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地味な雑草は眼鏡を外すと美しき薔薇だった。  作者: 梅屋さくら
Episode6.新たな恋と情熱だった。
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初の横浜デートである。

今日は土曜日。

オーディション本選の前日、ということもあるが……。


「梓! どう思う、このファッション! おかしくない?」

「おかしくないから、大丈夫だから」

「本当に? 嘘とかいいから、本音言って!?」

「だーかーらー、嘘じゃないってば!」

「なに怒ってんの? 意味わかんない、茜ちゃんと大違いだね、あんた。

……えへっ今日茜ちゃんと会えるんだっ」


梓が苛立っているのは仕方がないのでは、と側で見ていた私でさえ思った。

楓は何度も何度も梓に服は大丈夫か、髪は崩れていないか、メイクははみ出していないかと同じことを聞いていたのだ。


茜とは違うと言ってからまた彼のことを思い出したらしく、にやけが止まらなくなって来ていた。

今は好きの気持ちがピークに達して溢れ出している。

そんな少しにやけた顔のまま、楓はデートへと出かけていった。

場所は……横浜。

メイク道具を見に行くデートらしいが、それにはおしゃれな横浜はうってつけらしい。

ついでに2人とも中華料理が好きだということもあるかもしれない。


楓を見送った後、梓が私の耳元でこう囁いてきた。


「なあ、楓のデート、ついていかねぇ?」

「そ、そんなこと、許してもらえるとは、お、思えないのですが……」

「許し? そんなんいらないよ? こっそり後をつけるから」

「それって……尾行、ということでしょうか……?」

「簡単に言うと、な! ちょっと尾行って犯罪みてぇだから」


尾行でしょ、犯罪でしょ、と思いつつなにも言わなかった。

梓はもう止められない。

だって目がこんなにも輝いているのだから。


私は金髪のウィッグを被ってメイクをがっつりと施し、露出が多く、派手な服装を初めて着させられた。

梓はいつもの私のようにセットしないままのマッシュルームヘアに黒いパーカー、黒いTシャツ、黒いズボンという全身黒ずくめ。

彼は大きなメガネもかけていて、かなり梓の派手な雰囲気は消えていた。

という私も、地味さが消え失せて完璧なギャルになっていた。

でもやっぱり人がたくさんいるところは怖いので、大きなヒョウ柄のサングラスをかけた。


「じゃあ行こうか、楓の待ち合わせ場所へのルートとかは調査済み」


すごい用意周到さを見せた梓は、とても悪いことを企んでいるような顔をしてこの家を出て行った。

私も走ってその後を追った。


楓と茜の待ち合わせ場所は近くの駅にある偉そうなおじさまの銅像前。

精一杯おしゃれに可愛らしいスカートを履いた楓は、今までに見たことがないくらいの笑顔を見せて、茜に手を振っていった。

茜はかなりイメージ通りの白いベストとブラウンのパンツという男らしいというよりかは可愛らしい服装だった。

楓たちが照れ合いながらさりげなく手を繋ぎ、はにかんでから電車に乗り込んで行った。

私たちはそれにこっそりついていき、隣の車両に乗った。

初め2人はぎこちなく目を合わせないようにしながら話を頑張って探していたが、そのうち普通に会話を楽しめていた。


横浜に着き、また2人は歩き出した。

茜から手を繋いで歩いていたが、楓はその手を解いて腕を絡ませた。

茜はその密着度に固まっていたものの、とても嬉しそうで仲の良いカップルという印象を受けた。


時刻は10時。

まだ腹ごしらえには早い時間のため、道横に連なる店をゆっくりと見て行っていた。

ウインドーショッピングをしながらずっとずっと歩いて行く。


とある店の前で、2人はほぼ同時に足を止めた。

店の名は『Star t』で星型をモチーフとしたメイク道具や服がずらりと取り揃えられている。

きっと星の意味の『Star』と、始まりの意味の『Start』を合わせているのだろう。

その店に自然と吸い込まれるように入っていった2人。

私たちも同じタイミングで入るわけにもいかず困ったが、店内は思ったより広かったので少し間を空けて入店し、棚に隠れて2人を見ていた。


「これ見て! このチークとアイシャドウ、星型のラメが入ってるんだって!」

「このリップはオレンジと黄色のグラデーションだ!」

「欲しい、けど……買っちゃう?」

「んんん……僕は要らないかなぁ、もっとピンク系のアイテムが欲しいから。

楓さんが欲しいなら……」


茜は楓の手に握られたチークとアイシャドウ、そしてリップを手に取り、レジに向かった。

慌てて引き止める楓をよそに、さっさと会計を済ませる。

これまたおしゃれな紙袋に入った道具を差し出し、


「これ、僕から今日のデートのお礼ってことで。

プレゼントしますよ、使ってくれたら嬉しい……な」

「ありがとう……! 明日使うから楽しみに待ってて!」

「うんっ」


2人は顔を見合わせてにこっと笑った。


そんなハートが飛び交う店内にいた私たちは、どこか気まずかった。

でも2人が幸せそうなのは、見ててとても嬉しく感じた。

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