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十センチメートルである。

私は今超難題に立ち向かっている最中だ。


「なにこれ……xとyが?」

「どうした? どの問題? 教えられる問題なら教えるけど」

「このP.157の問九」

「ああこれね、良くみんな引っかかりがちなんだけど、xはこうでしょ?」

「ふむふむ……」


お互いに顔を寄せ合って梓が白紙に図と式を書き連ねていく。

その言葉と字はわかりやすく、この問題がまったく難しいとは思えなくなってきた。

あっという間に解けたが、きっと自分1人だったら思いつかなかった解き方だっただろう。


「すごい! わかったよ、ありがとう!」


勢い良く上を向くと、私たちの顔は十センチメートル程度の距離にあった。

うわっと言って同時に後ろに退く。

彼は私の顔をちらっと見ると口に手を当てた。

どうしたんですか? そう聞くと、


「顔、まっか」


え……確かに触ると顔は熱く火照っていた。

顔を手で覆って少し経ってから指の間からちらっと彼の顔を見ると、目が合い今度は梓がまっかになった。


「ちらっと見るとかだめ、反則」


そう言って私の手を掴んでずらした。

私今いつも通りめがねのおさげのダサい女なのに。


ちょっとだけ気まずい雰囲気になったところで下の階から、


「ご飯出来たからキリ良いところで降りてらっしゃーい!」


というおばさんの声が聞こえた。

はーいと返事をした梓についていき、リビングに入る。


そこには美味しそうな匂いが充満していて、真ん中のテーブルにはおばさんと見たことのない女性が座っていた。

そうめんとごまだれ、そしてきゅうりや錦糸卵が並んでいる。


「ごめんね大したもの出せなくて。ほらほら座って!」

「失礼します……あの、こちらの女性は……?」

「あ、どーも、かえでです、梓の姉です。梓、お前彼女できたんだな」

「彼女じゃねーよ! ……今は」


最後の今は、というのは余計だ。

派手だけれど美人の楓はどこか梓に似ていた。

楓を見ていると、いきなりずいっと近寄って私の顔を眺められた。


「あなたすごい美女じゃない」

「やっぱ楓の目はすげぇよ……。

あのな、楓はなぜか美男と美女には一瞬で気付くんだよ」


すごい特殊な特技を持ったお姉さんだなぁ。

そう思いながら四人で手を合わせる。


「いただきます!」


四人で食べるそうめんはやっぱり美味しくて、ついもくもくと口に運んでしまった。

美味しい? と聞かれ、


「美味しいです!」


と即答した。

そんな私を見ておばさんはにかっと笑って嬉しそうにした。


「ごちそうさまでした!」


ごちそうさまをしてからすぐにおばさんは店に戻る。

その途端楓が私の方を勢い良く振り返り、目を光らせた……気がした。


「な、なんですか?」

「メイクのし甲斐がありそうね、あなた!」


そう言って楓は私の腕を掴んで『Kaede's room』と書かれた部屋に連れられた。

そして真ん中にあるきらびやかな椅子に座らされ、彼女は大きなメイクセットを近くの棚から取り出した。


「よし、絶対に動かないでね、可愛くしちゃうから」

「いや結構です……」


私の断った言葉も聞かず、楓はさささっとメイクを施している。

髪も解き、くしで梳かしてからおだんごにする。

こんなふわふわと軽いおだんごヘアにはしたことがない。


楓は異常なほどに手際が良く、一瞬で終わった。

ほら、そう言って差し出された鏡を見ると、別人のような私がいた。


「わぁ……!」

「どう、気に入ってくれた? 元が良いんだし、活かせて良かった。

よしじゃあ行くか!」

「え?」


また強引に腕を掴まれ、隣の部屋に移動する。

ここは梓の部屋。


「あんたの好きな感じのメイクにしてあげたよ」


そう言われて振り返った梓は、絶句したのだった。

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