも女の子って感じがする。

そういう女の子たちと仲良さそうに話している梓を見ていると、少しだけ胸の奥がちくんと痛んだ。


休み時間になって話せるタイミングを伺っていたが、梓はこちらに見向きもせずその可愛い女の子たちに囲まれて談笑していた。


「えー? 今週末予定入っちゃったのー? 私と約束してたじゃーん!」

「違うわよ、今週末は私と約束してた! そうだよね、梓?」


というように、可愛らしい声で梓、梓と呼ばれている。

まるでそこだけきらきらした星が飛び交っているようだ。

私はそれを見ていてすぐに悟ってしまった。

『この人は私なんかと釣り合う人じゃない』ってことを。

今はどうせ気まぐれで私に構ってくれてるだけで、飽きたらこんなにもいる女の子の中からまた1人選び出して付き合うつもりなんだろう。

私はクラスの端っこで1人勉強しながらずっとそのことを考えていた。


今日の帰りも一緒に帰ろうと約束していた。

クラスメートに見つかると厄介なので、少し時間をずらす。

私が1人待っていると、そこに慌てて梓がやって来た。


「ごめんね、待たせちゃって! 色々仕事頼まれちゃってさ……」


と謝ってくれた。

私はその梓の顔を見つめていたが、ついに気持ちが溢れて梓の胸に飛び込んだ。

そして私は小さな子供のように泣きじゃくった。

梓は微笑みつつも私を包み込んでくれた。

また香るこの優しい香りは、私の涙をさらに誘った。


ネガティヴモードにスイッチが切り替えられていた。

今さらですが、唯紅に関する表記がおかしかったので修正致しました。

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