笑顔のためである。
「な、なんにもアイデアが出ねぇ……」
私たちはカレー店で頬杖をつきながらどうしたら落ち込む茜を励ませるかということを考えていた。
普段から友達にサプライズを用意したりしていると言っていたので実は心の中で梓に期待していたのだが、まったくだめなようだ。
「お待たせ致しました、キーマカレーのお客様」
二人で考えることを放棄した瞬間、私たちのご飯が運ばれて来た。
私は一日分の野菜が入っているというスープカレー。
中にはごろごろとしたナス、トマト、かぼちゃなどがたくさん入っている。
二人同時にいただきますと手を合わせ、食べ始める。
カレースープに浸されたサフランライスは柔らかくなっていて、まるでリゾットのよう。
カレーは色の割には辛く感じたが、その絶妙な辛さが美味しかった。
実は私って辛党? なのかもしれない。
もくもくと箸を進めて行っていると、梓が私をじーっと見ていた。
理由もわからないので私も梓を見つめ返していると、
「美味しい?」
と微笑まれた。
ほっぺに両手の人差し指を当ててとんとんと二回つつく仕草はまるで幼稚園児のようだ。
普段学校ではかっこ良いと言われているが、可愛いとは言われていないのを思い出して不思議に思う。
みんな……本当の梓を知らないのだろうか?
私たちはカレーを食べてすぐにまた病院へ行った。
専門家であるここの精神科医の先生に、どうしたら良いか聞きに来たのだ。
入ろうと思ったとき、今日すでに聞いた声が聞こえた。
「茜の友達の……また偶然会いましたね、こんにちは」
「柚葉さん! 俺たち、茜ちゃんを元気付けよう、そう決心したんですけど……」
「待って、話は近くのカフェで。どうですか?」
柚葉おすすめだという近くのカフェ『Bambi』に行く。
中は木や植物といったインテリアが目立ち、看板にあった『自然の庭』というコンセプト通りの店だ。
私は抹茶ラテ、梓はオレンジティー、柚葉はロイヤルミルクティーを注文してすぐに先ほどの話の続きを話す。
自己紹介していなかったことに気付き慌てて自己紹介。
なぜか敬語を使われていたのでため口で良いですよと言った。
お互いを葵ちゃん、梓くん、柚葉さんと呼び始め、少し距離が縮まった気がした。
ずっとなにも言わずに話を聞いていてくれていた柚葉はふと口を開いてこう言った。
「茜の誕生日、いつだか知ってる?」
今のこの複雑で重要なことを相談しているのに。
彼女のおっとりした雰囲気に少しだけイラつきを覚えつつ知らないと正直に言う。
するとにっこり笑って、
「明後日の日曜日、茜の誕生日なの。
だから……ね? 使えるんじゃないかな?」
「使えるって、ど、どういう……?」
柚葉の嬉しそうな笑顔の意味がわからずぽかんと口を開ける私と梓。
梓はまったくわからず問い返したが、柚葉は笑うばかりで答えてくれない。
だが私ははっと閃いた。
ああ、柚葉さんの言っていることはこういうことか。
わかりました、そう言って梓にも耳うちする。
私の考え付いたことを聞いた梓は納得したように首を縦に振った。
「言ってる意味、わかってくれたかな?」
「はい、誕生日だと言ってなにかパーティのようなことをしてはどうか、ということなのですか……?
サプライズやプレゼントなどをしてみる、とか……」
「そうそう、そういうこと。気付いてくれるか確かめたかったから意地悪しちゃいました、ごめんなさい。
でも、誕生日だからこそすること、やってみたらどう?」
私たちはもちろんこう答えた。
「はい!」
お金まで払っていただいてしまったが、柚葉はこの後友人との待ち合わせがあると言うことでBambiで別れた。
私たちはすぐにメモ帳とペンを取り出して茜サプライズバースデーパーティーの計画を練り始めた。
期限は明後日まで。
また茜の笑顔を取り戻せるように、今から全力でサプライズバースデーパーティー準備に取り掛かることを誓った。
茜だけでなく、柚葉や永澤先生の笑顔のためにも。




