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柚葉の恋である。

今私たち3人は、如月家のリビングにある丸い可愛らしいテーブルを囲んで座っている。

そのテーブルの上には湯気を立てているココアとチョコチップクッキーがある。


「……で、葵ちゃんは家に泊まることにしたのね」

「はい、相談もせずにお邪魔してすみません」

「良いの良いの! 楓ちゃんのお友達だし、茜の言うことももっともだし。

まあ2人ともいつもと雰囲気変わりすぎだけどね……」


雰囲気変わりすぎ、とは私と茜の見た目のことである。

私も眼鏡を外したまま三つ編みを解いたのでオーディションの時の格好をしている。


柚葉は昨夜から病院に勤めていて、翌日、つまり今日の夕方にやっと帰れることになったらしい。

彼女は看護師モードのままなので、髪型はきっちりとお団子にしている。


「聞いて良いのかな。どうして公園なんかにいたの?」

「え、っと……。お兄ちゃんと喧嘩したからです」

「なんで喧嘩しちゃったの?」


この流れは当たり前だと私でも分かる。

喧嘩しました、と言われたら何があったのかと聞くのが普通だ。

それなのに理由を言わないのも悪い気がするし……。

そんな風に無言で悩んでいると、慌てたように手をばたばたと振って、


「言いにくいなら言わなくて良いよ、言いたくなったらいつでも私たちを頼ってね」


と優しく微笑んだ。

その笑顔と優しさについ私は、


「柚葉さん、すごく可愛らしくて綺麗な方ですね……」


とつぶやくと、彼女は頬を真っ赤に染めてうつむいた。

そして私の耳元に口を近付けて、やっと聞こえるくらい小さな声で言った。


「私今ね、職場の先輩医師が好きなんだ……」

「ええ!? ……どんな方なのですか?」


思わず私が大きな声を上げてしまった瞬間、柚葉は茜の方をちらっと気にしながらしーっと口に人差し指を当てた。

慌てて声を抑え、尋ねてみる。

すると真っ赤な顔をさらにゆでだこのようにして、


「永澤先生、っていう私より4歳年上の方なんだけどね……」

「永澤先生……。それって晶子さんの主治医の先生ですか……?」

「そうそう、そっか、葵ちゃんも知ってるんだったね!

私が前患者さんのカルテを間違えてしまったとき、あの先生に肩を抱えて『俺がしっかりしなきゃいけなかったのに、如月さんが怒られてしまったね、ごめん』って言われて。

ああなんて優しい人なんだろうって思ってどんどん好きになっちゃったの」


そのときのことを思い出すと同時にそのときの喜びやドキドキまで思い出したようで、にやけ始める。

ぽーっと空を見上げ、とろんとした瞳に変わり、きゅっとしめられていた口もへにょっと緩む。


あのね……。

彼女がそう話し始めた途端、私たちの間に入ってきた茜がむっとしたような表情で、


「なんの話してるの? 僕に隠れてひそひそと……」


と話を途切れさせたため、柚葉は自室へと向かっていった。

柚葉が私の横を通りすぎるとき、


「夜私の部屋で一緒に寝ましょう……」


と、そっと誘われた。

びっくりした顔で柚葉を見つめると、また優しくて可愛らしい笑顔になった。


「なんだよー、2人とも僕のことだけ仲間外れにしてさぁっ」


柚葉が自室に入りドアを閉めたとき、茜がそうぼやくのが聞こえた。


リビングには私と茜だけになったが、なぜかそこまでの緊張は感じなかった。

それは茜が私に気を遣ってくれてか、たくさん話しかけてくれたからかもしれない。


「ずっと忘れてたんですけど、葵先輩あれから大丈夫ですか?」

「あれとはなんの話ですか……?」

「忘れていたのですか? 前2人で掃除用具入れに入ったとき、女子のみなさんが先輩に天罰を下すって言ってたことです」


以前私と茜で聞いてしまった会話。

私に対して強い怒りを持った女子のグループは、私に『天罰を下す』と言って暴力を振るうと言っていたこと。

言われてみればそんなことあったような……。


「絶対そろそろ動き出すと思うのです。

なにか対策を考えなければならないんですよね……」


茜の言動から見て、本気で私を守る方法を考えてくれているようだ。

それだけで嬉しいのに……そう思った。

『如月家である。』で両親に関することが出てきましたが、

それより前と大きな矛盾が生じてしまいましたので、

修正いたしました。

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