これが恋? である。
私が制服のスカートの裾を指でいじりながら悩んでいるのを見ていた唯紅がいきなり直球の質問をぶつけて来た。
「今葵ちゃんは好きな人とかいないの?」
「へ……っ……!?」
「びっくりしすぎよぉ! 私誰にも言わないから。どうなの?」
ブランコを横に動かし、私に近付く。
耳元で口を押さえながら聞かれたが、唯紅の顔を見ると『にやり』という言葉が似合うくらいのにやり顔。
明らかに……。
「おちょくっておりますね……?」
私もブランコを動かして唯紅とまた少し距離を取る。
おちょくっている、という指摘に、彼女は大げさに目を見開き、口をまん丸に開けるびっくりしたという表情をしてみせた。
「もう、失礼しちゃうわねー。気になって何が悪いのよっ」
頰に空気をたくさんため、リスのようにぷーっとする。
この女性のこういうところ……26歳とは思えないほどのお茶目さと私と同じ目線に立って話してくれるフレンドリーさ、そして男勝りでどんなときでも味方になってくれる優しさ。
こんな女性は唯紅以外にいないのではないか、今でも心のどこかでそう思っているくらいにかっこいい人だと思う。
それからも好きな人はいるかと楽しそうに聞かれたが、私は無言を貫き通して唯紅に勝ち、折れてくれた。
そしてふと思いついたように尋ねられた。
「なんで碧と喧嘩したの? この頼りないお姉さんに話してみな、ね?」
私の顔を覗き込み、にっと笑ってウィンクされ、私はつい話そうと思った。
唯紅の笑顔はなにを相談してもなんでも真面目に受け止めて答えてくれると思わせる謎の力があるのだ。
「……お兄ちゃんにそこまで言われるのっておかしいんじゃないだろうか、そう思って今までにないくらい頭に来ちゃって。
初めてお兄ちゃんに口答えして逃げて来てしまったんです……」
梓と帰ろうとしていたことからお兄ちゃんに対してすごくイライラしたこと、そして私は逃げてこの公園に来たことまで、すべてを話した。
まとまりのないグダグダと長い話になってしまったが、その間も相づちを打って私とお兄ちゃんの喧嘩に真摯に向き合ってくれた。
私が話し終えると、
「葵ちゃんはその梓くん? のことを意味もなく悪く言われて碧に対してすごくすごーく強い怒りを感じたんだね?
それで、つい『黙れ』と言ってしまった、と……」
「はい、そうです。
梓さんの優しいところや頭の良いところを知らないくせになんでそこまで馬鹿にされなければならないのと思ってしまいました……」
そうかそうかぁ。
気の抜けた優しい声でつぶやく唯紅。
顎に手を当てて空を見て、しばしなにかを悩む。
ふと私の方を向いたとき、なぜか少し彼女は笑っていた。
「どうしたのですか……?」
「あ、ごめん、私笑っちゃってた? 馬鹿にしたわけじゃないのよ!
いやぁ……青春だなぁって思って」
青春? せいしゅん? セイシュン?
私の中で青春とは片想いしたり告白したり付き合ったりし、相手の一言や一つの動きに感情が大きく左右される無意味なもの。
主に勉強が恋人の私とは正反対のちゃらちゃらした女の子たちがするもの。
あまり良いイメージもない。
「青春って……どういうことですか?」
「えー言わせちゃうのー? 考えてみて。どう、なにか思い当たらない?」
考えてと言われてもまったく思い当たらず。
ほとんど考えることもなく首を横に振った。
するとはーっとため息をつく……が、本気で呆れたようなため息ではなく、それは少しふざけたようなものだった。
「それ、葵ちゃんはその梓くんに恋してるのよ」
「恋なんて私、するわけがないですよ……」
「そうやって思い込んでるから気が付かないんだね。
でもその人を大切にしたい、悪く言われたくないと強く想う気持ち、それが恋だよ」
まっすぐ私の瞳を見て話す唯紅。
私が恋なんかにうつつを抜かすわけ……そう思った。
「いえ、すみませんが私は恋なんてくだらないことに割く時間なんてありません。
絶対的な自信があるので言いますが、私が恋なんてありえません」
私がそう強い口調で抗議すると、少し変な顔をしてふぅっと息を出した。
そして私の方をちらっと見てまたにやりと笑い、
「そんなに認めたくないんだ? でも、別に良いよ。
どうせまたすぐに恋してるのかもって意識するときが来るから。
んじゃあ私は碧に謝りに行って来るからじゃあね」
「は、はい、頑張ってくださいね」
いきなり荷物をまとめて手をひらひらと振って公園から出て行った。
少し先で彼女は私を振り返った。
そのとき彼女に言われたことは……、
「恋は早く気付いた方が良いと思うよ?」
うるさいなーとまでは言わなかったが、心の中で、
「それくらいは分かってるよ」
と言い返していた。




