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遅刻ペナルティである。

隣でずっと悩んでいる茜の細くて小さな肩に手を伸ばし、顔を覗き込んで、


「どうしたのですか……?」


と問うた。

すると、びくっとしてこちらを怯えたような目で見た。

なんだか小動物をいじめてしまったような気分になったが、やっと魂を取り戻したようだ。


茜は慌てて話したが、あまり意味がわからなかった。

あうあう言っていて、呂律が回っていないかんじ。

たぶんなにか隠している……それはさすがの私の目にも明らかだった。


「なにか悩み事があるのなら……わ、私で良ければ、そ、相談に乗りますが……」


噛み噛みエンジン全開で勇気を振り絞って言った気遣いの言葉は、戻ってきた梓によってあっけなく掻き消された。

茜は初めの方だけ聞こえたらしく、聞き直されたがもう一度なんて無理無理。

『何も言っていません』、そうやって無理矢理言い訳してどうにかした。

……と思ったのだが、


「相談に乗っていただけるということですか?」

「……え?」


普通に私が言ったことを聞き取れていたらしかった。

だったらもう一度なんて聞かなくても良いではありませんか……!

少し怒りがこみ上げて来たとき、


「いえ、先輩には意味がわからないと思いますので結構です」


とさらっとひどいことを言われた。


私が茜の言葉を聞いてショックを受けている図を静かに見ていた梓が、


「今日はどうして2人一緒に来たの?」


とまあ当たり前の質問を投げかけて来た。

そうだ、彼にはお兄ちゃんの姿を見られている。

そして昨日の初喧嘩の原因は、梓の『葵ちゃんが好きです』という言葉にあった。

彼になら言っても良いのではないか、彼になら言うべきなのではないか。

そんな思いが私の脳内を駆け巡る。

……少し経って決断した、言おう、と。


そう決めたは良いが、ここには茜がいる。

どうやって梓と2人きりで話すことができるのか悩んでいると、私の悩みを聞いていたかのように予鈴が鳴ってくれた。

急いでそれぞれのクラスにわかれ、茜とは早々に別れた。


私と梓が並んでクラスに入ると、みんなもう席についていてこちらを一斉にじろりと睨んできた。

なんでこんなに固まったかのような目をしているのか、そう不思議に思いつつもふと時計を見上げる。

それと同時に私は声を上げた。


「あっ!?」


びっくりして梓がこちらを向く。

どうしたの、そんな風に言っている気がした。

私は時計を指差した。

その指し示す先を追っていった梓は、


「あっ!?」


と、私と同じような間抜けな声を上げた。

その理由は簡単だ、今時計が表す時刻、イコール登校時刻だったのだから。


今日は優しい担任は出張で、運悪く学校の規律に厳しい先生が担任役を務めていた。

昼休みに人だかりを見つけ、何事かと覗きに行ってみると掲示板に1枚の紙が貼られていた……。


『以下の生徒は遅刻のため今日の放課後、学校裏草むしりを命じる。

2年3組 猪瀬梓、2年3組 和泉葵』


ちょうど同じときに掲示板を見に来た梓が私を見つめてため息をついた。


「まぁ、頑張ろっか、ね……」


そのうなだれようは半端ではなかった。

だが私は好都合だと考えていた。

2人きりで話せるチャンスだ、と。


放課後、2人で学校裏に向かった。

そこは初めてその存在を知ったが湿っていて草が生え放題の地獄のような場所だった。

1人1つ鎌を手に黙々と作業を開始した。

軍手しているとは言っても、この草の臭いが充満するところにいるというのは苦痛だ。

ついつい咳き込んでしまうと、梓が心配してくれた。

大丈夫、そう言うついでにお兄ちゃんの話を切り出した。

その間彼はいろいろな表情を見せつつ、手は動かして草むしりしつつ、しっかり聞いてくれていた。

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