とある繋がりである。
「その男だれだよ……?」
ショックそうな顔で聞かれても、なんと言って良いのかわからない。
どうしようか迷っていると、目が合った梓と茜が同時に声を上げた。
「茜ちゃんじゃん!」
「……梓先輩っ! どうしたんですか?」
茜ちゃん? 梓先輩?
理解できない私は一人蚊帳の外だったが、
「あー俺と茜ちゃんは男バスの先輩後輩なんだ。
こいつ普段めっちゃくちゃ地味なんだけど、バスケするとき眼鏡外してヘアバンド着けるとイケメンすぎるって話題……でも葵ちゃんは知らないよね。
可愛い顔と背の低さ、あと口調と高めの声が美少女系イケメンなんだとさ」
「梓さんがバスケ部だってことも初耳でした」
「ま、まじで……? 本当に俺に興味ないんだな……」
「先輩、僕女子のグループに囲まれている方を見つけ、放っておけずついつい乗り込んでしまったんです。
そのときため口や荒い言葉も使ってしまったのですが大丈夫でしょうか……」
肩を落としたままの梓に茜が今さっきあったことを説明した。
女子たちがこの後反撃しに来るのかと本気で心配しているらしく、再び泣き出す。
その怯えようは半端ではない。
「大丈夫だよ、茜ちゃんなら。
柔道黒帯、剣道もかなりの腕なんでしょ?」
「まあそうですけど……」
「え? 茜ちゃんってそんな強いんですか?」
「おう、強いよ。柔道剣道どっちも全国大会出場者なんだって」
人はなんとも見かけによらない。
こんな可愛らしくて華奢に見える茜が柔道と剣道の全国大会出場者だったり、こんなにちゃらちゃらしているように見える梓が成績学年トップだったりしているのを見ていると、なおさらそう考えるようになる。
泣き止んで落ち着いた茜は、思えば自己紹介していなかった私に名前を尋ねた。
「和泉葵です。先ほどはありがとうございました」
「葵先輩ですねっ。いえこちらこそこんな弱々しい姿をお見せしてしまって申し訳ありませんでした……」
もう元の髪はボサボサ、地味な眼鏡をかけた茜に戻っていた。
常に背筋が伸びているのは小さい背を少しでも高く見せるためか。
私と茜が自己紹介して話していたら、そのやり取りを見ていた梓がこう言った。
「二人ってさ、なーんかびっくりするくらい似てるよな」
「どういうことですか? 僕ら性別違うし……」
「地味だ、というところのことでしょうか?」
「いや地味なだけならいっぱいいるけど、2人とも眼鏡外すと変わりすぎる」
「葵先輩、眼鏡外していただいても良いですか?」
「あっ梓さん、それ言わないで……!」
あっさり秘密を暴露され、やっぱり梓は口が軽いからばれたのは最低の失態だったことを思い知る。
茜のきらきら攻撃にやられ、どうしようか迷っていると、二人同時に眼鏡外して、という梓の指令が下った。
まだ覚悟は出来ていなかったのだが、三、二、一とカウントダウンされて思い切って眼鏡を外した。
茜も躊躇いながらも外してくれた。
「ほら、やっぱ美男美女。お前ら変わりすぎでしょ、眼鏡で」
「うわぁ……! 葵先輩ってすごく綺麗な方なんですねぇ!」
「さっきも見たのですが、茜ちゃんは可愛い顔しているのですね」
たしかに私たちのビフォーアフターが変わりすぎていると思う。
茜がふとブレザーから一枚のチラシを取り出した。
それを広げてこちらに見せる。
「実は僕、この『ミステリアスアイドルコンテスト』に出場していて、本選に関西代表としても出るんですが……」
「それ、俺らも関東代表で出てるんだけど……!」
口をぽかんと開けたまま私たちを見る。
せっかくなら見に来ませんかという誘いだったらしいが、私たちはライバルとして出場することがわかった。
話を聞くと、祖母の家のある関西に行っているときにエントリーしたのだという。
「ライバル、なんですね。少し寂しいです。
……でも、梓先輩には負けませんよ」
茜の姉も関西代表だということで、ライバル。
ライバル宣言されて私たちはたじろいでしまった。
この3人の複雑な関係の始まりとでも言うべき出来事だった。




