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地味な雑草は眼鏡を外すと美しき薔薇だった。  作者: 梅屋さくら
Episode4.ライバルだった。
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手を繋いで歩いた人ごみである。

その公園で私たちは解散した。

時間は十二時三十分。

本当は今から学校に行っても良いのだが、もう全力でサボることになってしまった。

絶対明日……は土曜日だから学校はないが、月曜日に怒られるだろう。

なにをしていたんだ、そう問われても茜とのことは言わず、どうにかごまかそうとしたが上手い言葉が出てこない。

結局言葉を用意するのは諦めて梓が臨機応変に応じるということに決まった。


「腹減らねぇ? どっか行こうよ」

「いえ、私は帰らせていただきます……」

「待って待って! おごるから!」

「結構です、お金に関して揉め事を作りたくはないので」

「ちょ、待って! じゃあ……茜ちゃんのことで相談があるから!」

「……相談、ですか? それはどのような……」

「ここじゃ話しづらいから来て。個室のカレー店行こう」


私を置いてこの人ごみの中を速歩きで通り過ぎていく。

慌てて追いかけるも人に流されて気が付けば梓の姿は見えなくなってしまっていた。


「梓さん……っ!」


掻き分けながら進んだが、梓は見つからない。

背は低いわけではないが周りには仕事で急ぐサラリーマンばかりでほぼ遠くは見えないと言って良いだろう。

微妙に都会のここだが、特にこの場所は人が多い。


困り果て、とりあえずこの人ごみから抜け出そうと同じ方向に足を進めようとしたとき、後ろから誰かに手首を掴まれた。

後ろを見ても、人の間から腕が伸びているのが見えるだけで誰だかわからない。

少し不安になってその手を振り解こうとしたら、後ろにぐっと引かれた。


「あっぶなかった。ごめんね、置いて来ちゃって」

「梓さん……こちらこそご迷惑をおかけしてすみませんでした」

「じゃ、気を取り直して行こっか」


また置いて行かれないように頑張ろう。

そう気合いを入れたのに彼の手は私の腕を掴んだまま離さない。

その繋がれた手をじっと見ていると、


「繋いでないとまた葵ちゃん流されちゃうでしょ。

ほら、行くよ……ってなんで赤くなってるん……?」

「へっ!? そんなことないですよ……!」

「ふーん、そーお?」


にやっとしてこちらを見たことを考えると、もしかしたら梓は私のことを信用していないのではないかと思う。

いや、絶対信じていない。

今も私の前にある緩んだ顔からすぐに分かってしまう。


そんな梓を問い詰めることも出来ないほどの速さで歩いて行く。

ついに歩くだけではついて行けなくなって小走りで頑張る。

慌てる私に気付いた梓は少しゆっくり歩くようになる……かと思いきや、そのままの速さで私を引っ張る。


「ごめんね、ここ急いで抜けないと俺もどっちに行けば良いか分からなくなる」


ちらっと振り返り申し訳なさそうにされると私もなにも言えない。


「はーっ抜けたー! 大丈夫、足とか痛くない?」

「ぜんぜん大丈夫です、手も繋いでくれましたし……」


手を繋いで歩いたおかげで足が痛くなるほど長い距離を歩くことはなかったので、という意味だったのだが、彼はどう思ったか顔を赤くした。


「そういうことは軽く言うなよな……」

「? どうしたのですか?」


耳まで真っ赤なので心配になって顔を覗き込む。

私が覗き込んでいることに気付いたとき、彼は再び私の手首を掴んで歩き出した。

普段とは違う堂々とした歩き方……絶対、無理してる。


「ここ。俺おすすめの個室のカレー店」


そう言って指された店を見ると、それは真っ白な壁に赤、緑、黄色などが散りばめられたカラフルなドットのデザインが印象的な店。

中に入ると、一組ずつ個室の番号を渡されてそこに行く。

個室はほどほどというくらいの広さで、掘りごたつになっていた。


「では、ご注文が決まりましたらそちらのボタンでお呼びください」


店員が下がった後、料理を選んでから梓は話し出した。


「茜ちゃん、すごく落ち込んでるでしょ?

だからケア係の俺らはどうやって元気を復活させるか話し合おうと思って。

あんなに落ち込んでる茜ちゃんは珍しいし、お姉さんとかのこともあるしね」

「そうですね……」


一人一人とりあえずアイデアを出す。

考えている間に梓のほうを見ると、あごに手を当てて真剣な顔をしていた。

本気で……茜に元気付けようかと悩んでいる。


私は彼の人を思いやる心にはいつも感動していたのだった。

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