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婚約である。

2人で同時に家を出たが、今までのように笑い合って楽しく歩く帰り道、という雰囲気ではなくなった。

私たちの間には微妙な距離があり、お互い反対の方向をじっと見ている。

私もそうだが、きっと梓もなにか話しかけなきゃ話しかけなきゃと思っているのだろうが、そのきっかけが掴めない。


私は勇気を振り絞って梓の方に顔を向けて、


「あの……!」


と言ったが、梓もまったく同じタイミングでまったく同じことをした。

途中まで言いかけてぐっと口をつぐむ。

そして見つめ合っているこの状態のまま、なんだかおかしくなってきて笑った。


結局私たちはそれ以降なにも話さないまま歩いた。

ただ先ほどと違うことがあった。

私たちの影は、主に手のあたりでくっついていた。

つまり、ぎこちないながらも手を繋いで帰った。


私の部屋は明かりが点いていた。

もう仲直りしたので家に帰りたくないとかそういう感情はない。

梓は私を、私の部屋の前まで送ってくれた。


「今日はおめでとう、そして俺のこと受け入れてくれてありがとう。

これからは彼氏として……よろしくね?

あとずっと思ってたんだけど、出来るとき、敬語なしで話してみて欲しいな」

「は……いえ、うん……!

こっこちらこそ私なんかを選んでくれて、勇気をくれて、喜びをくれて、ありがと」

「おう! んじゃあな、また明日学校で」


彼はそう言って私の頭を撫でてくれた。

じゃあね、と言って彼は下に降り……ようとした。


いきなり私の部屋のドアが勢い良く開かれ、中からお兄ちゃんと唯紅が顔を覗かせた。

びっくりしている私たちに2人同時に手招きし、梓もともに私の部屋へと足を踏み入れた。


私たちは一つのテーブルを囲んで座っている。

お兄ちゃんは正面にいる梓に深く頭を下げた。

梓は手を横にぶんぶん振って、


「いえいえ! 僕も口が悪くなっちゃってすみませんでした」


と言ってにこっと笑った。

その笑顔によってこの場が和んだように感じたのは気のせいだろうか。


お兄ちゃんは姿勢を正し、正座に変わった。

ここからが本題だよ。

そう言ってお兄ちゃんが言ったのは、


「葵、お前は梓くんと付き合ってるのか? 想いは伝えられたのか?」


というストレートな言葉だった。

私と梓、そしてなぜか唯紅も飲んでいたカフェオレを吹き出しそうになる。


「み、碧さん? 今話さなくても……」

「そうよ、梓くんの前で告白まがいのことさせなくても……」


2人はお兄ちゃんに苦言を呈したが、そんな2人を私は手で制した。


「梓さん、唯紅さん、お気遣いありがとうございます。

でもお兄ちゃんには元から伝える予定でしたので……。

うん、私はグランプリを獲得した後にしっかり想いを伝えて、お互いの想いも知り合うことが出来たよ。

今まで恋なんて関係ないと思っていた私に新しい感情を芽生えさせてくれた梓さんは私のオアシスだよ、ちゃんと分かってるから安心して」

「そうか、俺は葵に後悔させたくなくて全部全部指示してやらなきゃって思ってたんだけどもうお前も成長したんだよな……。

おめでとう、これから葵をよろしく、そしてありがとう」


お兄ちゃんと梓はまたぺこぺこ頭を下げ合っている。

だが私は今日お兄ちゃんと唯紅と会ってから気付いていた。


私はそっと目の前にいる唯紅の服の袖を引っ張る。

それに気付いた唯紅は私に視線を向けて微笑み、どうしたのというような顔をしてみせた。

私は口をぱくぱくさせて言った。


『唯紅さん? 本当のことを言ってください』と。


彼女は驚いたように目をぱちくりさせ、苦笑した。

そしてお兄ちゃんを小突いて、


「ねぇ碧。葵ちゃんには全部勘付かれてるけど?」


と言った。

なにもわからない梓は私の方を向いたがひとまず無視する。


唯紅とお兄ちゃんは腕を組み、素晴らしい笑顔になった。


「私たち、私の誕生日に結婚することになったの」


その言葉を聞いた梓は、口を開いたままになっていた。


「……ん?」

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