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地味な雑草は眼鏡を外すと美しき薔薇だった。  作者: 梅屋さくら
Episode4.ライバルだった。
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絶望である。

朝、少し早めに校門に行くとそこにはまだ二人はいなかった。

早く来ないと見つかるでしょう……そう思ったら、校舎の陰で誰かが呼んでいるのを見つけた。

それは口に人差し指を当ててしーっという仕草をする梓だった。

その後ろには小さくて見えづらいが茜もいるのがうっすら見える。


周りを見渡してから小走りでそこへ行く。

今は早すぎて先生でさえ誰も来ていなかった。


「やっぱり早く来るんだな」

「当たり前でしょう、見つかってしまいますし……」

「本当は僕はいつも通りの時間に行こうとしていたんですけど、早く来るか心配だった梓先輩が家まで迎えに来てくれたんです」

「茜ちゃんいつもぽけーっとしてるからな!」


えへへ、舌を出してそう言う茜。

二人で話しているのを見ていると、梓は良い先輩に見えた。


そこでお互いの番号とメアド、そして今梓に登録してもらったLINE IDを交換していると、茜のスマホが鳴った。

メールかと思ったが、電話だったらしい。


「もしもし?」


本人もクエスチョンマークが頭の上に浮かんでいるところを見ると、名前は登録されていない人からの電話なのだろう。

だが少し不安気なのは気のせいだろうか。


「え……い、今どこにいるの!?」


いきなり茜にしては大きな声を出したかと思うと、メモを制服のポケットから取り出してなにやら書き留めた。

手の震えと焦りは尋常ではなかった。


「すぐ行くから待ってて! 僕が……安心させるから」


そう言って通話を終了し、私たちのほうに向き直ってこう言った。

もうすでにそのとき、茜の足は校門へ向かっていた。


「僕の祖母が危篤に……! 病院に走って行きます、すみません!」

「ちょっと待て! 茜ちゃん今日歩きできたでしょ? 俺の後ろに乗ってけ!」


自転車を持ってきた梓の後ろに茜が乗る。

そしてしっかりと腰に掴まり走り出した。

後ろから見送ったが、なんだか彼氏と彼女のようだ……。


茜のおばあちゃん、大丈夫なのかなぁ。

そう考えつつも見送っていたら、


「葵ちゃん! 葵ちゃんも一緒に来て!」

「……え」


私も呼ばれ、ダッシュで自転車を取って来て追いかける。

梓は当たり前だが全力で漕いでいるので速く、追いつけそうになかった。

だが私も本気を出してみたらすぐに追いつくことが出来た。

忘れていた……この自転車、電動自転車だった。


病院に着くと、名前を告げて私たちも病室に入らせていただく。

508号室に入ると、ベッドの上には横になったおばあちゃん。

背は低く、茜の低身長は遺伝なんだと確信する。


おばあちゃんは茜の話によると癌を患っているという。

そのことは本人にも伝えてあるらしい。


口元に耳を近付けてみると、はっきりと息が聞こえた。

だがそれは苦しそうで、ぜえぜえとした雑音が聞こえる。

頰や手を触ったが、あまり温かさを感じなかった。

なんというかまるで……生きている、という生気を感じないよう。


病室に白衣を着た医者が入室する。

なにやら書類を見ながら険しい顔をしている。

きっと茜のおばあちゃんの主治医だろう。


「如月くん、お母さんたちは?」

「また仕事だ仕事だと言って帰って行きました」

「そうか……では君にとても大きなことを伝えておきたい。

それは重くて辛いものだが……お友達も入るかい?」


茜はなんと不安そうな顔をしているのだろう。

つい可哀想に見えてしまい、茜の隣に行って肩を支えて撫でる。

ちらりとこちらを見て、


「はい、ではこの二人も一緒にお願いします。

……先輩たち、一緒に聞いていただいても良いですか?」

「もちろん」


私たちは先生に連れられ、会議室のようなところへ行った。

そこで資料をたくさん見せられる。


「これが今の晶子あきこさんの……」


茜のおばあちゃん、晶子さんの腫瘍はかなり大きく、もう手の施しようがない。

そして今朝さらに状態が悪化し、今まで余命半年だったが今はもう……余命一週間だというのだ。


「一週……間……?」

「はい、長くなったとしても……二週間は持ちません」

「わかりました、では失礼……します」


茜はすぐにこの部屋を出て行ってしまった。

その表情は絶望的で、目はどこか一点を見つめたまま動かなかった。


私たちも茜を追いかけようと席を立ったが、主治医の永澤ながさわ先生に呼び止められた。


「この後の茜くんの心のケアは君たちに任せたいと思う。

昨日も放課後ここに来て、楽しそうに話していたよ、君たちのことを……」


気付けば私たちは手を繋いで泣いていた。

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