告白見学である。
茜と一緒に登校していると、眠そうにあくびする梓とばったり会った。
そしてふと彼がこっちを見て、
「おっ、2人一緒に登校なんて珍しいじゃん! おはよーさーん!」
と、腕をちぎれそうなくらい激しく振った。
真っ白い歯がちらっと覗いた。
その姿を見たとき、なぜか胸がぎゅっと締め付けられるような気がした。
そこから学校まで3人で歩いて行った。
すると、後ろから誰かに引っ張られた。
隣には茜も同じように無様な格好で後ろに倒れかけていた。
梓だけが真っ直ぐ立っていて、元私たちがいた場所に背が高くスタイルの良い美女が顔を赤くしていた。
上目遣いで梓をじっと見ている瞳を見ると、なにかが嬉しいのだろう。
「あの人、なにが嬉しいのでしょうか。ずっと笑顔で見つめています」
私たちを捕まえていた人たちは梓の方へ行った。
解放されて自由を手に入れた私が茜に聞く。
するとあからさまに引いたような顔を見せて驚かれた。
「本当に葵先輩は鈍いですね……!
あの女性は梓さんに『恋』をしていて、これから『告白』をしようとしているのです」
茜は恋、や、告白、という言葉をゆっくり強調して言った。
私そこまで鈍くはないと思うんだけど……?
「『告白』ってあれよね?
好きな人に自分の好きという気持ちを伝え、それからの親密な関係に発展させるための勝負のようなもの」
「そんな堅苦しく考えなくても……!
好きですと言って、付き合ってもらえますかと言うのですよ」
そんな私の成長にぴったりな場面がこの目で見られるなんて!
女性には失礼だがそう思うしかない出来事である。
良く見るとあの女性はどこかで見たことがある。
そうだ、3年生で1番の美女と名高い佐藤先輩だ。
つい最近の話だが、トイレの中で今モデルやアイドルをしているという噂を聞いた。
それほどの美女が梓に近寄って行き、ある程度距離を詰めてから見えないほどの速さで動き、梓に抱きついた。
彼の大きな胸に顔を突っ込み、なんとも嬉しそうである。
すっと梓は先輩を突き放した。少し手慣れているのは気になるがまあ良い。
うっすら離れてしまって悲しそうな表情をしていたが、制服のポケットから可愛らしいデザインの手紙を取り出した。
それを胸に抱え、ここにまで聞こえるくらいはっきりと大きな声で言った。
「あなたのこと、入学式からずっと好きでした!
あなたが良ければ私と……付き合ってください……っ」
こんなに嬉しいことはないのだろうと思った。
だって3年生一の美女が告白してくれたのだ。
はい、お願いします。その声が聞こえるのを待っている自分がいた。
だが実際耳に入ってきたのは真逆の言葉だった。
「すみません、俺には今好きな人がいるので。
さらに先輩は新入生潰しで有名な方ですよね、そんな方とお付き合いしても俺が汚染されるだけなので。
では、さようなら、ありがとうございました」
汚染されるなんて喧嘩を売るようなことを言うから、先輩の顔は瞬く間に先ほどとは違う意味で赤くなっていった。
私たちをうしろのほうに連れ去った先輩の取り巻きが佐藤先輩の手を掴んで、
「あんなやつ、付き合う意味がないわよ、ただの顔だけイケメン!」
「そうだよ、もっと良いやつ見つけて、自分も今の何十倍も綺麗になって、今振ったこと後悔させてやろう!?」
「そぉね! お前なんて私を好きにさせてやるわよ」
「は、はぁ……」
あんな美女に告白されてもオーケーしないとはどういうことなのだろう。
私の隣で茜が悩む仕草をしていた。
だが何についてそんなに悩んでいるのか。
……考えてもまったく思い当たることがないのだが。




