表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/94

碧と梓と私である。

「で、お兄ちゃんにいらいらして家出してしまったのです。

公園で困っていた私に、茜ちゃんが『家に来る?』と言ってくださって……」


どうしても話がまとまらず、15分くらいの長ったらしい話になってしまったのだが、話し終えた後梓は優しい微笑みを浮かべた。

そして私の頭にぽんぽんと手を置き、


「一生懸命話してくれてありがと。大丈夫、疲れちゃってない?」


と気遣ってくれた。

私はついつられて笑顔を浮かべながら、


「大丈夫です。お気遣い、ありがとうございます……」


そう言うと、しばしびっくりした顔を見せてから顔を背け、


「急に笑うなよな〜……破壊力に気付けっ」

「……?」


言葉をずらずらと並べていたが、その大半は意味がわからなかった。


梓は軍手で汗を拭ったあと、私に頭を下げた。


「なんか俺のせいで仲が良かった兄妹を喧嘩させちゃったみたいで……ごめん。

もっともっと考えて考えて、『好きです』って言えば良かった。

今も喧嘩中なんでしょ?」

「はい、家に帰りたくなくって……」

「じゃあ今日これ終わって俺の部活も終わったら葵ちゃんの家行って良い?

今日もお兄さんお休み取ってるかな?」

「それはわかりませんが、かなり疲れていた様子なので休んだのではないかと……あ! そうだ!」

「ど、どうしたの……?」


思い出した、私が公園にいたとき、唯紅がやって来たことを。

そして彼女は言った、『碧に謝りに来た』と。

もしそれで2人が仲直りしてしまっていたら、お兄ちゃんはもう家にはいない。


「元はお兄ちゃんの彼女の唯紅さんと喧嘩したからって私の家に来たんですが、昨日唯紅さんはお兄ちゃんに謝りに来たって言っていたので……。

もう仲直りしていたらお兄ちゃんは唯紅さんの家に戻ってしまっています……」

「じゃあ早く帰らないと会えないってこと?」

「ま、まあ、そうなります、ね……」

「うおぉっしゃぁ、本気出してこの罰終わらせて、すぐ碧さんに会いに行くぞ!」

「部活動に出席するのではないのですか……?」

「今日は特別! 休んで行くから。

……そんな悪いことしたような顔するなよ。俺が勝手に休んだんだし、ね?」


と、優しく子供を諭すように言って、ウインクされた。

私に罪悪感を感じさせないようにしてくれたらしい。

彼はひょうきん者のように振舞ってはいるものの、中身はとても人想いで良く考えられる人だと私は思う。


彼は言った通り一瞬で草むしりを終えて部活を休んだ。

私の家に来たことがないことに今さら気付き、また一緒に帰る。

こんなところなんだ、そんなことをつぶやきながら梓はついてきていたが、お兄ちゃんと話をするからかどこか緊張していた。


マンションに着いた。

焦って階段を上ると、私の部屋からは光が漏れていた。

はっと2人で顔を見合わせてドアノブを回……そうとしたとき、力を入れてもいないのにドアノブが回った。

慌ててドアの前から退くと、中から唯紅が出て来た。

その顔は嬉しそうで、少し急いでいる様子だった。


「わっ、葵ちゃん? ごめんね、大丈夫!?」

「だ、大丈夫です……どうしたのですか、こんな時間に」

「仲直り出来たの! でね、今この家に私の荷物をちょっと持って来ようと思って」

「なんで唯紅さんがここに荷物を……?」

「これ言っちゃいけなかった、んだけど……碧が『葵が帰って来るまでここにいる』って言ってて……。

すぐに会ってあげて、かなり寂しがってる」


唯紅は、部屋の中を指差して微笑んだ。

そして、私の後ろにいた梓に会釈だけして帰っていった。


「では、どうぞ」

「お邪魔しまーす……」


私たちはびくびく恐れながらも、そんな様子は微塵も見せずに堂々と入っていった。


「ただいまー」


普段通り大声で叫んだ。

すると、ばたばたとトイレの方から音がして、ベルトがだらしなく外れているままのお兄ちゃんが出て来た。


「葵……っ!? おかえりなさい、待ってたんだよ!

……って、また君か。なんでお兄ちゃんの言うことに従わないんだ」


一瞬はいつも通り妹想いのお兄ちゃんだったが、梓をその視界に入れた途端に態度ががらりと変わった。

私を睨みつけて、異常なほどの迫力を感じる。


「あのお兄さん」

「君にお兄さんと呼ばれる筋合いはない」

「あっはい……」


決心したように顔をきゅっと引き締めて話し始めようとしたのだが、お兄ちゃんにびしっと言われて心をあっという間に折られた。

私はもう諦めてしまうのではないか、そう思って不安になったが、


「碧さん、 この間は何も考えず好きだなどと言ってしまい、すみませんでした。

信じられないのかもしれませんが、僕は本当に葵ちゃんのことが好きなんです」

「葵の好きなところが顔だけなんじゃないのか?」

「いえ、彼女の聡明さや一生懸命さ、人への気遣いが出来るところ、すべてを尊敬し、素敵なところだと思っています」


2人でなんて恥ずかしいことを言っているの。

そんなことを思いつつ間であわあわと2人の顔を交互に見ていた。


2人はどうなるのかな……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ